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朝練が終って、クラスに戻った頃のことだった。
突然、携帯が鳴って、僕はベランダに出る。
名前表示を見たが、見覚えのない番号だった。
切ろうとも思ったが、今裕太は林間中。
もしかして……と思う。
少しの間悩んだ後、鳴り止まない呼び出し音に負け、通話ボタンを押した。
「はい……え」
思わず声を上げたのも無理もないと思う。
『だから観月はじめです』
「観月ってルドルフの……?」
間抜けな質問には、相手の方も納得してる様子だ。
『そうです。すみません、朝早くから……』
「で?用件は?」
――裕太に何かあったとか?
ありえない話じゃない。
でも、それなら家に連絡が行くだろうし、家から電話があってしかるべきだ。
観月がそこまで気がきくとは思えなかったし。
『驚かないで下さい』と観月は前置きをしてから、一気に事情を話した。
朝一番の頭で反芻して、ようやくが欠席であることと、何故かルドルフの寮にいるらしいこと、まだ寝てることなどを掴み取る。
総合した現状は、最悪に組する部類のものだったが、可笑しな想像のせいであって実際何があったのかなんてわかりようもない。
「の欠席をそれとなく伝えればいいんだね」
『ええ、すみませんがまだ疲れてるみたいで……』
――……爆弾発言と受け取るよ?
観月本人気づいていないようだから、何があったのかなんて本当は分からないけどさ。
「……わかった。適当に言っておくよ」
――ただし、僕が介入したせいでが何か言われても知らないから。
ただでさえ悪評が立ったっていうのに。
「女の嫉妬は怖いよ……」
考えず呟いた僕に、観月は「は強いですから。それに、噂と事実は違います」ときっぱり告げた。
捻じ曲がった僕にはその声が誇らしげに聞こえて、面白くない。
「まさか、君とこんなふうに話すことになるなんてね。思いもしなかったよ」
『こっちこそ願い下げです』
不機嫌な声に安心する程度に、穏やかな会話に僕らはほぼ同時にため息をついた。
――嫌になるな。
「口止めはいいのかい?」
『貴方は言わない――いえ、いえないでしょう』
裕太が絡むから、と言外に観月はいい、僕は答える。
「さあどうかな?随分、過保護だと思われたものだね」
『そちらこそ。紳士だとお思いですね』
「一瞬耳を疑ったけど。……――もし、そうなら許さない」
ただ、正直その可能性はそこまで高くないと踏んでる。
……どうかな?
『同意の上でも?』
「ありえないから」
――僕のせいで、彼女は素直にはなれないから。
自分にどこか苛立ちながら告げたせいで、僕の声は珍しくシリアスになってしまった。
本当のところ、そうなってくれた方がまだ楽かもしれないのに。
『こっちこそ有りません。はただの友達です』
――嘘つき。
観月の調子は変わらない。
怒りを抑えることを覚えたのか、よっぽど隠さなきゃならないと思ってるのか。
きっと後者だ。
「どうも思ってないなら、できるんじゃない?」
『あえて相手にする理由がない。女は嫌いです』
「へえ。も女だよ」
――観月にとって、唯一の。
……とは言わなかったけれど、多分当たってる。
『知ってます』
冷静に彼は言って、『お願いします』と電話を切った。
『だから、嫌いです』という言葉は聞けなかった。
彼にも決してつけない嘘だったのかもしれない。
あるいはその必要もないくらい、僕を信用してるのか。
――どっちにしろ嫌になるね。
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