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【SIDE ブン太】
魔の数日間――
チョコレートのにおいで満足してるはずの自分がそれどころじゃなかったから今でも覚えてる。
* * * *
部室に入った途端甘い香りが充満しててちょっと退く。
――だって中にいたの柳と幸村だぜ?俺的にはいいけどよ。
平然と受け取ってるなんて、意外も意外だ。
「よ、柳。珍しくね?チョコもらうなんてさ」
「俺じゃない。精市だ」
――というか、本当のところ答えなんて分かってたし。
でもって、それを許せない自分がいた。
が学校にまだついていないことは確認してる(つーか、義理でもいいから欲しくて探したんだよ。文句あっか?)
出来るだけ平気な顔で「余裕じゃん、幸村君」と告げるも……たぶん参謀にはばれてんだろうな。正直俺としても嬉しくないニュースだ。
別れるならともかく別れない二人だけに、付き合ってるくせしてが悲しむってのはちょっといただけない。
顔をあげて、ふと伺うようにしてみたら、柳も不機嫌そうにみえた。
――結局コイツって味方なんだよなぁ。
ほっとするのは、柳もよく思っていない様子だからだ。
今いない「幸村が怒られるべき相手」にとっても、彼女を好きな――悪ぃかよ?まだきになってんだから仕方ないじゃん――俺にとっても、ナイスな配置だと思う。柳蓮二がの幼馴染なのは。
本格的幼馴染は、結局その幸村君本人だけど、柳とも中一んときから仲いいし、大概柳も柳で贔屓なのだ。見ているとよく分かる。
「で?なんでもらってんの?」
だから気軽に文句も言えた。
悪口ってほどのつもりでもないから、本当ちょっとからかうくらいの調子で事情を確かめたかった。
「また悪い癖が出てる」
……と、柳は本気で顔をしかめ、「それ以上はいえないが…………最早さっさと別れた方がのためかもしれない」なんていうものだから、俺は慌てた。
――そうなったらいいと思うけど、本気でそうなられても困んだよ、俺は。
なんのかんのは幸村君ベタぼれだ。
ぶっちゃけ、ずりぃし、かわれんならかわりてぇが、その【反対】も然りだと最近気づいたから……
つまり、幸村精市は結局のところ、にベタぼれなのだ……と思う。たぶん。(たぶんが付くのは日頃の行いのせいだろぃ)
――赤也なんかも痛い目を見る手前に分かったみたいで、(ちょっとからかおうとして報復くったんだよ、アイツは)「先輩、あんなに好かれてかわいそうに」だのとシャレにならねーことに感動してっし。
「折角のバレンタインに何やってんだよ。本命チョコもらえそうもないとか?……てか本人が一番断ってそうじゃね?俺は甘いのいらない、とかって」
……俺なら絶対貰うのにという言葉を飲み込んで、リサーチを続ければ、
「逆だ」
……だそうだ。
「もらえると思って天狗になってる」
「……うわ、きつ」
結構はっきりとした声にまたびびった。
柳は予想どころじゃなくマジで怒ってるくさい……。
「本当だろう。幸村精市という男は意外に内弁慶かもしれない」
「……ま、勝つために愛の鞭って話もあるぜ。俺らへは」
部内でもなんだかんだ鬼だったし、横暴といえなくもないくらい私情まみれだったけどな。それはそれで必要なところもあるのだ。この面子じゃ。
だから完全な内弁慶タイプともいえないと思う。
――ただ……
「でもへは?」ときかれれば……何とも言いがたい。
先日のコートでの告白(って俺には思えた)は唐突でびびったけど、彼女を好きなのもわかるし。俺が近づいたところで、彼女にするどころかすきとすら言わなかったくせに既に彼氏面だったり……とそもそも横暴な面はあるっちゃあるがなんのかんの幸村はが好きだ。
だけど、その態度は本気でいただけないのだ。
「……ま、けど、は全部分かってて、すきだからな……」
ムカつくことにそれもまた本当のこと。
だから、幸村の場合自惚れは有り得ない。「天狗になってる」とも言いがたいのである。
――むしろ、内弁慶ってより………
「嫉妬させたい……とか?」
まさかな。
ただ有りうるのが幸村との微妙な関係。
頭の痛い事実ってやつだった。
