【SIDE リョーマ】
「……ねえ」
「何?。……っていうかさっきからきいてんだけど?」
話しかけるだけかけておいて、結局何も言わないのってどうなんだよ?
呆れた調子で、何度も同じように答えてやってる自分をみたら、あの先輩たちはどう思うだろう。
彼らが卒業してから、早一年。
何だかんだで、「先輩」になった自分と、その横にいる、「ガキ」な彼女
ひっぱられた袖口を直す気にもならないのは、何も言わないその目がまるで泣きそうだからだろうが、「子どもが子どもの引率をしてる」と笑われかねない。
助かることに身長差はある。
あるが、彼女はあまりに、大人しくて……目立たないというか別の意味で目だって入るのだが……要するにお子様なのだ。
「……だから何?」
何度目かの無言の問いかけに痺れを切らせば、
「先輩……」
わりに好きな呼び方がかえってきた。
――これくらいで喜んでたら……
「、『先輩』はいいって……」
本当は悪くないとおもっているけれど、「他人行儀だし」と付加えたのは、ほかならぬ彼女のためでもある。
『ちいさきゃ誰でもよかったんじゃねーの?』
多分彼女がきにしてたのは、そんな後輩の声。
可愛いけれど妹分でしかない、と笑い飛ばしてたヤツは、多分のことが好きなのだろう。
――幼いやきもちとはわかってるんだけどね…
これくらいで彼女を泣かせてもらっては困る。
だがそうさせてるのは自分でもあるのだ。
――だけど……
小さくて可愛い、より 人見知りで強情が似合う彼女は泣きそうなときが一番いい顔をしてたりするものだからたちが悪い。
こういうふうに、先輩と頼られると嬉しくなるのも……ひとりっこの性質上仕方ないのだが、嬉しくないはずがないのだ。
――苛めて喜んでたら意味ないでしょ?
ふう。
ため息を一つ。
それから、各所の大人気ない知り合い(先輩だの他校生だの)を払拭して、
「……で?何か不満があるんだったらきく。でも、あやまらないよ?」
「……ずる……」
「ずるくない。が悪いんじゃん。『そうかも』って何?」
無口なが言い返す勇気は買うが、内容は許しがたい。
責めるべきでなくても、自分が入ってきたときのの、不安にゆれる目は……あれは信頼をしていない証のようで、胸をつかれたのだ。
「で?」
――謝罪がききたいわけじゃない
多分必死にあやまろうとしてるんだろうが、それならむしろ普段のどじを直してほしい。
――しっかりもの、にみえるわりに、抜けてるし?
気をぬいてみはってなければ食事もとらなくなってしまう、どうしようもない性格をどうにかしろというものだ。
――だから俺がいる?
冗談じゃない。
「俺がかばうまで待ってろとは言わないし、言い返したのは上等」
「……だって本当のことだから」
――本当、ね?
「……。」
何がだ?
「小さいから好きなんじゃないよ。って言ってほしい?」
「違う……」
――だよね。
では何だ? 一体何なのだ。
謝る理由は?
「キスがそんなに嫌だった?」
「…………」
黙られてしまってはたまらない。
これでは認めるようなものではないか。
お子様とはいわないし待つつもりもあるが、本当なら少しだけ泣きたい、と素直に思う。
でも……
「違う……」
――だよな。
それなら、避けることはできたのだ。
皆の前で無理になんてこちらだってする気はなかったから
――……いつもよりは抑えたし。
「…言わないとわかんないんだけど?」
「…………」
「?」
ああこのパターンはいつまで続くんだ?
痺れを切らしても、お子様相手にはどうしようもないのだ。
それからふと気付く。
――小さいとか関係ないじゃん。
がお子様なのは……そう、中身なのだから。
更にいえば、そこが可愛いからじゃなくて……
「ねえ、『本当のことだから』って何?」
「リョーマ、……先輩って呼ばれると喜ぶ……」
「……」
――そうか?
嫌いじゃないが、特別に彼女が不安になるほど変わった覚えはないのだ。何度もいうように。
「……とろいの、馬鹿にして喜んでるもん……」
「はあ?」
――俺ってそんなにサドにみえるわけ?
「……私が頼りなくて、年下だから……付き合ってるのは本当だもん」
「……」
そこまで信頼がなかったか。
目をおおいたくなったのは、自分のせいだろうか?
