機会を探していた。
学校じゃ先輩達にからかわれるし、唯一三年が来てないときには告白しかけたら当人に遮られた(あの人無自覚だから性質悪ぃよ)。
そうしてらもう選択肢は一つしか残らない。
――ここまで来るなんて……。
在籍の時期は短かったのだけれど、一度は通った学校だ。
青学の校門の前で、俺は中の様子を伺った。
幸い、俺らは短縮授業で、最後の科目は休講だ。
問題があるとしたら一点だけ。
兄貴に見つからないようにすること。
――………って俺馬鹿か?……
こんな目立ちやすい場所にいたら絶対――
「い、乾さん……」
ぬっと横から現れた周助の(だと思い込んでいた)影は別人のもので、印象的なメガネの反射が不自然に目に映る。
「不二なら、もうじき現れると思うよ。……それとも、かな?」
「えっなんで――」
忘れてたけれど、見上げて納得。
手元にはノート、目がぎらり。
――この人も観月さんと同じ属性だったな……。
そういうことだ。
「それにうちのマネージャーに誘ったんだが、断られちゃってね」
「兄貴から聞きました」
ああ。
ルドルフ イコール先輩
ってことなのか?
俺は軽く頷いて、観月さんよりも話しやすい先輩だなぁと妙に感心した。
青学にいた頃には気づかなかったが、割りと後輩と打ち解けてる人らしい。
乾さんは苦笑を浮かべた。
「まあ、俺も核心こそなかったものの、は――」
「乾!」
上から耳慣れた声が降ってきて、乾さんの言葉がかき消された。
周助だ。
何も、息をきらしておりてこなくてもいいっていうのに……。
こいつの、可笑しなところで弟馬鹿な性格をどうにかして欲しい。
半分は面白がっているのに、周囲には見分けがつかない(格言う俺もパーフェクトには理解しようもない)ものだから、ますますからかわれるのだ。
「不二」
「クラスの子が探してたよ。何でも当番だって」
「掃除か。悪いな、じゃあまた後で」
こうして頼みの綱、乾さんも戻っていってしまうし。
――これじゃ今日はそれどころじゃないかもな……。
展開が読めてきて、俺は肩を落とした。
「裕太、来てたんだね?何か用?ああ、か」
「んでだよ……」
「観月のお使いかなぁって。でも、その様子じゃ違うみたいだね」
「なんで観月さんの――」
『なんで観月さんのことが関係あるんだよ、先輩に』
言いかけてストップした。
まだあの噂に引きずられてるらしい。
――んなの……
確かめないで勝手に決め付けてる自分がすごく汚く思えて黙り込む。
兄貴はしってか知らずかにっこり笑って、
「だって、ほら、このあいだ観月と電話で色々話したし」
などと、とんでもないことを言い出した。
「ありえねーだろ」
「そう?電話がかかって来たのは本当だけど?」
「ばっ……観月さんはあからさまに……」
「あからさまに?」
「……苦手、だろ?」
――お前のこと嫌ってるだろうが。
直接言うのもはばかられて(反応を想像して疲れただけという話もある)どもりがちになった。
――注意すべきはそこじゃないような……
まあいい。一先ず電話の件は忘れておこう。
「安心して。僕は嫌いじゃないよ?」
「――嘘つけ……あんな試合しておいてよく言うぜ」
「まあね。否定はしない。ところで、裕太。腕の調子いいんだって?から聞いたよ」
「ああ。観月さんも気をつけてくれてるし。先輩が結構詳しいからストレッチとかアップとか色々新しいの取り入れてくれてるから」
「へえ。ルドルフに行かせるのが本当に勿体無いね」
兄貴は意味深長に言うから、からかうためだと思ったが、特にそういった追撃はなく、ただ安心した俺に一言、
「落ちたら青学のままなんだよね。そうならないかなぁ」
と、人でなしな意見を述べた。
もちろん責めるまでもなく、すぐ「冗談だよ」と付け加えたけど。
――コイツ、半分以上本気でいってるよな。
「けれどさ、実際追い込みの時期だからね」
「ああ、そうか……受験って……」
「そろそろだろ?今日も、塾だって言ってたから」
「そうか」
そうだよな。
つい考えなしに、はっきりさせようと思ってきてしまったが、先輩にとっては大切な時期なのだ。
――出直すかな。
諦めて、息を吐き、俺はさっと踵を返した。
ルドルフまで結構な距離がある。
無駄だとは思わなかったが、これ以上兄貴といて注目の的になるのも嫌だし――現に遠くから既に視線を感じる。男女とわず……あるいは女子の方が多いが――先輩が急いでいるとなれば俺には用もない。
だが、一歩踏み出そうとし……
――いてっ
引っ張られて危くバランスを崩してそのまま壁に追突する。
「なんだよ?」
こんなガキみたいなイタズラするのは周助のほかいないくて、遠慮なく声を荒げたら兄貴はいつになく強引な口調で、
「ねえ裕太。寮に届け出せる?連絡でいいんだけど」
「だから、一体――」
「たまには帰っておいで」
「ここんとこ、大分帰ってるだろうが?」
――学校でよかった。
馬鹿な感想が出るが、こいつがなまじ女顔なものだから街中で押し問答になるとカップルと勘違いされかねないのだ。(実際、一度あった)
それで、適当に断って急いで逃げようとしたときだった。
「のこと――聞きたくない?」
「っ……」
――卑怯だ。コイツは絶対人の弱みに漬け込んで……
だが、ここは耐えねばならない。
そうでないと、コイツに今後ともえんえんとこのネタで脅されるに決まっているのだ。
俺は平静を装って、「別にいい」と冷たく答えた。
しかしながら、やっぱり周助の方が一歩も二歩も上で――いいやそういう問題でもない気がする――爆弾とともに、俺を引きとめてしまえるんだ。
「ふうん。じゃ一つだけ。僕、今日、に『僕と付き合わない?』って聞いたよ」
――んだよ??!それ!!
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