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階段の上から呼びかけて捕まえた観月は達成感と程遠い顔をしていた。
――大分、疲弊してるな。
原因は分かりきっているが、関係ない話題から入った。
――個人的にお礼はしたかったし。
「観月の手配のおかげだね」
「いえ、あれはの提案で……」
ぼろを出したのは観月だった。
ちょうどいいだろう。
この機に教えてやらないと、また観月は暴走するんだから。
「ふうん。でもいつの間に?彼女風邪でずっと休んでるって」
「え?」
「こないだの休みの日以降かな?塾、来てないんだろ?」
「何でそれを――」
「裕太の情報。正しくは不二周助かな」
僕がその情報を取り上げたのは偶然だが、ここで観月が聞くのは必然だ。
観月は顔を背けた。
嘘だとばれない程度に俯いて、素っ気無く答える。
「塾にはきてました。祝日の特別クラスで――」
「違うだろ?前、『今度の祝日は休みだ』って言ってたじゃない?」
「……」
「観月……顔に出てる。裕太はわかんなくても僕はごまかせないよ。も多分――」
――分かってるんじゃないの?
言おうとしたら、すごいスピードで、待ったがかかった。
「知ってます」
自己申告のほうがマシということなのだろうか。
それにしても観月の顔つきは暗い。
階段を折りかかったまま、僕は近づくことをためらった。
だが、人に聞かれても困る話題だろうという計算が僕を動かす。
「言ったの?」
僕が駆け下りるでもなく、ゆっくり移動しながら観月に尋ねると、観月は首を横にふった。
「いいえ」
「彼女も観月のこと――」
ここでもまた、観月は会話を遮る。
「言わないで下さい」
言葉の裏側で弱い悲鳴をあげる観月に、僕は理不尽な怒りを覚えた。
――付き合ってるなら、隠すことないのに。
「……なんだ。そういうこと」
しかし、嫌悪を持って告げた言葉に、付け足された観月の声はもっと弱弱しかった。
「決め付けないで下さい」
「分かりやすいじゃない?彼女」
言ってみてから、観月が本気で理解できていないのか、あるいは分かってしまうことを怖がっているのか真意が読めずに首をすくめた。
続きを待つ僕に観月は肩を竦めて降参だとジェスチャーで示したが、
「わかりませんよ。あの人の気持ちなんて」
浮かべられた苦笑の意味が、相変わらず僕には分からなかった。
「卑屈なこと言うね」
――らしくないよ?
いつもは自信たっぷりな癖に?
半ば喧嘩を売る勢いで聞くが、観月は堪えていない。
そこにどんな確信があるのだろうか。
「本当にわかりませんから――」
そこでようやく事態が掴めた。
きっと彼らは気持ちを殺しあってる。
多分、裕太のために。
――観月はなんだかんだで裕太が大切だからね。
……は了解してしまいそうな子だし。
この間の、泣きそうだった彼女の顔が浮かんだ。
誰もきづいてなくても、は強がりの常連なのだと僕には分かっていた。
観月に似たところがある。
それから僕にも少し――。
「行ってくれば?」
裕太の恋路の邪魔にはならない。
関係なく、もう選ばれてしまってるのに、何で観月は気づかないんだろう。
関係なく、もう選んでしまっているのに、何では堪えるのだろう。
「観月たちの答えは間違ってると思うけど」
――知ってるんだよ?
アドバイスした僕に、観月は笑う。
笑い方が強がってるに重なって、いつもなら誰かに肩入れしないはずの、僕の気持ちはがくんと揺さぶられてしまった。
まさか観月にセンチメンタルな気分にさせられるなんてね。
やってられない。
「合ってます。こうしかできないんですよ」
「そういうと思った」
でも、このままなんて許さない。
こんな気持ちにさせといたまま、放っておかれるなんて僕が困る。
後でどうせもっと面倒なことになるって、なんで君らは分からないんだ?
苛立ちを抑える僕を見て、観月は知った顔で、
「でもご忠告は承ります」
言うものだから、
「じゃ、適当に寮母さんにはごまかしておくから」
僕は喧嘩を売った。
「何を言うんですか すぐに戻ります」
意味合いに感づいて慌てる観月を無視して、
「それでも――」
――『知った顔』なら同じくらい得意なんだ。
僕は観月とがどうなろうと知ったこっちゃないが、これで後悔だけはせずにすみそうだ。
馬に蹴られるつもりもないが、あの二人は似すぎてる。よりのよって意地っ張りなところが。
今夜は観月を締め出す覚悟で張ってやるのもいいかもしれない。
「塾に行くだけですよ」と出て行く観月の横顔は焦っていた。
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