いや違うはずだ。
実際、は、とろいが……とろさは自分限定であって、一人で何でもこなしてはいるのだ。見かけとは違い、それは部員も認めてるところではないか。
「アンタ、本当に自分がとろいとかおもってんの?」
ふと、『本当』といわれたことが、どうにも納得がいかなくなって切り返す。実際ちがうのに、なぜこうも自信まんまんに 「お前が悪い」とばかりに、『本当のことだから』などと言われなきゃならないんだ。
しかも自分の気持ちを、である。
――コイツ、本当わかってない……
悪態をつきそうになる。
ようやく解けた謎が一つ。
それは、彼女にも分かるはずのことなのだ。
「……そんなことない。けど……リョーマはしょっちゅう――」
――ああ水掛け論だ。
多分彼女は気付いちゃいなかったのだ。
「俺といるからでしょ?」
「……」
だから、ふると目が揺れた。
――馬鹿だ……
本物の馬鹿はどっちか?なんていわずと知れている。
本当の部分もあるのだ。でも違う理由が大半。
「が小さいから、どじだからじゃなくて……俺といるが、不注意になってるから、かわいいんだろ」
「……え……」
「……」
一時の沈黙。
――うわ、はずかしいこと言ってない?
思っても後のまつりというやつである。
でももう言わないと分からない馬鹿にはこうする他ない。
お子様なのだ。彼女は。そう。
――ただし俺の前限定で。
それはいわば、インプリンティングみたいなものなのかもしれない。最初に手を伸ばしたから、ついてくるだけの。
――こっちの方がずっと『本当』っぽいじゃん。
凹むのは自分のほうだ。
「最初の頃はともかく、今は一人で余裕なんじゃない?」
「……え?」
「部活も、クラスも」
「……仲いい子できたから……」
「なら、分かるでしょ?」
どうして、自分の前でだけ、そうも情けなくなるのか。
どうしてそうも駄目になるのか。
彼女は気付いていないにちがいないが、最近は感じ始めていたのだ。
その「可愛い」が、一般的に下のものに対する「かわいい」に似すぎてわかりにくかったし、周囲には分かられにくかったのだけれど……
――が頼るのは俺だけだし。
それに、むくれるのも駄目になるのも、ついでに可愛く見えるのも、全部は「恋」のせいだ。
「お子様の恋愛じゃなくて、お子様になる恋愛なんだよね、アンタのは」
例えば……「先輩」とよびたくないから呼びづらくて、困ってる様子とか。たとえば、構ってくれるからとついつい甘えて適当になってしまう生活とか。
「リョーマ……の馬鹿」
「それがお子様っていわれんだって」
おかしなところで意地をはりながらも、絶対に離さない手を、逆にとってやれば、痛そうなくらい握り返してきて……
「小さいのも幼いのも関係ないし。……第一あいつら(がき)よりずっと上のお付き合いだってしてるじゃん」
「なっなんでそういうこと!」
「言うよ」
俺は嘘は言わないから。
彼女がするように、自分もそうすると決めて……だからこそ成立した関係なのだ。
「我侭はいってもいいよ?」「頼れば?」「どうせ一人じゃできないんでしょ」
「 そのかわり好きにさせてもらうから 」
「…………って言ったろ?」と、足した、最後は聞こえてないはずだ。
口にするよりさきに、手が動いてた。
言葉を先に吐くより、唇が先に動いていた。
――馬鹿?
その小さな赤い唇がねだるように揺れるのに、これで子どもとはよくいえたものだ。
さっきは手加減したけど、今は二人きりだから。
――手加減はしない
だから、せいぜいしがみついてればいい。子どもの抵抗なんて……少女の抵抗なんて、「可愛く」しかないんだから。
「……気づいたら?いい加減」
――は我侭なんだって
離れるときに、囁いた声には素直じゃない抵抗が一つ。
耳元にやられた「かぷり」……は、とっておきの武器になっている。
――ばれたらばれたで……厄介かも……。
彼女の、可愛い、その我侭は凶器。
END
オマケのVD VER 続き
「それで?」
「え?」
「あるんなら出しなよ」
こそっと持ってるチョコレートはきっと手作り(下手じゃないけど、物凄く苦労してるはずのそれ……)
アイツらが、をからかったのも、それをほしかったからだと、今更ながらようやく分かった(じゃなきゃ、いちいち今日を選んで、は不自然。いつもいるんだから)
――俺もまだまだだね……。
日本らしいイベントだから、仕方ない、とはいえ……一応去年一昨年は気にしてた感もある(強力にイベントごとが好きな周囲のせいで、という話もある)
ところが、落ち着いて付き合い始めたとたんこれじゃ……
「あ、でも、甘いのそんなに好きじゃないって……」
「俺がほしいんだけど?」
こっちから行かずとどうにか〜だなんて、餌を上げないにも程がある(またあの人達にどやされるし。……それだけじゃなくて本当に欲しいし)
強請るように、覗き込みながら周囲の目を気にする。
嫌だからでなく見せ付けるように、包み込んだ小さい手からゆっくり袋を取り上げて……
「Thank you」
お返しにキスを一つ。
――やられっぱなしじゃ、たまらないって……
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