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物陰から覗くような真似をする気はなかった。
ただ、朝観月が推薦のテストに出て行ったことを知ってる身としては、どうにも気になる組み合わせだったから――ついつい目を取られたのだ。
「おい淳。あれ……」
「黙っててよ、赤澤」
目の前で繰り広げられてる光景の(表向きは平穏極まりない)すさまじさには呆れるばかりだ。
「何回目だ?あれ」と暢気に呟いた元部長(現段階でも部長扱いのままだけど)に真実をみて、余計にくらくらしたのは言うまでもない。そうでなくとも数日前、同じようなことがあった――そう記憶している。
* * * * * * * *
あの時は――
「あ、いいところに来た。木更津、これ運ぶの手伝ってくれない?」
コートに来るなり泣きそうな顔で言われて、僕は吃驚した。
あの、が、だ。
観月にも張るプライドを誇る彼女が素直にものを頼むとは到底思えなくて(言い方は悪いが、は何でも一人で仕事をしようとするんだ。馬鹿だと思う)凍り付いていたら、すぐ後ろに裕太が見えて合点がいった。
「貸し1だけど?」
受け取った水筒は本当に重くて、これにも驚かされる。
軽々と持っていたが、やせ我慢だったのだろう。
受け取りながら、はあからさまにほっとした様子を見せた。
もしかしたら、『別』の理由のせいかもしれないけれど。
――裕太から逃げてるから、か。
きっと「やりますよ」とあの後輩が名乗り出るタイミングまで読んでいたに違いない。
そのうえで、僕を捕まえたのだとしたら大した性格だが……。
――でも、それがだからね。
観月が得意としている「打算」と、勘違いはしているが裕太を思いやっての行動。
あとで観月をいびり倒そうと心に決めながら、裕太の残念そうな瞳からさりげなく目を逸らした。
それですむのだからいいと思っていた。
は徹底的に裕太を避けてるわけではなく、二人きりになることと借りを作ることから逃げてるに過ぎないのだから。
* * * * * * * *
でも、今は……。
「何、赤澤、あれを知ってたわけ?」
「ああ。つーか、が物凄く自然なタイミングでこっちに気づいて声かけてきた」
――同じかよ。
そして、今誰もいない――彼女は僕らに気づいてない――は更にズルイことをしている。
裕太はあからさまに「告白」なシチュエーションなのに。
「あの、先輩、俺……」
「おっ、ナイスタイミング!流石は裕太。そこのスプレーとって?」
「あ、はい」
「ありがとう」
俺にはの意図がわかるけど、あれでは、裕太は単に「鈍感」「場を読まない」=だと思うに違いない。
ただでさえ恋は盲目なのだ。
もでまたも完璧なポーカーフェイスを通していた。
――観月もだよね。普段は自分のためにポーカーフェイスなんて貫き通せないくせに、お互いが絡むと無駄に能力を発揮するんだから。
横を見れば赤澤が唸っていた。
……気持ちはわかる。分かりすぎるほど。
僕らはこれ以上見ていられなくなって、踵を返したが、
「あとついでに、もう一つ。いいかな?」
「なんですか?」
「そこの、それ……。観月の忘れ物だと思うから――」
その言葉に凍りついた。
さりげなく裕太を見やると表情が暗い。
のそれは無意識だろう。
【観月】に救いを求めてる。
裕太に意識させないように、と務める一方で、強烈に観月を意識させかけてる。
時折自分でも気づいて、
「あ、赤澤のかな。そっちのは多分、ダーネね」
……なんて、今みたいに軌道修正しているが、ボロが出るのも時間の問題だろう。
――まあ、裕太は鈍いから気づかないかも。
「アレ、ちょっと痛いよな」
「……そうだね」
赤澤と僕は黙り込む。
今度こそそっと場を離れた。
* * * * * * * *
練習はもう終っていたから、僕と赤澤は着替えた後、自動販売機の前で飲み物を買って休憩した。
そこで聞かなきゃならないことを思い出す。
「赤澤はいつから気づいた?」
少し考えた後、赤澤は「ああ」と呟いた。
どうやら質問が唐突すぎて、理解いかなかったらしい。
「怪しい節はあったけどよ、正直観月に聞くまでわからなかったわ。てか、あれ?あの夜を帰さなかったのが決定打つーの……?……で、聞くが、も――……なのか?」
ふう。
こちらはため息を落とす。
「じゃなきゃ、裕太から逃げる理由があると思う?」
「いや……」
「ま、は絶対認めないだろうけどね」
「結局、アレだろ」
赤澤はまたも代名詞で話をするが、言いたいことはわかった。
こちらから言い換えてやる。
「似たもの同士ってやつだね」
あの二人はどこまで意地を張り続けるのだろう。
もう大分たっているし、多分裕太という第三者が入らなかったら、そのままズルズルこの関係のままゴールまで到達しかねないタイプだと予想もつく。
――だからこそ不安になるんだ。
まわりがなんのかんの振り回されていたとしても、あの人種には見えちゃいなかったりする。(迷惑極まりないことに)
自販機から出たスポーツ飲料は、が調整したものより甘かった。
正直な話、喉の奥が痒い。
アンマリ趣味じゃない、と思った自分は予想以上にに馴染んでいるようで――気づけば顔を顰めていた。
「今日、観月、推薦テストだってね」
「……が受かれば同じクラス決定だな」
制度上、特別推薦の人間は、少なくとも一年間はその人たちで構成されたクラスに入る。
あの二人がこのままの状態で暮らせるのだろうか。
「裕太、悲惨だな」
「どっちかっていうと、悲惨なのは観月のほうじゃない?あと、振り回される僕らとか?」
「言えてる。にくっつかれた方が痛手だわな。観月が荒れること、目に見えてるし」
赤澤は曖昧に苦笑して、
「それはないだろ」
僕は、裕太には悪いがそう予想した。
ただし――と心で注釈をつけるのだけは忘れずに。
――えんえんとこの状況を引きずる可能性はあるけど。
三角関係なんて山ほどあるけれど、ここまで徹底的な両想いでの関係はなかなかないと思う。
どちらかというと……
「なんだか、不倫とか禁断っぽいよね」
言ったら、赤澤にびびられた。
観月に聞かれてたら鉄拳を浴びてたかもしれない。
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