真田あたりはぜってー信じないだろうが、相手だけにどうしてもこうも変な対抗意識をもやすんだか……。
俺もわりと怖い思いしたから分かる。
もう少し自分をコントロールしろぃといいたい。については。
「ああ。……だろうが、やりすぎている以前に精市にはミスがあるな」
「……はわかってんだろ。嫉妬しろっていわれたところで」
「そういうことだ」
分かって振り回されてやってるのだから、怒る理由はない。
あるいは反対に哀しくなるだけだ。
「マジに俺にした方がいんじゃねーかな」
「…………」
柳は応えなかった。
俺が役不足って言うのではないと思う。
流石に幸村へのフォローが浮かばなかったのだと……そういうことだ。たぶん。
* * * * *
それだけじゃない。問題は、教室に入ってに会ったときに分かった。
「……げ、マジでもう見たのかよ」
会ったら既には幸村が他の女からのチョコをもらったことを知ってた。
「あ、たまたまね……。でも別に告白されてたんじゃないし……受けたとも思えないからいいかなって」
「彼女として怒るべき?」と初々しい彼女歴数箇月のは幼馴染だからなんか慣れが抜け切らなくて……と困ったように笑う。
強いというか何と言うか……かわいくて困った(うっせ、突っ込むなよ?ここんとこ)
「お前、それでいいのん?」
「本気で好きになったら私なんて置いてひょいと乗り換えるタイプだよ、あれは。だから一緒にいてくれるんだったらいんじゃないかな」
「……それ、なんか真田入ってっから」
時代錯誤というか、奥ゆかしいというか。
それでいて、縛られないタイプなのはもだから、コメントはもう差し控えるが、確かにこれじゃ幸村君的に張り合いがないのかもしれない。
何せ絶大な信頼の理由がはたから見てもないのだ。
ただ好き、なんだろうが(それって最強だろぃ?反則だって)分かりにくくもある。
「ふうん。ま、泣かなきゃいーけどさ。俺としちゃ。……あ、義理くれんの?」
「うん。はい」
さっさと差し出されたチョコレートを手にとって、浮かれるのを抑えながら「暫く様子を見るか」と心で呟いた。
このときは拍子抜けするくらいで……むしろ嫉妬されないのもされないで大変なのかもしれないと、の大物っぷりに納得しかけていたくらいだ。
ただ、だからこそ……の悪夢は昼休みにやってきた。(やっぱり基本平気だと思えば色々問題が後からでてくんだ。それが運命ってやつ。俺が見つけて掻っ攫われたように)
昼休み、飯食うとき久々に集まったら俺ら元レギュラーの元にやってきた新部長……赤也が言い出したことで俺はそれを知る。さらにその後の様子で……。
どうやら幸村はの前で、本命くせー女から受け取ったらしい。(昼休み始まると同時に)そのうえ、ようやく言い合いになったらしいが様子が可笑しかったとか。
「けどよ……それはねーだろ、それは」
は泣いてた。
真田が目撃して……しかも、嫌味をいわれて(?)うろたえながら俺らのいる屋上まできたんだから恐らくマジだ。
「地雷、踏みましたかね……」
比呂士が何だか思いあたることがあったらしく、うなり……仁王は興味ない、とかいいつつ、アイツも男の子ぜよなんて一人気楽に幸村の味方してる(コイツはをあんまりしらねーしな。ま、だからみえるとこもあんだろうが)
その中で、平然と戻ってきた幸村だが……意外にもその表情が硬かった。
質問をさせず……ただ「今日はは来ない」と、俺に教えた。
「チョコレートはもうもらったからいいし」と、俺はいえなかった。
自分でいいながらショックを受けてるのは幸村の方っぽい。怒りより心配が先にたったのはまあそういうわけだ。
……で、事態の深刻さを知ったのは、次の日の朝も放課後も……が部室に来なくなってからだった。
* * * *
魔の数日間。
ただの痴話喧嘩とか、仲間うちの恋愛のごたつきに数えられないその数日を俺は忘れない。
他人をまきこんどいてざけんなよ、とこの後も何回か軽口叩いたけど、あのままにならなくてよかったと思うぜ。乗り越えた今は。
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