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【手塚SIDE】
「手塚、バトンパス。ちゃんと捕まえていなければ、距離が近くなっても意味がないよ?」
嫌味を言うのは忘れない。
先ほど昼休み(放課後までさぼりっぱなしと確かめ済みのとちがい、不二は出ていたようだ)会ったときは、いくらきいても彼女の居場所をはかなかったくせに。
にらみつけても、不二はにこにこと微笑んだままだ。
それでも……
「女の子に無理を強いちゃ駄目だけど……女から強請らせるなんて、無粋な真似……君はしないよね?」
脅しという名の、後押しをくれるのは、きっと彼なりに、自分を思ってのことだろう。
そう思うことにした。
後は見えるのは、目の前の……親がいない間だけの同棲相手、のみ。
そして、そんな甘い生活も、後数時間にかぎられているのだ。
シンデレラの魔法よりは残されている時間だが、明日の朝にはシンデレラは帰ってしまう。
でも……
――悪いが不二の策略には乗れないな……。
……」
「何よ」
泣きそうな、今でも半分戸惑ったままの、彼女はあれでやっぱり《初めて》だったし……。それに実にはずかしがりやなのだ。
出来るだけ大切にしたい。
その気持ちに嘘はなく……苦しくなることはあっても、何より甘やかしたいという思いの方が今は大きい。(朝だって哂われるだろうが、本当は口付けで起こすことに憧れていないでもなかった。がらでもないが……)
ただ、
「何もしない」
そんな覚悟で開いた唇は、
「くにみ――」
戸惑った彼女の小さな唇をやはりのみこめてしまえて……そのまま、甘い可愛らしい声をも奪いつくす。
「――とは誓えないな」
苦笑して、抱きしめた自分に、彼女は真っ赤になって怒っているにちがいない。
残念ながら、その顔はみられないが、ふわりと……腕の中におさめてしまった身体は細くて……柔らかい。
「好きなんだから、仕方ないだろう?」
それに、お前は知ってるはずだ。
「誕生日くらい祝ってくれ」
本当は、彼女はコレを狙っていたに違いない。
そう思いあたったのは、さきほどだった。乾ですら、きづいていなかったのかもしれない。
本当の誕生日は数日後。
でも、部活のある自分たちは、近所とはいえ、そう簡単に長い時間をとれない。
ならばこそ、少しでも、と、このチャンスをわたしてくれたことに、なんできづかなかったのか。
半分くらい、勘だったが、背中にまわされた腕が真実を告げる。
「ぎりぎりまで……のばすつもりだったか?」
誕生日が近づくように。
あるいは、「プレゼントは私」のつもりはさすがになかったのかしれない。
……気付いて吃驚して逃げたなんて可愛すぎるが、きっとそうだ。
は、ただ怯えるような少女でもない。
――もしかしたら勘違いで、自分の希望かもしれないが。
それならそれでいい。
彼女はもう自分のものだ。
――その温かさを体温を再びもらえなくてもいいんだ……
「がいる生活が、プレゼントなら、最後にキスくらいはくれるんだろう?」
「馬鹿……」
「その愚か者を選んだお前がな」
「……国光のくせに」
甘える口調に偽りはない。
許された気配がした。
まっすぐ見つめる目は、挑むようで綺麗で……どれもが自分の知る幼馴染をかたどるものだ。
「でも、俺も、男だ」
だから、待てない――。と、再びその唇を指先でなぞれば、少女はくすぐったそうに肩をすくませて「むかつく」と可愛くない口を叩く。
「知ってる」
「でも好き」
「……それも……まあ」
「照れないでよ!」
シャウトつきのそぶりは、何時以来だろうか。
余裕のあるふりをして、余裕がないのは彼女もやはり同じ……
不二の言葉だけでなく、前回も学んだことだったではないか。
「……私をあげるつもりなんて……なかったんだから」
「分かっている」
「でも……」
「期待していいんだろう?」
「……」
無言の返事にこたえて、額に口付けを。
これでお姫様が手に入るのならば安いものだ。
「ソウイウ気障なことするからっ……」となにやら、彼女は憤慨していたが……それもしばらくすればおさまったらしい。
静かに一つ。ため息をおとした。
「…………今日は出来るだけ遅くかえって……」
「――断る」
誕生日にちかづくようにしてくれるのは嬉しいが、時間が限られているから。
告げた答えに三度絶句する恋人の頭をいつものようになでて(実は不二にされているのをみて、しゃくだった。消毒だ)
その後、にやりと……どこぞの誰かのように笑えば、彼女は泣きそうな目をした。
この目がすきで、苛めているのは自分かもしれない。
あまりに意地悪がすぎるとどうなるかわかっているから、もうこれ以上はしないのだけれど。
「少しでも長く一緒にいよう」
まるでプロポーズみたい……。
一拍遅れてぼやかれた言葉に焦るのはこっちだったけれど。
それもまた いつもの試すような調子でなく本心からだったから……
堪えきれず、せめて手をひいて……屋上を後にする。
六時間目は自主休校だ。部活もない。
ここからはタイムリミットまで、二人だけの時間。
一足早いバースデー。
END
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