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「『卒業』って言う映画を知ってますか?」
「【卒業】ってラストで花嫁拐うあれだーね?」
行き成りふって沸いた状況を分析したら頭が痛くなった。
――観月さんは雨宮先輩のことを……好きってこと、か?
* * * * * * * * *
青学で兄貴に会うと、こちらがきくよりも先に「だからやめろって言ったのに」と言われた。
そのとき、ようやく全てのからくりが解けたような気がしたんだ。
――アイツ、やっぱり知ってやがった。
そのうえ、からかうためだけにそうしてきたとは思えなかったから、
「何で言わなかったんだよ」
そういってやったら、
「だって雨宮、絶対白状しないんだもの。それに、観月も―― 一晩一緒にいた癖に手も出さないっていうし、ほら?その手の趣味だったらまずいデショ?」
――『デショ?』じゃねーだろ。
可愛いふりすんの、辞めてくれ。
ちなみにさり気なく来る下級生らしき少女達の視線が痛い。
――うちの制服のままだし……
このまま来てるのなら観月さんも目立ちそうだ(ただでさえあの人は見栄えするし、言動もさりげなくない)
――待て……よ?
注目に緊張したり恥ずかしがってる場合じゃなかった。
兄貴の言った不審な言葉を拾い上げる。
「てか一晩って……」
「僕は雨宮が好きだよ?」
「おい……」
はぐらかされたあげくに、クエスチョンマークつけられても困る。
――コイツは聞く耳などもってはいないんだった。
諦めて続きを待っていると、一拍遅れて分かってるんだったら言えというような答えがかえる。
「ギリギリの友情ってとこかな」
「そしたら雨宮先輩の好きな人って兄貴じゃなくて――」
「それは僕が答えるべきことじゃないな。雨宮しか答えられない」
「っ」
周助のヤツは時折的を得た答えを用意してくるから対処に困るんだ。
俺は唇をかみ締めた。
ついで、とばかりに兄貴は教える。
「裕太の先輩が朝見たのは雨宮だよ。欠席の知らせは観月からかかってきたから」
「お前っ、なんでっそれ……」
「風評がたったら雨宮が困るだろう?それくらい分からない?」
それに何もなかったようだしね。
軽々と告げ、周助は「もう戻らなきゃ」と講堂の方に歩き出す。
「あ、そうだ。伝言、忘れてた。観月なら中庭にいる。卒業生はまだざわついてるから雨宮にはどの道しばらく会えない。ちょうどいいんじゃない?」
いって来い、と。
わざわざ言われなくても行くに決まっている。
大体の結論は見えていても、観月さんの気持ちはいまいち分からなかった。
――ポーカーフェイスが下手なようで上手いから。
仮面は誰のためだったのだろうか?
誰かのために、というのなら、雨宮先輩のためなのか?それとも俺の為だったのか?
それとも、今進行していることこそが茶番なのだろうか。
* * * * * * * * *
観月さんは直行したとすると俺が来るまで何をしていたのだろうか。
そんな疑問は直ぐに吹き飛んだ。
制服のまま――寮に戻っていないことが分かる――左手に隠した花が全てを語っていた。
わざわざ買いに行ったということだろう。
誰のために?
……決まってる。
それでも突然「すみません」と断られて俺はぎょっとした。
観月さんが謝るなんて天変地異の前触れか何かだと思われる(変な言い方だけどルドルフではみんなそう思ってる節がある。後輩先輩含めて)
「は渡せません」
真っ直ぐ言われたことに、俺は急すぎて頭がついてこず、うんともすんともいえなかった。
わざわざ宣言された挙句、すぐにも「が僕を好きでなくても無理やり」とか犯罪者予備軍まがいな(でも観月さんらしい)言葉を聞かされて、もはやどうしていいか分からない。
ただ、何故か目を逸らしてしまったのは、観月さんが怖かったからだ。
――てか……まだ負けてねーのに。
思うが、先輩の目を見られずにいる。
心底おっかないと思うことは、青学の試合のときやその後だって無かったのに、今、どうしてこんなに身が竦むのか。
――ずりぃ……。
実は一個だけ似てるシーンを知っていた。
俺を心配してるときの兄貴だ。
そういうとこがあるから、俺はあの嫌味な兄貴を完璧に嫌えない。
今の観月さんはそういう感じだった。
――観月さんは普段から周助みたいに、ガキみてぇな嫌がらせはしないけどさ。
でもここで、似てみえるのは卑怯だ。
「裕太君の気持ちは知っています」
「なっ」
自分の気持ちがばれていると覚悟はしていても、顔がかっと熱くなった。
――観月さんが心配してたのはそのせいか。
俺が先輩を好きだって知ってたから。
たぶんずっと前から知ってて、それ以上に前から好きだったに違いない。
きっと俺はとんでもなく情けない顔をしている。
『俺も先輩が好きです』
言おうとした台詞は上滑りし、観月さんのさっきの告白にかき消されてしまった。
先輩には伝えることが恥ずかしいほど自分の気持ちがちっぽけに思えてくる。
――なんかすげぇムカつく。
卑怯にかすめとられたら正々堂々と文句も言えるが、観月さんから俺に宣戦布告してることが、まずありえない。それだけにマジだと分かってしまった。
――でも負けたくねぇ。
俺は唇を噛む。
でも観月さんはやめてくれない。
変わらない調子で、恥じらいも無く言ってのけてしまう。
「でもは僕を選びます。付き合っていないのは本当です。でも選ぶんです。分かってるんです」
俺には絶対言えないことを軽々と言えてしまうんだ。
――ずりぃ。
自信があるだけならいい。台詞だけで言えば、たぶん、氷帝の俺様男とか兄貴とかもきっと同じようなのを選ぶ。
けれども観月さんの声はそういうんじゃない。
「好きな人がいるの」といったときの先輩を思わせた。
あのときも先輩が遠かった。
――似てるんだ。
ぜんぜん違う二人なのに、どうしてだろう。
大人びていて届かなかった。
――認めたくねぇよ……
「ごめんなさい」
校舎側からチャイムが響く。
先輩は言うだけ言うと、くるりとUターンした。
これから彼女を奪いに行くのだ。
そう思うと居ても立ってもいられず、俺も移動した。
けれど――早いもの勝ちとかでなくて……その後俺が見るものはその光景に決まっていた。
先輩を抱きしめる観月さんと、泣いてないのに泣きそうに見えた先輩。
よく考えれば、観月さんの理想は泣かない女だった。
* * * * * * * * *
『卒業』って映画は知らない。
攫われる以前に、俺は何も言ってない。
まるでずっと前から決められていたような状況を分析したら、分からなくなってきた。
――俺は何も見えてなかったのか……?
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