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裕太の気持ちなら聞く前から予感はあったんだけど、俺にとって先輩は「分かり難くて不器用な人」という印象で、たぶんかなり裕太の中の先輩とは違ったから、詳しく聞くと新鮮な感じがした。
――『恋ってそんなもんだ』とか赤澤部長あたり笑って言いそうだよなぁ。
* * * * * * * *
夜に、裕太の部屋を訪ねるのは久々だった。
先輩方と一時期入り浸ってたけど最近はテストだの、なんだの、部の調整引継ぎ関連も相まってあまり機会がない。
寂しいっちゃ寂しいが、こんなもんだよなと冷めたことも思った。
――ふり、かもしんねーか。
正直、来年からいなくなるってことはまだ考えたくない。
「告白できてないんだ?」
観月先輩直伝のお茶を入れてくれた裕太に、特に聞く気もなく話をふると意外な事実が出てきた。
裕太も煮詰まってるみたいだし聞くこと自体は苦じゃない。
人間は聞く方か話す方か、どちらかにタイプが分類されるらしい――これもまた先輩の受け売りで、俺には難しくていまいちわかんないけど、多分俺は聞く方が向いてるんだと思う。
それで言うと裕太も本当は「聞く方」。
――でも、たまには話せ。
そんな気分で、聞くともなしに聞くと、なんと告白する前に「好きな人がいる」という話を聞かされたそうだ。
ご愁傷様としかいえない。
不幸が似合うのは裕太らしいし、俺もそう思ってんだけど(許せ裕太。けど一理あるんだよ。先輩の言うことにも)顔をしかめてる裕太にはコメントしづらかった。
「……つーか兄貴のことかもしんねー」
……気づいたのは入ってきてすぐだが、ともかく裕太ときたらお兄さんに関わる全てが鬼門に変わるやつだからな。
兄貴とはあの天才不二周助だ。
「天才」の字で読んだら、尊敬してるわりに裕太、機嫌悪くなるから口にはしないが、やつの兄貴はホンモノの天才だと思う(観月さんとの試合はマジに怖かった)
ともあれ、俺は裕太とあの人がどうにも結びつくようには思えないから、比較以前の問題だ。
DNA神秘ってやつだと思う(DHCと間違えて去年赤澤部長が馬鹿にされてたからその時に覚えた。ちなみに本当はまだ遺伝の勉強してない)
記憶をたどると、先輩と不二周助は同じクラスだという事実に思い当たる。
特別仲がよくはないが、妙に話をしているのだとも聞かされていた(主に裕太から)。
――裕太の思い込みじゃないのかぁ。
「へえ。聞いてみたのか?お兄さんも満更でもないんだろ」
「『うん。僕かもね』って返された」
「ははは」
――あの人、言いそうだよな。
思わず噴出してしまった。
実は前の試合の後、裕太と一緒にあの天才――じゃなかった、裕太のお兄さん、と話したことがある。
そのときも「弟をヨロシクね。ムキになるところが可愛いから」とか恐ろしい声をかけていた。
心底、この人が兄貴でなくてよかったと思ったのも、俺の密かな秘密。裕太にはいえない。同意された後思いっきりへこまれる。それに裕太はたぶん相当のお兄ちゃん子だ。
「笑えねーよ」
裕太はぷいっと横をむいて不機嫌そうに言った。
もう一度検討し直す。
単に兄貴に拗ねてるのでなく、先輩を想定して……
――そうかも。
俺は冷静に判断して、額に皺をよせてしまった。
こういっちゃ悪いが、天才不二周助はつかみ所がなく、なおかつ最低の性格らしいが女の子にもてる。敵としては観月さんよりも性質が悪い。特に―― 一応、兄弟の確執もあるし。
だとしたら解せないのは裕太の明るさだ。
いつもなら必要以上に悲惨になってるんだが今回は違う。
カップを受け取りながら聞く姿勢を作ると、裕太はため息をついた。
絶望というより呆れた口調で、続ける。
「兄貴、多分さ」
「うん」
「先輩のこと好きってわけじゃないんだよ」
「え?」
「電話でその話を吐かされたときも、『そうだったらいいかもしれないね』とか言ってて他人事口調なんだよな。俺、ふざけんなって言ったんだけど、兄貴は先輩が無理ばっかしてるの分かるって言うし、『僕なら無理させないから』って――」
