天邪鬼君主論(鬼のマキャヴェリズム エピローグ〜少し後の話)

SIDE】

「試合……」

 あるとはきいてなかったが、嫌でも耳に飛び込んでくる。
 でも結局、当人に確かめることもできず(他の部員に言おうとしたが、柳にははぐらかされた)金曜日。
 あるんだとしたら明後日だ。
 きいていいかなとおもって、問いかけの代わりにポツリと漏らした言葉がそれ……
 しかし、当人は全く気付く様子なく、

「ああ、日曜か」

 飄々といってくれる。

「青学に10時。来たいなら止めない」

 それは遠まわしに「来い」ということなのだろうか。
 分からず――間違えたら大変、とおもうのはどうしてなんだろう?――視線をあわせれば、ふいっとそらされる。

「柄が悪いのもいるから、勧めはしないが?」

「それなら……」

 ―― 一緒に……は無理だよね?
 選手は実際、準備他色々やることがあるのだ。
 邪魔になりかねないし、こちらとしても本意ではない。

「……仕方ない。試合の時間だけと約束できるか?」

 はいい子だからな?
 指きりの変わりに絡めかけられた指は首筋を辿り、静かに輪郭線から唇を探られる。
 この幼馴染がする「約束」が何か、もうなれてしまているのだ。
 ――……セクハラだと思わなくもないのだけれど……
 独占欲だから、あまりつきあうなよ、という連ちゃんの警告はもう無駄だと思う。逃れようにも、この人の力がとっくに真田や彼を凌駕して、それを許さない。
 そのくせ絶対に腕が背中にまわることはないのだ。

「っ」

 一瞬、空白があり、腰を引き寄せられても直ぐに戻ってしまう。
 何事もなかったように、フェンスの向こう側rに戻りながら幸――精市は、 背中ごしに、「これ以上のことをされるな」と、からかうような笑みをみせた。
 「俺も甘くなったものだな」という声には揶揄が含まれて……ふと視線をずらせば、その先にいるは真田。
 完璧に彼をからかってのことだと分かり、脱力する。

――悪趣味……
「――悪趣味だろぃ……」

 横からとんだブンちゃんと意見を同じくして、一テンポまってふと気付く。

 ――……見られてたのって……

 どうなんだ?
 別に何がどうというわけでもなく、(関係が劣悪なときとて)そういうことを軽くしでかしていた精市に、誰も彼も(自分も)なれて入るのだが……

 曲がりなりにも、彼女、ならば、友人をからかう種につかってくれるなといいたい。

 ――ブンちゃんも……そうおもってるんだろうな。

 ため息つきの、彼のリアクションは多分正しい。人として……

、アレでいいわけ?」

 それでも答えは一つだから悪趣味はどっちか分からない。
 今更精市以外を探すこともまた、考えつけなくなっている。
 実際、試合にいきたい理由も、拘る理由もすべて――あれから見に行かなかったからこそ、なのだ。
 一緒にすごしていながら別々にいた時期を埋めるかのように……事実私たちは共に居る。
 本当のところ、精市が何を考えているのかイマイチ分からない部分もあるのだけれど、「休日はあけておいて」と(そのあとに「当然だろ?」という言葉もついたけれど)言ってくれた彼は、彼なりに思うところがあるのだろう。
 悪いといっても、送り届けてくれる辺り、好きでいていいと認めてくれてるのかなと思わなくもなかった。

「……てか、まあここでもしが『やっぱりやだ』っていったとこで、幸村君、きれそーだし。俺的にも試合みてもらえんなららっきーだけどな」

「あ、……うん。断られなかったし、皆の応援にいくよ。本当は蓮ちゃんとか……ずっとみてみたかったから」

「俺もだろぃ?」

 にっと笑ってくれるブンちゃんとは、なんのかんのいい友達だ。
 精市もブンちゃんのことが好きなんだろう。今だって、わりこめる話題にわりこまず、コートに入ってこちらを伺うもその目は優しい。
 「うん」と頷いたとき、

「始めるぞ」
 
 その部長殿の声がかかった。
 全員がさっと真ん中に集まる。
 部活――なかなか見ることが出来ずにいたテニス部の光景がこうして見られている。
 ――よかった……
 これ以上ないほど調子のよさそうな精市も、他のみんなも見ていて本当に嬉しくさせられる。
 準備運動と軽いダッシュが終わった後、フェンス越しに

「早く終えるから後で……」

 と、あえていいにきてくれることも、数箇月前ではありえなかったことだから。
 その後に、だからうちに寄っていけ、と無言の意味が続くのはどうかと思わなくもないのだけれど。


TO BE CONTINUED
 


ついで幸村側へ。