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――昨晩、ただの幼馴染であったはずのをドサクサ紛れに抱きしめてしまった……
手塚は悩んでいた。
終わらない悪夢のように、えんえんと思考がループしている。
答えが分かったといっても、手塚はとことん鈍かった。
――認めたくないが、俺は彼女を……思っているということなのだろう。だが……彼女はどうなんだ?
そこでぼけなくても、と思われること間違えなしである。
* * * * * *
「部長、顔真っ青っすよ?」
朝練が終わり、部室に戻ると既に全員が着替えをすませていた。
手塚も慌ててジャージとTシャツを脱ぎ、アイロンの癖が残ったYシャツに手をかけていたが、ふと横から声がして、動作を止める。
リョーマに指摘されるまでもなく、手塚自身、今日の不調含めて分かってはいた。
だがどうしようもないこともある。
原因が原因だ。
勿論、あの後微妙な空気の中、「眠い」とはさっさか隣の部屋に戻ったわけだが、手塚は眠れようもなかった。
「ああ」
考え込みながら返すものだから、自然と返答が重々しくなる。
何時の間にやら部室内の空気も変わっていた。
特にレギュラーの連中が、「また先輩と何かあったんじゃないのか?」とコッソリ思ってるだろうことは確かで、すぐ外――の方に視線を向ける者に気付いた手塚は眉間のしわをますますのものとした。。
何やら疑われるのも仕方ないことは分かっている。
――がここにいること事態、不自然だからな……。
朝練があるというのに、部外者厳禁を標語に掲げた張本人が、その噂の当人をつれてきたり、朝も元気な彼女、が(部室の外から顔をのぞかせていたが)やたらと欠伸をしていたり……怪しいことを挙げればきりがない。
――第一、アイツがわざわざ鞄をおいてまで此処に来ること事態、有り得ない……
何よりも面倒くさがり――ついでに寒がりでもある。
リョーマは答えを諦めていつのまにか消えていた。
が、手塚はぬっと横から出た新たな影にぎょっとして、思わずボタンを掛け違えた。影は二人だった。
「条件は揃っているな」
ノートを片手にその@乾は言い、
「でも、邪推する気にならないんだよね」
ひょこっと、そのA不二が会話に顔を出す。
――……何故このタイミングでお前が来るんだ?
手塚は黙り込んだ。
いわずもがな、お前=不二周助である。
昨晩に引き続き、またもむっとしそうになるのを堪え、ボタンをとめなおすと、不二はそれをさも待っていたかのようににこりと笑った。
他の人間に分からずとどうやら不二も同様自分の表情を読めるのだから、こうなると、手塚とはいえ警戒するほかない。
「何かようか?」
居心地の悪さに問えば、「うーん……とくにないけど」といいながらも、
「しいて言えば……」
つけたしが来る。
「『手塚、に何かしたの?』ってとこかな」
「…………」
「穂高が手塚を気にかけている確率89パーセントだ」
「高いね」
「そうだな。どうしてか、わからないが、朝練からいるところをみると、何か分からないことでもあったのだろう。首の後ろに手を当てている癖からすると困惑している線に賭ける」
――困惑。
確かに何も言わず、あんなことをしてしまったとあってはそうなのだろう。
だが、それはやはり気持ちが伝わっているわけもないということで、手塚は「やっぱり」と落ち込んだ。
あれだけのことをされて期待もしない、ということは眼中に入らないということだ――と自分勝手ながら思ったのである。
「あれ?手塚、落ち込んでる?」
「いや……ちょっと寝不足でな」
「ああ、それは分かるよ。だってが泊ったんだろ?」
「っ」
――何故わかる?
昨日の会話(オムライスうんぬん)を聞いての憶測だろうか。
それとも……
――もしかして、俺の気持ちに気付いているのか……?
