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最初の印象は真面目でさっぱり系。
ちょっと苦手というか……関わることのない女の子だと思ってた。
まさか、こうなるとは……。
* * * * * * *
「転入生を紹介する」
ありがちな期待と、多分後に来るだろう落胆の予測が、一瞬にして、英二の脳裏に浮かんでは消えた。
英二だけではない。
3−6の教室の男子なら誰でもそうだろう。――例外は斜め横ですっかりすまし顔をしている不二なのだが、彼の内面はそもそも読みにくいので案外似たことを考えている気がしてならない。
だが……。
「です。よろしくお願いします」
刹那、時おり他のクラスが巻き込まれてきた行事の意味は一転した。
期待が裏切られるどころか、おつりを払ってもあまり得るほどの成果が目の前に姿を現していたのだ。
それは予想以上の好物件だった。
誰かさんを彷彿とさせる薄茶に梳ける髪は、肩先ほどで切りそろえられ、視線はちょっと俯き気味だったけれどそれも初日の緊張によるものだろうし、そんな様子がむしろ奥ゆかしい雰囲気を演出した。
しかし……世の中そう甘くない。
「それではさん。自己紹介を」
「……ありません」
――え?ないって?
んな馬鹿な……
そう思ったのは皆一緒だろう。
先生もどうしようもなかったらしく、「席はそこね」と、指名して、授業が再開される。
彼女の席は英二の横、不二の斜め前に決まった。
* * * * * * * * *
「えー!ってことは……ふ、不二の従妹??!」
「そうなるかな。うちの母さんのキョウダイ筋の娘だから。この通り、性格は似てないけど」
「周助……」
「外見は似てる?」
急にとんでもないことを知らされた英二は、びくびくしながらも、尋ねる不二に
「……似てると思う」
そう返した。
そのせいでもないのだろう。
が……
「なら、余計いやだから、周助、半径一メートル以内に近づかないで……。それから口もあんまきかないで……」
酷い言葉がかえって来て、不二が顔を曇らせる。
「どうでもいいけど、カナ。もうちょっと強調を持ってよね」
びしばしと、キツイ言葉がとんだ。
身内用なのかもしれないが、裕太に対するときよりも厳しい調子で、みていた英二はぎょっとした。
だが、声をかけられた当人は、
「面倒」
一言ですぱーんと切ってすてる。
――す、すごい世界……。俺入ってけないじゃん。
まあ、これで確定してわけだ。
英二の中で、彼女は苦手な部類に。
不二に外見が似ているとはいえ女のコで、かつ不二よりも性格がキツイ。
綺麗系よりは可愛い系が好きなのでタイプの範疇に入らないのもありがたかった。
しかも、こう言っては悪いが、綺麗は綺麗だが英二からするとどうにも不二の方が綺麗に見えた。彼女は……なんというか、全てがだらけてるのである。気を使っていないというべきか。
「……元は悪くないのに勿体ない……」
思わず漏らした声に、本人、聞かれていないかはっとしたが、
「ああ、なら……」
不二の視線に目を向けると、そこには女のコに囲まれている彼女がいた。
質問タイムなのだろう。
「さ、次は移動だよ。英二、行こう」
「あ、でもさんを置いてっていいの?不二……って仲悪そうだけどさ」
「いいでしょ。これだけ女のコがいるんだし。それから訂正しておくけどカナとのアレはいつものことで、僕たちは仲悪いつもりはないから」
「そ、そうなの?あ、でも放っておくのは、ほら……」
「……まあ、英二のいいたいことも分からなくはないけどね」
既に、すぐ横、女衆の雰囲気が悪い。
面倒くさそうに答えている彼女と、そのどこか超然とした口調がそうさせるのだろうが、もう険悪といってもいいほどだ。
そうでなくともは女に嫌われる要素をかねそろえている、と英二は判断した。
――ようするに、男に気にかけられちゃってるもんな。
そういうことである。
ただ、付き合いたいタイプというより高嶺の花なのだから放っておいても敵にはならないのにー……と現実的に推測。
むろん、それでも集る連中はいるのだろうが。
――この性格じゃ……ねぇ……?
自分は少なくとも駄目。
とはいえ、放っておくには忍びない。
ましてや、不二にいたっては血縁なわけだし。
「ならやっぱり待っててあげた方が……」
転入生なら場所も分からないはずだ。
このクラスの女子で、彼女を誘導してあげそうなタイプの子は既に教室から消えている。……派手系が集まってるので声をかけづらかったのだろう。そのうち仲良くなりそうな予感はあるが不安だ。
険悪にみえて、仲が悪くないというのなら、不二と一緒にいった方が彼女のためだろう。
「でも、当番なんだ。悪いけど、先に行くよ」
ところが、ぼけーっとしていたら、彼女の従兄殿は本当に先にいってしまった。
仕方ないなぁと思いつつ、予想通り女の一群がさーっと散ってしまってから、英二は彼女に話しかけることになる。
なんだかんだでお人よしなのだ。
加えて、
――正直苦手なタイプなんだよな
思うが、ソレを出してはいけないと、自嘲する。
そういうあたりが、バランスの人たる所以。「菊丸英二」らしかった。
* * * * * * * * *
「さん」
「………」
「さんってば」
「いい。道は分かる」
――なんだそれ?
