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悔しさや恥ずかしさなんてもんは後からくる。
それよりもまだ朦朧として……。
* * * * * * * *
起きれば直ぐ目の前に、見慣れた顔があって見つめられていたと思うとばつが悪くて俯いた。
「あ……」
――連絡してない……。
それもこれも相手のせいだ。
地団駄を踏みたい気分にかられ、キッと彼――幼馴染、手塚国光を睨めば、
「………」
なんでか目をそらされた。
ふと、はその耳が赤いことに気付く。
――嘘……。
照れてる、とか?
予想が脳裏によぎり、途端に恥ずかしくなってきた。
きゅっといつもの、彼の腕のかわりにシーツを掴んで、何とか声を絞り出した。ちょっと枯れているのが何故か、聞かれずと思い当たる喉から。
「親……電話してない……」
「出かけていたらしい」
「そう、なの……?」
あのままぼーっと眠くなってしまった自分。
起れずにいることが許される状況だったのは幸いだったかもしれない。
意にそぐわないといえばそぐわないながら、口下手な幼馴染の想いが知れて嬉しかったし、は、自分もようやく素直になれた気がした(ならされたとも言えるが)
すぐ離れて戻っても何だか寂しかっただろうことは、最後に抱きしめかえせたことからも明白で……
「帰すべきだったか?」
ふるふる首を横にふって、
「……ここに……居たかったの……」
素直に言うことが出来た。
実は身体のそこかしこが今も痛むのだが、それと関係なしに泣きたい気持ちがある。
「うちの親はいるから」
静かにな?
すまなそうに目を伏せる幼馴染には、「ちょっとまて?」と言いたくなるのだが、幼いことをしたくなくてただただ目を白黒させた。
「いや、もうじき出かける。それに帰ったといっておいたから」
「靴……」
こういったとき、女の方が冷静なのは言わずもがな。
だが、この優秀かつ抜けている彼も流石にそこは周到で、
「隠した」
男女の立場が逆かもな、と意地悪な笑顔を見せた。
そのまま「ちょっと待ってろ」と部屋を出て行ってしまうものだから報復は叶わないのだけれど。
* * * * * * * *
気付いてしまえば笑えないことに、ベッドの下はかなり血が飛び散っていたりよごれていたり生々しさが残っているのだが、
「無視無視」
恥ずかしさと何でだか知らないがいたらなかったような気持ちとで、熱くなる顔ごと一時スルーすることを決め込んで、相手の戻ってくるのを待つ。
――喉、乾いた……。
こういう場面だと、王道=珈琲が浮かぶのだが、「国光なら番茶?」と予測。自然と笑いがこみ上げてくる。
笑った拍子にお腹の奥が痛んだが、大分余裕が出てきたらしい。
やがてドアが開いて彼がこちらをみたとき、珍妙な顔をむけられてしまった。
「飲め」
渡されたマグは一つで、手塚自身は何も持っていない。
は首をかしげてみせ、彼は「俺も貰おう」と仏頂面で答えたが、あいも変わらずあわせられない視線と赤い頬で、いつもの貫禄は消えうせていた。
――優しい。変なの……。
壊れ物じゃないのに。
いつだか、不二に告げたようなことを考えながら、受け取った温かい器に口付ける。
「……甘いの、いいの?」
「お前が好きなんだから仕方ないだろう……その、無理もさせたからな……」
「……でも……」
手元のそれはココア。
すすると昨晩の疲れもいえるようだった。
そこかしこが痛むわ残る後を処理も終わってないわ、この先を思えば気持ちの整理も十分とは言えないわ……しっちゃかめっちゃかではあるが。 静かに手元のコップを彼にまわす。
濃茶の液体はとろとろとしていて、入れたての上質のものだ。
これをわざわざ用意したとおもうと、少しだけこそばゆい気持ちにもなって、ついでにパスするときに触れた指に、鼓動が増して、困った。
が……。
「それに」
そんな空気を壊したのは、このめがねをとりはらった幼馴染の方で、
「昔からそれは媚薬だからな……」
もうすこしだけ……。
言うなり、まだ舐めとれずにいる甘さの残った唇を端から貪って……
「もう少しなら、それで平気だろう?」
信じられない言葉とともに、コップをのけて、シーツの海に身体を沈めさせてくれるのだった。
数十分後、「信じられない」と怒って背を向けたと、今度は最初とは反対に「悪かったから」と満面の笑みで彼女を後ろから抱きしめる、その幼馴染が居た。
今度こそEND
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