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「えっ?が?」
聞き返した声の調子が多少強かったのはやむをえないと思う。
本当に驚いたんだ。
「ああ、兄貴から聞いたんですけど……」
裕太に罪はないよ。
「先輩、うちを受けるらしいって」
「ふうん」
また厄介なことになってるな。
会話を終らせて、自分は一つ決心をした。
久しぶりに下級生の練習に付き合っていて、が来てることにも吃驚したけれど、まさかそんなことになっているだなんて……。
――よくないな……。
誰のためにもならないことに、彼女は――観月は気づいてるんだろうか。
* * * * * * *
「どういうこと?うちを受験するってきいた」
を責めるつもりはない。
馬鹿でかい休憩用の水筒をハウスまで持って帰ってきた彼女を捕まえたのはむしろ偶然の産物というやつだ。
タイミングがよすぎて、話しかけないのも不自然――そういうことってあるでしょ?
「誰に?」
は予定調和のように、ナチュラルに聞き返すもので、余計僕はカチンときた。
でも、なるたけ表には出さないよう答える。
「裕太から。……不二とはどういう関係なの?」
――情報発信源はどうやらそこみたいだけど迂闊すぎやしない?
本当かどうか分からないが、そんな情報は今状況を悪化させるだけだ。
事実なのだとどこかで思うが、今は極力出すべきじゃなかった。
「周助の方ならクラスメート。悪友で宿敵」
意外と単純な答えが返ってきてほっとする。
計算や、打算で情報が来たわけではない確認がとれたせいかもしれない。
「複雑ってこと?」
租借しつつ、(あの試合での性格の悪さを思い出しながら)単語を選ぶと、は
「そう。言わなくても見透かすし、何となく通じてしまう」
嫌いじゃないけど――と、そちらもそちらで言葉を選んだ。
――つまり不二とのつながりは、僕との関係に近いってこと?
直接話はしなくても暗黙の了解で、観月とのことが分かってる。
出来るだけ、言葉にしたくないとお互いに思ってる。
そして、不二周助は間違えなく「裕太」寄りなのだろう。
――僕は……
「わかったけど」
――どっちも嫌だ。
面倒に巻き込まれてやるつもりはない。
も、口にしないで欲しいというニュアンスで話を進めてくる。
「ちょうどいいかも」
思わず声に出してしまった。
――少し揉めてくればいいんだ。
そんな願望を。
「え?」
は分からないと顔を上げて、こちらを見た。
「たちは間違ってるし」
だからいっそ露呈してしまえばいい。
僕はしったこっちゃなくても、観月とを見ていてもどかしい気持ちはある。
赤澤までが気づきかける観月の気持ちは伝播していて、僕らにまでもやもやした何か影響を与えるのだ。
――恋煩いといってしまえば楽なんだろうなぁ。観月、思いつめすぎてるから……
柳沢にでも爆弾投下してもらいたいと思うが、混乱するからこれ以上広める気もなかった。
もっとも、あれで僕の相方は、人のことをよく見てるやつだから気づいてる可能性もある。
――そうしたらそうしたで言わない気もするな。
考え込んでいたら怪訝な顔をされた。
「何が?」
「裕太のこと」
「それ、わかってるわ」
声が途中で封じられた。
上から畳み掛けるふうでもないが、はゆっくり言葉を選んで続けた。
「好きだよ。いい子だよね。……でも、私はそういう意味では好きにはならないと思う」
「知ってたの?」
裕太の気持ちを。
言わずに問いかけ、
「なんとなく」
微妙な表情で答えられた。
その苦笑に僕はもう一つ質問をした。
「そう思うならなんではこれ以上面倒な状況になろうとするのさ?」
「受験は元々の予定。侮らないでね」
答えは戻った。
でも質問事態がよくわからない。
自分でしておいて変な話だけど、彼女は「なんで受験するの?」と取ったのだろうか。
僕はそうじゃなくて、ただ「なんで観月とのことを隠したり我慢したりするのか」を聞きたかっただけ。
かみ合ってないような気もしながら、次の言葉を待つ。
「それと、観月ね、裕太になんだかんだ言いながらちょっとだけ罪悪感もあるの。これ以上刺激したくないんだ。だから受験やめるべきか正直迷う」
「ずっと前から受けるつもりだった?」
「うん」
そこで納得がいった。
は確かに頭がいい。
話してるだけで思う。
将来を考えてうちをうけるのに文句を言う立場なんてない。
誰も止められないし、それなら逆にここで受験に理由づけされてしまう方が不快だろう。
「そもそも恋愛なんて邪魔とか言ってそうだし。そしたら、私がいることはプラスにならないから。作業するのに雑務マネージャーは必要不可欠っていう計算もあるみたいだけど……」
「それでいいの?」
その様子に受験理由はおいても、が観月の言うとおりマネージャを受けるつもりだということも察せられた。
――それじゃこそ、観月に使われるだけじゃないか。
使う観月の苦しさも分かるけど、そんなことしてもお互い、どうなんだ?
文句にもならないが、何となく疑問に思えて僕は言う。
……ナンセンスなことは好きじゃない。
それに二人がどうなっても知らないし、そこまで支障もでないだろうが、これは部内の問題でもある。は入学しようがしまいが、既に身内――部員だと思うから、気にはかかった。
「集合!!」
遠くで、休憩終了の声が聞こえた。
でも、僕はハウスを去らない。
もともと助っ人できてるから時間は気にしなくて構わないのだ。
は気にしたらしく、ハウスの入り口に一歩踏み出しながら、「わかんない」とすまなそうに告げた。
「裕太が期待するよ」
恋心の肥大を踏まえて、僕は忠告した。
面倒な事態がすぐそばまで押し寄せてるかに見えた。
だが、の
「憧れは自然に納まるから」
答えには、事情が飲み込めていてもちょっとムッとした。
裕太のさっきの嬉しそうな顔は、覚えてるからだ。
子供なりに真剣だ、そもそもたかが一年の差だ。
それで僕は多少意地悪な指摘をしたんだ。
「君が観月を想う気持ちと、裕太の気持ちが君を好きになることと……どう違うワケ?」
は言葉に詰まって、踏みとどまった。
ハウスの椅子を直し、考えがつかないように、
「うまく言えない……」
精一杯と言えそうな、告白をする。
「でもそばにいたい」
告げられた声があまりにか細くて、困惑させられる。
「、泣かないでよ」
涙は出てないが不安になって尋ねたら、
「不順な動機だと思われるかもね。実際、そうかもしれないし」
逆に笑って返された。
「ごめん」
こっちはただ謝るしか出来なくなった。
――嫌になるな。
「なんで謝んの?可笑しな木更津」
は既にペースを取り戻してる。
こっちは、「観月が苛立ってるから八つ当たりしたみたいだ」と半分本当の嘘を口走りながら、やたら後味の悪い思いをした。
――我慢すんなよ。
辛そうに見えたから泣かせちゃいたかったんだ。
気づいても、もう遅い。
彼女は我慢し続けるだろう、きっと僕の前では。
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