――すごい。
流石もてる人は言うことが違う。
驚く俺に裕太は諦めたように、
「あれはマジだと思う」
……と認めた。恋愛でなくとも真剣だった、と。
俺は裕太の言葉から、不二周助と先輩の関係がなんとなく読めてきた。
――恋人とかでなくても、本当に友達なんだろうな。
俺はそういう相手がいないけど、俺の友達でも滅茶苦茶仲いい女友達がいるやつがいる。
彼女にはきちんと別に恋人がいて、いつだか、あいつに『辛くねーの?』って聞いたら『馬鹿言え、あれは俺の親友だ。恋愛だったらとっとと奪ってるっつーの』って言い返された。
そのあと、結局彼女は彼氏と別れたらしいが、そんなこと関係なくあいつとその子の友情は続いている。
『不幸にさせるくらいなら一緒にいるけどよ。ま、こっちが惚れる女がいなければの話だ』というコメントを貰ったこともある。
――たぶん、同じような感じなんだろ。
先輩ってつかみ所がないところが少しだけあの天才に似てる。
ただし、怒ったときの反応はどっちかっていうと観月さん似なんだけど(ポーカーフェイスは保てないタイプだ)
「どうすんだ?それで?」
「わかんね。観月さんと付き合ってるのかと思ったらそうじゃないらしいし、好きなヤツは兄貴かもしんねーし。俺に関係ないから告白はしたい――と思うけどよ。言って困らせるのも嫌だ」
「そりゃな」
あの人がそれくらいで困るかどうかは分からないが(不二周助みたいににっこり笑ってそうな気も若干する)関係ないとは言え、マネージャーなるんなら再来年はまた鉢合わせるんだろう.気まずくはなりたくないにちがいない。
――本当にルド受けるみたいだし、頭いいから入るよな。
それはそれで嬉しい。先輩は妙なところ失敗してるところが有るのも事実だがテーピングやらドリンクの配分やら、核になる部分はかっちり押させてる。さすがはもと運動部だ。
だが、ふった後の人間やらふられた後の人間とすると、半端であればあるほど辛いと聞く。
俺は裕太の肩をぽんと叩いて、
「兄貴にだけは譲るなよ」
と笑った。
兄は好きではないのだからこのアドバイスが最適かつ最高のもので……他に秘策は預けようがない。
俺もこういうのって苦手だし、まだ部活の連中と遊んでる方が楽しいとこもある。
そりゃ彼女って響きに憧れもあるが、先輩考えると……
――ちょっと大人びすぎててアレだよな……
憧れるやつは憧れるんだろうが、悪いけれど年上の素敵なあの人というタイプとも微妙にずれてるところがあるせいか、イメージが沸かないのだ。
その辺は趣味の問題だろうが。……それはおいといても、裕太と上手くいく可能性はシビアにいってしまうと薄いかも、と思わなくもない。
――だって、「あの」木更津先輩が警戒してたぜ?この間。
でも応援したいと思ったのは本当だ。
俺は何もできないし、特にしないと思うが、裕太の話くらい時折聞いてやろうと思った。
チームメイトで友人だ。当然のこと。それから……ほんのひとかけの好奇心(ごめん、裕太)。
「おう」
裕太はきっぱりとした調子で答えた。
それでその話はおしまいだ(お互い照れくさいし)
俺らはそのあと授業のこととか気に入らない先生とか、それからやっぱりテニスのことをくっちゃべった後、適当に解散した。
* * * * * * * *
ところが裕太の本当の敵と、恋愛の一番わからない箇所を見せ付けられたのはそれからほどなくしてだった。
あれからいつもより先輩に注意していたからかもしれない。偶然かもしれない。
でも俺は目撃してしまったのだ。
先輩と、あの人を――。
こともあろうに口止めされるなんて……
――てか、そんなのありかよ……。
裕太、マジに恋は魔物かもしれない。
大方の事情を知らされることはなかったが、口をあんぐりあけたまま何もいえなくなる程度の衝撃だったことは告げておく。
それから「安心しろ、俺もそんなもんだとびびってる」と部長が生でコメントしてくれたことも、だ。
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