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「キスした。抱きしめてくれた」
あれはもう反射でしかなかったんだけどね?
事実を隠して、私は言った。
この阿呆にはどうせこちらの声なんて聞こえちゃいないんだから。
「観月が君を欲しがったから?だからどうしたの?」
不二は笑う。
「本当にそうなら奪ってる。アイツはね、そういう奴なんだ」
<抑えはきかないし、本気で好きじゃなくてもそうなる>
そんな風に言外に匂わせて、不二はますます無表情の笑みを浮かべた。
我ながらいい表現だ。
この人は笑うほど、周囲に気持ちを読ませなくする。
馴れていた私は、
「だから?」
と聞いた。
強がりなんかじゃない。
もはや確かめなくても分かってる。観月がキスしたのは私が挑発したからでしかない。(しかも絶対そうなるって確信して、仕掛けてるのは私だ)
「へえ?」
「は随分観月のこと分かってるんだ?」と、この厄介なクラスメートは意地悪く尋ね返す。
「うん。ある程度は分かるよ。似てるからね」
「は僕とも似てる。そういわれてたじゃない?」
「そうだね。でも違う」
私は君みたいに空元気がうまくないよ?
もっとパニック体質だし。
マフラーを巻き直すと、ちょうど冷たい風がよぎっていった。
門の前で、なんでこんな押し問答してるんだろう?
……ま、いっか。
コートの前をぎゅっと握って、私は背を向ける。
「じゃ、行ってきます」
「……仕方ないね」
直前に見えた苦笑気味の不二はちょっと好きだったけれど、教えてなんてやるもんか。
「お兄ちゃんの過保護!」
イタズラに付け足した言葉。
今ので、もっといい表情みせるんだろうな。
思うが私はそのままでいた。
「言わないでよ。わかってるんだから」
後ろから追う声を無視するのは彼のためだ。
裕太のことは好きだよ。
……でもね?わかるでしょ?
「不二」
ふと、私が作り笑いをやめて振り向いたら、不二は本当に弱った様子でこちらを見た。
「ごめんね」
君だったら好きになれる。
――途中で違和感覚えるにしても。
「謝らないでよ、」
「本人(裕太)にはでしょ?だから不二(周助)に謝るよ」
そう、裕太は無理。
――観月と会ってなければ分からないけれど。
少年の、真っ直ぐ過ぎるあの瞳が曇らないように、皆祈ってるから――私もそれには答えたい。
ずるいけど、裕太にはそのままでいて欲しい。
「だから謝らないよ……本人にはね。謝らないですむように……『言わせない』よう、頑張るから……」
不二が目を見開いた。
何があったか分からなくてもきっと何となく異常に気づいたんだろう。
今度こそ無視すると、私は校門を飛び出した。
向かうのは聖ルドルフ学園。
でも『観月の元に』じゃない。
昨日、塾の帰り道。
『協力してね?』
らしくない甘えた声は自分が思うより涙がかってた。
『絶対私を好きになっちゃ駄目だよ?』
『何を急に馬鹿なことを……』
『例えばキスしても……
もっと先の関係に成り行き上なってしまっても……』
『そんなことありえません』
『ありえなくてもそうなったら分からないでしょ?』
『……っ……』
分かりにくくキスをせがんで、等価で捨てるつもりだった恋心を、私は少しだけ悼んだ。
『ねえ観月?なんで遠慮してるの?』
『何、馬鹿なこと言ってるんですか。元々貴女なんて趣味じゃないんですよ』
それはまだ一昨日の会話。
続きはもう、二度とない会話。
あのね、観月?
私はバーチャルリアルな彼に告げる。
ならなんで、私を放っておけないの?
嫌いになられようと努力してることは見透かされたくないだろうから決して言わないけれど……それくらいじゃ私の気持ちは動かないんだよ?
君が私の行動を見透かして、軽蔑したふりしながらも……決して短くないキスをしたように。
「ばーか」
本当は好きなくせに。
それはどっち?
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