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【幸村SIDE】
部室に入るなり、一番鋭い人間がいて……少し躊躇した。
手に持った荷物を隠したいわけじゃない。何せ一昨日がうちにいたときまでは覚えていたのだけれど、もともとイベントごとに興味はないんだ。
早めにきまった推薦後の部活や、選抜での打ち合わせで休日が消えてなくなってしまった後、今朝にはすっかり忘れていた。
名前も知らない彼女達に突撃を受けるそのときまでちらりとも思わなかったのだから罪状はないだろう。
眉宇を潜めそうになりながら平然とした調子で「おはよう」と、改めて声をかける。
「ああおはよう。……精市、大量だな」
甘ったるい匂いを纏わせた俺に、蓮二は予想より大人しいコメントをくれた。
「……世間がどれだけ浮かれてるのか忘れてたんだよ」
「なるほど」
一見納得しているようだが、これでわからない。
何せこちらが失態だと認めて見せた途端表情が柔らかくなるのだから、誰の味方につくつもりか、想像は容易かった。
――あれも、前科……になるのか。
一応フォローはしよう。
そう思い、
「には……」
「素直に話す確率90%」
「なら」
問題ないね?
……と、念押しに笑もうとして――そこで、手に遮られた
蓮二はやはり怒っていたのだろうか。そのまま静かに「対策としては妥当だが」と注釈をおいて、続ける。
「――だが、お前の言い方次第でこじれる確率はもっと高い」
「……へえ」
ありえる。
そう素直に頷ける自分がいるのだから仕方ない。
癪だが、このチョコレートの山を見て、が嫉妬するのならそれはそれで愉しいとも思う。そしてそれがヒドイという自覚もまた……あった。
「この間の一件で進歩したと思ってたが?」
コートの件をさしているのだろうか。
――あの試合後のコートでのちょっとした告白劇は、周りにはそこまで伝わっていないとおもったが……
本人だけでなく、参謀にはさすがにこちらの変わりようもある程度見透かされているなんてな。
悔しいかな本当に俺はに落ちたのだと認めざるをえないかもしれない。
――でも、だからこそ……
がこちらの気持ちを知っているからこそ、意趣返ししたくなる。
たまには嫉妬させてみたくもなるというもんだ。
たしかに、は俺を好きなんだろうが……全く動じないのは面白くない。
事実ここのところソウイウ雰囲気になった時以外に、が慌てる様は滅多に見られないから……
窮屈だとも、迷惑とも思っていないのが、流石に長年の付き合いで見て取れるから自分も気楽に横に留め置くのだけれど――
「好き、だから嫉妬してほしい。――自然の欲求だろ?」
――そうじゃない?
冗談っぽく、蓮二に教えた気持ちは本当だ。
のことだから学校でチョコレートを渡すなんて王道なことはしないだろう。
あるいはしたくても、「俺が望まない」と知ってる。だからしない。
――本当のところ、どちらでもいいけれど。
ただがどうするかに興味はある。
本当は「どうだ、蓮二。迷った挙句に、持ってきてる……可能性が高いと思うんだけどどう?」と、よっぽど確かめようと思ったが悪趣味なので、止めておく。
「チョコレートに騒ぐ気にはならないけどな」
からは気持ちをもらえているのだから後はもうチョコレートでなくとも強引に手にいれればいい。から欲しい時間を欲しいだけ。
――こんな調子だから赤也に「部長、余裕でずりぃっす。これだから彼女もちは……!」なんていわれるんだろうな……。
惚気になっていたのだろうか。
当たり前すぎて大したことのない事実を確認していると、にわかに蓮二が眉宇を潜めた気配がした。
「お前のはそんな可愛いものじゃない。いい加減自覚しろ」
そう言って、静かに部室を出て行く。
言葉は半ば本気でぼやかれていると分かったのだけれど、どうしてこうも俺とを側でみてきた柳蓮二という男が心配するのかわからない。
少し考えた後、他の女子から被害が及ぶかもしれないからかと思いついて、一時的にいただいたチョコレートを部室にロッカーに押し込み、放課後に少しだけ見せるか、義理の意味いっそ全部受け取ってチョコレート魔人こと丸井ブン太に押し付けるか。と、決め込んで、の泣きそうな表情を想像した。
絶対に泣かないくせ、無理を溜めるあの表情をここのところ見ていないからか、妙に胸が騒いだ。
たいしたことのない、いつもどおりの朝、そのつもりだった。
2月14日が終わるまでは。
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