「風邪ひいて一日休んでたけど?でも、いつだったかまでは覚えてないな」
リビングで紅茶を用意しながら、僕は裕太の質問に答えた。
さり気ない会話(本人はそのつもりだ)の間に、裕太はのことを聞いた。
ちょうど観月から電話があったあの日のこと。
が休まなかったかどうか。
――聞くってことは、何か『噂』か『推測』されるような事態に陥ってるってことだね。
ついでに、それで思い余って青学(うち)まで来たのなら、すべきことは一つだ。
確かめるのか、あるいは……
「告白するの?」
「ぶっ」
裕太は飲んでた紅茶をはきそうになって堪えたものだから、変な音がした。
その直後むせてるし。
――観月とのことは知ってるのかな?
気づかれないよう細心の注意を払ってる二人相手に、そう簡単に裕太が感づけるはずもないのだけれど、僕は気になった。
自分の紅茶にミルクを入れてスプーンで混ぜると、いつもより薄い色になってしまって気分が悪い。
むすっとしているときに、横から裕太が急に話をきり出すものでよく聞こえなかった。
「え?」
「……言わせてくれないんだよ、あの人」
――『タイミングのせいで先輩が悪いわけじゃないんだけどな』って、それ、絶対確信犯だよ?
は故意でそのくらいする子だ。
僕が観月の元へ追いやったあのときから、ナチュラルに裕太を、本人には感づかせないよう避けていたに違いない。
ますますこじれてるらしい。
大部分は観月のせいだし、自業自得だから何も言うべきではないが、こちらとしては堪らない気分になる。
――曖昧すぎてイラつくね。
『付き合わない?』って言ったときの気持ち全てを裕太に話すつもりはない。
の気持ちや観月が朝電話かけてきた内容……伝えてしまうつもりはないのだけれど、何だかそろそろ言ってもいいんじゃないかと思った。
だからさっきもあんなことバラしたんだ。
……そういえば、裕太があの一言であっさり家に戻ってきたのも意外だ。
「そうだ。連絡はいいの?」
「寮に?」
ならしただろう?と裕太は紅茶を啜る。
そう来るだろうと予想していた僕は訂正ついでに、
「先輩に。裕太がしないなら僕がかけてもいいけど?」
「どうせ、メモリは消したんだろ?」
「あ、ばれた?」
実際、何か会ったときの為にとってあるが、いう必要はない。
ここで重要なのは観月の話を出してみることだけ。
何かあったんじゃないかと僕の勘が告げている。
裕太はカップを見つめたままぽつんと呟いた。
「ノムタク先輩が俺らの合宿中に、寮で先輩を見たんだ」
「へえ。まあ別になら可笑しくないじゃない?マネージャーだろ?」
「でも、朝、なんだ……。しかも観月さんの部屋から出てきたって言うし」
――浅はかだな。
見られるなんて彼ららしくない。
ここで言ってしまおうか?――気持ちが揺れる。
ここで言ったらはどうするのか?――分かるから揺れても言わない。
単純に観月を苦しめたいような、そんな凶暴な気持ちもあったのだけれど僕はただ裕太の話を促すだけ。
「勘ぐりすぎじゃない?」
「赤澤先輩も前の日の夜先輩をみてるんだ」
「……で?疑ってて気まずい?」
「…………んなことねぇよ………てか、そう思うって言うか思いたいっていうか……」
可愛い弟君は横にあるクッションを抱きしめてる――抱き潰して、というべきかな?
言い淀んでる様子に、僕はコメントをせず待った。
味の薄すぎるミルクティーは冷めるとまずくて、途中まで飲みかけていたそれをおろす。
こんなことで、裕太とまた話すようになるとは思っても見なかった。
それすらも後ろめたいのは勝手に追い詰められてしまったとはいえ、にとって僕らがネックになっているに違いないからだ。
――観月は観月でこういうときに限って……
裕太に優しい。
の言葉を信じるのなら、今度ははめるつもりもなくて、ただただ……。
「けど、兄貴も前に言ってただろ?……ありえないとも言いきれなくて、俺――」
そうだね。
言ったよ。
「ねえ裕太」
僕も分からない。
多分、裕太も同じだろう。
「裕太は観月が好きなの?がすきなの?」
核心どころか裏づけになってしまった【朝の電話】がよぎる。
硬い観月の声。
『貴方にはいえません』と言い切ったのは、はたしてデータのせいなのか、それとも、彼の希望なのか。
裕太を傷つけたくないのは本音なのかどうなのか。
――僕は観月にいらだっているのか、に苛立っているのか。それとも……裕太に、なのかな。
答えがでようがないから、裕太をたきつける他ないんだ。
他人ごとならいくらでも放っておくが、自分の心まで曖昧に乱されるのは気に入らない。
かといって、観月を応援するのも癪だ。
「もやもやするのがいやなら直接観月に聞けば?」
――それが牽制になるんだよね?
勝てるかどうかわからないけれど、それは一種の支援活動。
直接聞かれたら観月は嫌でも誤魔化すのだろう。
その辺はわかってしまった。
もちろん、裕太本人にはそんなこと『手管』としては教えたくはないから、さり気なく急かす程度。
「『つきあってる』かどうか、分かればいいんだろ?別に好きでいることに罪はないんだから。聞いてみればいいじゃない?」
嘘をつくことと、認めることと、どちらが裕太を傷つけるのか――観月にはわかって居ない。
そもそも二人がどういう関係か、僕には理解しかねるが、あの半端さが僕を苛立たせ誰かを泣かせるに違いない。
――迷惑なんだよ。どうしたいのさ?
直接言えない問いかけを僕は裕太に託し、微妙な笑みを浮かべた。
……僕こそ、どうしたいんだろうか。
刹那、漠然とそう思いながら。
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