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寮で観月にあったのはその日の夜だった。
夕方、と会って、ちょっとばかし後味の悪い光景を見ちまったせいか、何となく観月に八つ当たりたい気もして、俺は観月の部屋のドアを叩く。
寮への届けは出してないから、部屋には上がらず話だけするつもりだったが、扉をあけた観月はあっさりと俺を招きいれた。
中に入ると既に木更津淳がいて、ついでだったのかと納得するも、すぐさま目の前に紅茶が出されるのは妙な気分だった。
この時間に、この部屋でくつろいだことは数えるほどしかない。
部活と、勉強と……俺らはこれで結構忙しかったのだ。
今更ながら実感する。
――こいつは塾もいってるしな。
済ました顔で、自分のティーカップを持ち上げた観月を盗み見たら、
「で?何か用ですか?」
と、これまた澄ました調子で声が返った。
「別に」と俺は返し、もう一人の方に「お前は何しにきたんだ?」と目で問う。
淳は俺とそっくりに違いない、困惑の表情で肩を竦め、
「世間話してたとこ。コイツ、裕太に、『とつきあって「は」いません』って答えたらしいよ?」
「は?」
誤魔化したとか、答えたとか――どちらとも言えない馬鹿みたいな返答。
俺は思わず観月に向かって口走っていた。
「それ、お前のミス?」
――肯定したっていわねーか。その答えって……。
本音は十分伝わっただろう。
「黙れ」
観月はいつもよりずっと低い声で言って、不機嫌そうに俺を見た。
とっくに沈黙させられたらしい淳がお茶請けのポッキーに手を伸ばす。
――気まじぃよ。
恨めしそうな淳の目が、『地雷』を踏んだらしいことを物語り、観月は観月で罰の悪さもあるのだろうが、心情を吐露した自分を自嘲しているようだった。
――なんだ、このお通夜みたいな雰囲気は……
俺は耐えられなくなってくる。
「それよりお前テストは?」
推薦の発表は数時間で出る。
確か今日だったから、もう分かっているのだろう。
その如何もまた、観月の機嫌を損ねる理由になっているのだろうが、友人として、コイツがスポ待(スポーツ特待)以外で上にいけるってのは喜ばしいことだ。
落ちるわけがないだろうから、気楽に聞けた。
だが、相手は最近定着してる呆れ顔をみせる。
――んでだよ?
「受かりました」
「早く言えよ。祝えねーじゃん」
「そんなのいいです」
「あー」
――そうか。納得だな。
「が終ってねーし」
「「………」」
――……なんでこうなるんだ?自分。
俺は失態に気づいて口を噤む。
自分がついつい口を滑らせることの多い人間だということは分かってる。
「一緒に祝ったらどういうことになるかわかんないのか。この馬鹿が」と観月の目が訴えていて、穴があったら入りたくなった。
「今のは赤澤が悪いね」と淳まで視線で援護射撃してくる。
――ああ、そうだよ。
……分かってる。俺が悪ぃのは。
――けどこのままってわけにもいかねーだろ。
で、俺は観月のすましきった表情を見ているうちに、自分が馬鹿でいていいような気がしてきた。
紅茶のカップを仰いで、残りを飲んだ後、今度は故意に口を滑らせた。
「明らかに好きなのに何でお前らそうなんだ?やっぱ、俺、わかんねーんだけどよ」
反応は正しかったらしい。
ヤツは黙り込んだが、今度こそ本当にぐうのねも出ないらしかった。
すかさず、さっきとは逆に、
「そうだよね。観月馬鹿じゃない?」
援護の言葉はこちらについた。
「なあ、いつまで続ける気だよ?」
この機に問い詰めてやろう。
そうでもないと、この堅物は吐かないのだから。
根が真面目な奴はこういうところが困る。
変に意固地で、思い込みが激しいのだ。
「明るく祝いてーんだよ。こっちは。あんまり意地張ると取られるぜ?……つーか愛想つかされねぇ?」
「………」
――あっちもあっちでだけど、男だろ?いいたかねーが、元々漢前な観月らしくもねーんだよ。
黙り込むなぞ、あってはいけないのだ。
それは観月が観月自身に課したこと。
相当堪えたのだろう観月の様子に、俺はひたすら時を待った。
淳も横でじっと伺っている。あくまで気の無い素振りは、プライドの高いコイツに対する思いやりだろう。
やがて、観月は搾り出すような声で――
「もう……遅いかもしれませんね……」
そう呟いた。
珍しい弱気な発言に、俺らは顔を見合わせ、
「「馬鹿(か)?」」
肝心なことを忘れていたらしい。
観月は変なところで自信がない。
たきつけるくらい許されるだろう。
「裕太はともかく、兄貴の方にとられんぞ?」
この方が有効だということもとっくに分かってる。
――まあが不二周助を好きになるとは思えねーがな。
……彼女は観月以外みちゃいねーんだよ。
けど、あんなふうに女にかわさせるのも、裕太を宙ぶらりんにさせておくのも、俺は認められねー。
観月の気持ちは分かっても。
同じ気持ちでチームメイトは「同意」と挙手した。
「取られなくても会いに行ったら?」
もっとずっとありえそうな意見を述べて。
「テストのこと聞きたいみたいだったから」
今度こそ、観月は動くだろう。
――俺らも大概お節介だよな。
それでも、中立も何もなく――動かなきゃ停滞するだけだ。
これ以上の問題は御免だから、と言い聞かせ、
「ごちそーさん。うまかったわ」
俺は部屋を後にした。
しばらく一人にさせてやれ、と淳に目で合図して。
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