みれば 彼女は明後日の方を見ていて、こちらを振り返りもしない。加えて、文句のいいづらい、「どうでもいいよ」といわんばかりの口調だった。
――もう、放っておきたい……
英二は後ろ姿をみせたが、彼女の気配はこちらをむきもしない。
少し悩んでから、それでも気になるものは気になるもので、
――ええぃ 仕方ない!
ぐいっ。
覚悟を決めて腕をつかんで、強引に立たせる。
ようやく慌てた雰囲気で、彼女がこちらに意識を集中した。
「菊ま」
「無視すんなよ。傷つくんだからさ」
――あれ?
俺、いつ傷ついたんだ?
なんだか可笑しい。
もし仮に普段こういうことがあれば、多少嫌な思いはしながらも、さっさと立ち去っているだろう。一応声をかけて雰囲気が戻るなら努力はするが、そこまでの努力をする理由もないはずだ。
だが、何だか放っておいてはいけない気がしたのだ。
手ごわいとは思ったが、もう引き下がれない気がした。
立ち去らないこちらを、きょとんとした顔で見つめる女の子に、ああだこうだ考えるのが面倒くさくなった英二は、勝手に机の上の教科書をとってやると、
「あーもうっ、わかった、わかったから何でもいいから一緒に行こ!それと……なんで不二にああいう態度とるんだよー…あれ、怒ってたと思うぞ?」
立ち上がらせて、そう言った。
不二が怒った理由はよく分かるが、困ったことに、「怒ってたと思う」といったときの反応で彼女の方の理由にも……嫌だが、凄く不本意だが、でも、ピンと来てしまったのだ。不二のことを好きなのかもしれないとか、不器用なだけかもしれないとか。
――でも、たぶんこの子、天邪鬼だから……。
きっと言わないだろう。
全てをきいてすっきりしたいとは思わない。
面倒なだけだ。
だが、【放っておけない】のだから仕方ない。
「……君に言う筋合いないもん」
「可愛くないよ」
女の子相手に酷いとはおもったが、遠慮もいい加減ばかばかしくなってきた。
案の定彼女はしれっと流す。
「いいわよ、別に」
「うわっ」
――なんでそういっちゃうかな。
そんな意味不明なやり取りを繰り返すうちに、英二はふと思ったのだ。
思いついてしまったのである。
「俺、決めた。 の保護者になるから」
「はあ?」
「ていうかマジだし」
「可笑しいから、それ」
「いいじゃん。……、馬鹿だし」
「む」とする表情。素直でないのではなく、もしかしたらこの子、俺よりも素直なだけかもしれない、と英二は思った。不二にだけはどうしてか、つんつんしてるけれど。
――仕方ないよな。
勝手に納得して、決めたら即行動。英二の悪いところでもいいところでもある、そう不二に評されたところだ。
「俺、のこと見張ってやるから」
「宣言してないでよ!」
「何言ってもきかない。……嘘つきな子どもには罰がいるかもなー」
そうして、なんでだろう。
そうしたいとおもったわけでもないのに身体が動いていたのだ。
「っ〜〜〜」
瞬間、英二は触れるだけのキスを、彼女の額に落としていた。
自分でもぎょっとしたが、とりつくろって付け加える。
「減点一な」
彼女の顔が真っ赤だったのはきっと気のせいではないはずだ。
もし、不二のことを好きで、衒いからああいう態度をとったのだとしても……あるいはもっと深い事情があるのだとしても、これは……
――嫌われたかな?
でも、その方が彼女と仲良くなる近道だという予測が捨てられない。
「俺はわりと好きかもしんない……」
睨み付ける目を無視して、「分からなくなっても困るし、時間ないから」
「走るよ」
手を引いてダッシュをかけながら、英二は可笑しなことになったと思った。
ちなみに数分後、不二にもう一つ、ことの真相をしらされることになる。
「あ、には振られてるから安心していいよ。三歳のときだけど。それに、が好きなのはどっちかっていうと……」
「え?」
「……ま、気をつけて」
「何をだよー!」
彼女が不二に対して冷たいが気にかける、微妙なような態度をとっていたのは、コンプレックスとのこと。
事情のほどは分からないが、昔からライバルっぽい扱いを受けていたらしい。
早合点に気付いても、もう遅い。
英二は思わぬ海老(不二)で、鯛(彼女)をキャッチしてしまったのだから。
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