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「」
教室で彼女に声をかけた。
いつもなら昼休みの屋上だったり、放課後誰もいなくなってからだったり、うまく人目につかないように選んでいるのだけれど、今日は遠慮がなかった。
「ちょっといいかな?」
注目された自覚はあったから、すぐに場所移動を促したが、は不遜な顔をしていた。
心あたりがないらしい。
――覚えてないのかな。
呆れるが、席を立ったが机に置いた問題集に思いなおす。
彼女はそれどころではない時期なのだ。
――話をきいてから判断すればいいよね。
3Fの廊下の一番奥は、つくりが入り組んでいて他所から見え難くなっており、都合がよかった。
僕はをそこに連れて行き、開口一番にこう告げた。
「とんでもない嘘をついてくれたね」
はそこでようやくはっとした顔を見せた。でもそれも一瞬のことで、すぐ淡々とした授業中の表情に戻ってしまう。
思い当たることはあるらしくて、視線を逸らされる。
「ただ、『好きな人がいる』って言っただけ」
「なるほどね。裕太は『僕』だと勘違いしかけてたけど?」
電話があったのは昨日の夜だ。
それだけを確かめるわけもなく、情報はさりげなくこちらから引き出したものだが、裕太がそれを気にしていたのは本当のことだった。
「ごめん。どうとでも取れる表現ならした――」
――やっぱり。
「そんなことだろうと思った。今日は大目に見てあげるよ」
あからさまにほっとする彼女は、別に僕を巻き込もうとしたわけではなく、第三者とも取れる発言を心がけていたらしいから……
「で?それって観月のこと?」
ちょっとの嫌がらせで我慢することにした。
その辺りで、チャイムが鳴ったけれども、僕はのと通路の方に回り込んでにっこり笑う。
――どうせ次は自習なんだ。
「今更聞くの?」
は分かってるでしょと顔で問いかけたが僕には通用しない。
「忘れないでよ?僕は君に告白したんだよ?」
「本気じゃないくせに」
――ご名答。
だがもさして嫌な顔をしてないではないか。
僕は静かに追及を続けた。
「だとしても。――……なら、受験が終ってからにする?それとも今?」
「何を?」
そう問いかけたの目はどこかきょとんとしていて、「この子の場合こういう計算のない部分にやられるのだけれど本人が気づいていないのは不幸だなぁ」と苦笑がこぼれた。
「返事。『ごめんなさい』の定番は、『好きな人が居るの』でしょ?――で、僕は『誰か知らなきゃ諦められない』」
「嘘つき」
「どっちが?」
即答には怯んだ。
しばらくして、「知らない方がいいよ」と力なく漏らしたが、その様子はまるで捨てられた犬みたいで(イメージはどこか猫だけど)
「――それでいいよ。十分分かったから許してあげる。巻き込まれようとした僕にも責任があるしね」
彼女の可愛い嘘は忘れることにした。
――でも、男の方には容赦しないよ?
基本的にの味方だし、アイツとはどうにもうまが合わないんだ。
* * * * * * * * *
放課後。
タイミングを見計らって、携帯をいじった。
仲から適当な名前で登録しておいたその番号を選んで、かける。
ほどなくして受話器ごしに相手の訝しげな声が聞こえる。
「ナンバーを取っておいてよかったよ」
言ってやると、ますます声は不機嫌になる。
『一体、何なんです?』
「最終警告と援護射撃」
『は?』
分からないだろう。
――からかわれてるとでも思ってるのかも。
それでも電話を切ることが出来ない観月が可笑しかった。
「裕太にはの好きなのは僕だってことにしておいたよ。誤解、解かなくていいの?」
――このまま僕に借りを作る?
言わなかったが、そんなつけたしをしなくとも観月はショックを受けてる。
携帯越しに息を飲む音が聞こえた。
『あの人が誰を――』
やがて言い訳のような、逃げのような言葉を紡ぐが、それを許さず言葉を重ねた。
「誰を好きか分からない?――なら、このまま貰ってもいい?暇つぶしに付き合うのはぴったりだよね。計算高そうな癖して、かなり抜けてるところもあるし」
『不二――』
「何?大体マネージャーとして利用するだけのつもりなら裕太に近づける必要なんてなかったのに……」
割の合わない悪役だ。
言ってる内容の半分も思ってはいない。
「僕に復讐のつもりならきかない」
そう付け足しつつも、そうでないだろうことはとっくに理解できていた。
いつ怒るか、僕は観月を待った。
「案外、彼女の受験も君がけしかけたんじゃない?」
『見くびらないで下さい』
観月が声を発したのは自分でなく、のことを言ったときで、「やっぱりな」と思わされる。
彼女もそうだから――。
この二人は似てるのだ。
『受験は沙希の意思です。そう簡単に合格できるほどうちの高等部進学は甘く有りません。邪魔したら許さない。お前は勿論、例え裕太君でも――』
焦りが声から嗅ぎ取ることができた。
――早くそうしてればよかったと思うよ?
「ふうん」
気のないふりで答えておいて、本音を付け足す。
「そんなに大切なら茶番はやめたら?」
――本当はすきなくせに。
認めたら、白状してくっつくなら僕は手をだしやしないのに。
どうしてそこまでして隠すのか、僕も何故こう変な風に動かされるか分からない。
完璧に知らないふりも出来るはずなのだ。
――ただ、今の半端さが気持ち悪いだけなんだよ。
『っ』
観月が慌てている様子は小気味いいが、それでもまだ気持ちがおさまらないところもある。
僕は最後にして最大の嫌がらせを決行した。
「あ、そうだ。付き合ってっていったのは本当だよ。受験後には返事貰える。だから――」
敢えて言う。
そんなことはないと知りながら。
「今更言っても遅いかもね?」
先刻断られたことも、がYESを言わないと知ってるからこそ告白したしたことも――観月には教えない。
――でもなぁ……。
まさか、これで試験のその日のうちに、彼女の元へ走るとは誰も思いもしていなかったよ。
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