不二(兄)に教えてもらった中庭は確かにそこまで人気はなく、他校生がいても目立たない程度には保護者やその他訪問者、一、二年生がそばをうろうろしていた。
少し引っ込んだ場所を探しているうちに、僕は見慣れた影を見つけた。
「着きましたね」
「どういうことですか?」
裕太君は文字通り息を切らせながら聞いてきた。
制服の乱れと、余裕のない口調。
予想の範囲内状況だった。
僕は出来るだけ冷静を務めたが、漏れた言葉は計算できていないものだった。
「すみません」
息を飲んだ彼に、もう他に言うことはできなくて事実だけを口にした。
……というよりもむしろ勝手に口をついて出てしまったのだ。
「は渡せません」
黙りこんだ裕太君に畳み掛けるように、フォローの「嘘」を投げる。
「『が僕を想っていなくても』僕は力づくでも奪います」
木更津や赤澤にさえ通じてしまっていたのだ。
これで片思いだなんて――無理やり奪うだなんて、笑わせるけれど。
――嘘をつくのはこれで最後です……。
彼女を見ると頭に来た。
奪ってしまいたかった。
そうすることであの意地っ張りに全てを吐かせたかった。
でも、それももう必要ないことで、彼女の思いは既に確認できてしまっている。
力づくでなどしなくても、あのプライドの高い彼女ももう堪忍しているだろう。
――僕らは似すぎているから。それでも違うと分かっているから。
だからそばに居る他ない。傷つけても、否定しても。
そばにいないことは不自然だ。
「裕太君の気持ちは知っています」
「なっ」
自分の気持ちがばれていると覚悟はしていたのだろうが、ここまではっきり言われるとは想っても見なかったのだろう。
裕太君の頬に朱がさした。
僕は臆面も無く続けた。
「でもは僕を選びます。付き合っていないのは本当です。でも選ぶんです。分かってるんです」
自信過剰だと想われてもいい。
確認していなくても分かる。
不安にはなったけれど――不安にさせたけれど、これはずっと知っていたことだ。
――裕太君と彼女が会うずっとずっと前から、僕らははぐらかしてきた。
「ごめんなさい」
僕は返事を聞かずに踵を返した。
これ以上何を言っても無駄だと思った。
どうしていいのか、自分でも分からなかったせいもある。
今すべきはここまでで、後はが選ぶことだ。
――本当はもう選ばれていたとしても……。
裕太君は裕太君で奪いたいなら本気で奪えばいい。ただし、そう簡単に渡すつもりもないが。
ふと、許してもらうも何も、完全な納得はありえない、と思った。
傷つけないように無理をした結果がこれだ。
それでも不思議と今日は自嘲の笑みが出なかった。
校舎側からチャイムが響く。
解散する時間は近い。
僕はこれからを攫いにいく。
|