両方ありえる話である。
「やっぱりね」
――憶測だったか。
思うがもう遅い。
これでは吐露したも同然だ。
実際、やましいことは……何一つではないが、世間一般が想像するようなことではなかったのだが……
焦るが、不二は淡々と続けた。
「は無防備だから危なっかしいよ」
まるで兄のような一言である。
手塚のポジションにいる人間(保護者的人間)の台詞であるべきだが、どうにも似合っていて、「そうか、コイツも兄貴だったな」などと、手塚は余計なことを考えた。それから、はたと我に返り、
――危ないのはお前だろう。
言いたいのを堪えて、部室のドアに向かう。
口にだそうものなら「何が?」と笑い返されるに決まっているから黙っているが、一番に関して警戒すべき人物と認定しているだけにちょっとむっとした。
「手塚のことは、信頼してるけどね」
牽制されているのか、それとも本気で言ってるのか。
何にせよ真意がさっぱり読めず、乾をみやれば、
「まあせいぜい頑張れ」
わけのわからない励ましをされた。
* * * * * * *
の用事は生徒会関連の伝達で、言うだけ言うと彼女はさっさと行ってしまった。
――ちがうクラスだしな。
手塚はちょっとだけ残念に思いながら、教室のドアを開けた。
「今日はP39からです。はい、秋元君……」
「はい」
何事もなかったかに、一時間目が始まる。
結局、次の接触は休み時間だった。
「あ……」
「あれ?」
廊下でばったり……。
こんなことは校内でも滅多に起こらないことで(手塚は教室と生徒会以外をうろつかないし、はそのどっちにも顔を出さない)二人とも固まってしまう。
先に動くのは予想通りの方だった。
通りすがりに、覗き込んで、
「朝、起してくれてありがと」
一拍溜めて、少し首をかしげてみせる。
からかうような口調と、動作――これは、前に不二に言質をとられ、自分がドギマギすることを保証されてしまっている為、計算済みの仕草に違いなかった――に、彼女の意図は読めた。
こちらの動揺を誘う気だろう。
――まったくどうしてこんなに焦るのか分かってるのか……。
呆れるも、いつものこと。
哀しいかな、慣れとは恐ろしいもので、ここまで意識させられていてもが自分に好意を抱いてるとは取れない手塚である。
……と、後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。
またもいいタイミングで現れたのは……
「不二!」
「おはよ。何やってんの?」
「誘惑」
きゅっと腕をひっぱってが笑う。
からかわれてるのかとむっとすれば、ちょっとだけ顔が赤かった。
――照れてる?……まさかな。
一瞬の期待も無駄だと悟った顔は既に少年を通り越し、男の悲哀。
「あ、次、私当番だ!」
「だから言いに来たんだよ。早く行きな」
不二に追い払われて、はものすごい勢いで駆けていった。
残された二人。
部活以外でも会話はすくなくないが、このタイミングでは――と、昨日の今日、手塚は微妙な面持ちを不二に向けた。
が、それに動じるようでは不二ではない。
「ようやく気付いたんでしょ」
破顔一笑、また唐突に質問をくれる。
「何がだ?」
「をすきだってこと」
「………」
――不二がか?
ビックリするのは一瞬で、表情からそうでないことを読み取る。
「でももあれで子供だから、気をつけてあげてくれないかな。仕掛けてるつもりで、逆に手塚に食べられちゃ可哀想だろ」
「あのな、不二」
――その言いようはどうかと思うぞ。
文句をつけようと口を開きかけるが、「ああ分かってるよ」と相手はまたも話を聞いてくれない。
「何もするなとはいわないけど、仲間の犯罪はごめんだから……」
だからなんだというのだ?
呆れるも通り越して、手塚は否定することを諦めた。
自分が無口だから周囲の口が達者になるのでなく、実は周りが人のト話を聞かない『早とちり』(強ち間違えではないが、サトラ○ばりに気持ちを理解してもくれないタイプの)ばかりだから、自分の口数がへるのでは?――そんなことを思う。
「ああ、嫌われてはいないから安心していいよ。
あと、からかわれるのが癪なら、ちょっとは抵抗しないと……。あの子もあれで馬鹿だし」
「そうか……」
わかったような、わからなかったようなことを言って、不二もと同じ道を、ひらひらと手をふっていってしまった。係という言葉から察するに、次は特別授業(察するに理科室)なのだろう。
過ぎ去っていった嵐に、ようやくペースを取り戻しながら、それでも一理ある部分に頷づいた。
――抵抗、か……。確かにこのままだとマズイな。
昨晩こそ理性がかったはいいが、今度ああなったとき自分が制御できるとも限らない。
手塚は「うむ」と重々しく、不二の残像に相槌を打って、教室に戻った。
to be continued……
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