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SIDE 仁 王
「逃げちょるつもりなん?」
問いながら背中を引き寄せた。
「あせることなか?」
そのまま逃すつもりはない。
ひきよせて、俯いたその襟元にため息を一つ。
――絶対はなさん……
執着をみっともなく思っていた自分はどこにやら、今はもう必死な男がいるだけだ。
拒もうとする少女の指に、自分の手を重ねる。 繋ぎとめるように、縫いとめるように。
彼女はわずかに目を見張り、やがてふいっと視線を逃がした。直接的でないセクシャルな動きで、その指と指の透き間を遊べば、
「っ……」
冷たい息がかみ殺される。
――いっそその空気ごとのみこんじゃろうか。
趣味の悪ぃことをかんがえちょるようじゃ俺もいかんな。
思うが、独り言でしかなく……したがって指先は勝手に彼女の脚に回る。
シーツの上で乱れていたプリーツのひだは、まだ癖がぬけず、するりと侵入を許すようだ。
「ちょ、……何してんのよ」
怒りに眉宇を潜め、気を紛らわせようとする彼女には悪いが止まる気はない。身体に脈打つ熱……しっとりとした肌はすいつくように仁王を刺激する。
「のがれてみんしゃい」
できんくせに?
哂う自分が一番意地が悪い。
と……思う。
だが、辞めないのは彼女のせいだ。
――この女が悪い。
いくら恐ろしいからとはいえ、あんな男に骨抜きになるから。
―この馬鹿をどうにかせんとようねむれんわ……・
だから今「どうにか」してしまうつもりなのだ。お膳立てがすぎる放課後の保健室で。
何、ばれる心配はない。
この女は、あの化け物と部室という密室で二人きりでいた馬鹿だ。しかもかぎは彼が持っていた。
「同じことじゃろ?」
幸村と、と……敢えて名前を出さないことで、相手の反応をみる。
ぴくりと震える眉間を撃ち殺そうか。震える肩をわななくまで押し付けて、そのまま脚をわってやろうか。
凶暴になる思考にとらわれる。
「なんで、仁王が……」
「なんでじゃろ?」
ただ気がむいただけじゃ……
ここで、その女が一人になるのをまったのも。自分から誘いだしてまで話そうと思ったのも。
―だから……
「なあ、……賭けには必ずかつ。それが詐欺師じゃ」
じゃけん……誰のものにもならんようにしよっと……?
唇よりも、絡める舌で教える。
あの男よりも怖いのは俺だと。他に逃げるすべなどないと。
「…………」
小さく、諦めたように呟かされる言葉を、だから聞き逃すのだ。
すきなのに、と。しんじなさいと。
そんな言葉に騙されるようでは、詐欺など働けない。
「……わかっちょらんのはお前の方じゃけん……」
――どれだけ こがれとるか……
わからないから教える。
他と比べさせるような状況までわざわざ組みたてて。
「あの鬼(幸村)なんか敵じゃないんよ……」
それよりも怖いのは……
――このまま、ずっとこの女の中に入ってしまいたいこの俺じゃけぇ……
知ってるからこそ震える少女は、だからまだ自分のものにはなりきっていないのだろう。
「もっと感じてみ?」
茶化すように、誤魔化して……指先をきつく握る。
片方の指を奥まで弄べば、濡れた音が耳を汚した。
「誰でもええん?」
自虐的なまでに。
――そうじゃ……
自分はプラトニックを望むのだ。
真っ赤な瞳がにらみつけ、こらえた鼻がすんとないても……まだ、何もしていない。
これだけのことをして、脅しはしても、「まだ」なのだ。
「愛しとうよ……」
。
名前だけで、全て屈服させる心積もりでまたその右の手……指先の奥だけをじくりと爪でおかして…… プラトニックを貫くだけ。
体の我慢はどこまでもつのか?
「何よ……」
強い視線に、対向して笑えば……また苦笑になる。
――わかっちょらんのはお前の方じゃ……。
凶気の沙汰というのならば、あの鬼なんかより……優しい詐欺師だというのに彼女はまだ気づかない。
きっと分かれない。
だからこそ……
「愛しとうよ…」
告げた本音だけは鍵分けて、
「にお……」
反応するのだから性質が悪い。
姫君に口づけを……その後はまたしゃんと立たせて、綺麗にスカートを整えて
「鬼につかまりにいくんじゃなか」
表情を緩めてわらってやる。
その繰り返し。
―これだから……エセ紳士とよばれるんじゃな……
***********おまけ****************
「それくらいで俺の秘密を掴んだきでいるのか?うちの詐欺師は」
「……ぴよ……怖いねぇうちの大将は」
「そうおもうんだったらさっさとを落とすんだな。近くでちょろちょろやられるとむずがゆくてたまらない」
「そうおもうなら邪魔してくれるな」といいたいが、今いえば幸村の思う壺だ。
だからこそ、我慢をする。
「おとしたいんはどっちじゃろな。……少なくともお前さんは本気でなくともうちのマネージャー()をあそんじょる……よいとはおもえんけどねぇ?」
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