卒業2(観月SIDE) 

 不二(兄)に教えてもらった中庭は確かにそこまで人気はなく、他校生がいても目立たない程度には保護者やその他訪問者、一、二年生がそばをうろうろしていた。
 少し引っ込んだ場所を探しているうちに、僕は見慣れた影を見つけた。

「着きましたね」

「どういうことですか?」

 裕太君は文字通り息を切らせながら聞いてきた。
 制服の乱れと、余裕のない口調。
 予想の範囲内状況だった。
 僕は出来るだけ冷静を務めたが、漏れた言葉は計算できていないものだった。

「すみません」

 息を飲んだ彼に、もう他に言うことはできなくて事実だけを口にした。
 ……というよりもむしろ勝手に口をついて出てしまったのだ。

は渡せません」

 黙りこんだ裕太君に畳み掛けるように、フォローの「嘘」を投げる。

「『が僕を想っていなくても』僕は力づくでも奪います」

 木更津や赤澤にさえ通じてしまっていたのだ。
 これで片思いだなんて――無理やり奪うだなんて、笑わせるけれど。

 ――嘘をつくのはこれで最後です……。

 彼女を見ると頭に来た。
 奪ってしまいたかった。
 そうすることであの意地っ張りに全てを吐かせたかった。
 でも、それももう必要ないことで、彼女の思いは既に確認できてしまっている。
 力づくでなどしなくても、あのプライドの高い彼女ももう堪忍しているだろう。
 ――僕らは似すぎているから。それでも違うと分かっているから。
 だからそばに居る他ない。傷つけても、否定しても。
 そばにいないことは不自然だ。

「裕太君の気持ちは知っています」

「なっ」

 自分の気持ちがばれていると覚悟はしていたのだろうが、ここまではっきり言われるとは想っても見なかったのだろう。
 裕太君の頬に朱がさした。
 僕は臆面も無く続けた。

「でもは僕を選びます。付き合っていないのは本当です。でも選ぶんです。分かってるんです」

 自信過剰だと想われてもいい。
 確認していなくても分かる。
 不安にはなったけれど――不安にさせたけれど、これはずっと知っていたことだ。
 ――裕太君と彼女が会うずっとずっと前から、僕らははぐらかしてきた。

「ごめんなさい」

 僕は返事を聞かずに踵を返した。
 これ以上何を言っても無駄だと思った。
 どうしていいのか、自分でも分からなかったせいもある。
 今すべきはここまでで、後はが選ぶことだ。
 ――本当はもう選ばれていたとしても……。
 裕太君は裕太君で奪いたいなら本気で奪えばいい。ただし、そう簡単に渡すつもりもないが。

 ふと、許してもらうも何も、完全な納得はありえない、と思った。
 傷つけないように無理をした結果がこれだ。
 それでも不思議と今日は自嘲の笑みが出なかった。

 校舎側からチャイムが響く。
 解散する時間は近い。
 僕はこれからを攫いにいく。



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