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五時から夜通しになるだろうという予測の打ち上げに私も参戦することになっていた。
折角貰った花を枯らしたくなくて「うちによる」と言ったら、観月はナチュラルにそっちのバス停の方に歩き出した。ちなみにルドルフの場合駅から電車だ。
「観月も着替えてないし、後で落ち合わない?」
今更ながら観月が家に来ることが恥ずかしくて――中に入る入らないは別にしても――提案したが、本当は離れたくない気持ちもある。
ようやく一緒にいられる実感が沸いて、掴んだ左腕の裾をきゅっと握った私の心を読んだように、観月はきっぱりNOを出した。
「一緒にいられる時間が短くなるでしょう」
答えを聞かず手を剥して、今度はしっかり指を絡めた。
――ソウイウの恥ずかしいから駄目なんだってば。
思うが、済ました顔でふふんと笑っている。
たぶんわざとやってるのだろう。
――ムカつく。
嬉しいだなんて思ってたまるか。
* * * * * * * * *
寮に入ったのは大体六時くらいだった。
大分馴れてきたし、今回は許可もとってあったから気分的に楽だった。
あえていうなら、告白されてないとはいえ裕太の気持ちを知っていることが気まずいのだけれど。
観月は寮に入るなり、皆が裕太の部屋に集まってると教えてくれた。だが、私は観月の部屋に連れていかれた。
「新しい部屋はもう決まってるんですが、ここも最後ですから」
そういって入ったあの部屋は、退寮が近いとあってダンボール箱がぽこぽこ積み置かれていたが、基本的にあの日のままだった。
「今行ってもからかわれるだけですよ」
「どっちにしろ同じだと思うのは気のせい?」
「ふう。そうですね」
観月は諦めたように笑ったが、二人で時間を潰すことは苦痛ではない。
――って全然変わってない?
ぽいっと観月は私に本を渡すと自分も読書を始めてしまった。
おいおいと思うが、題名を見て納得。
観月が手元にとっていた本はあの推理小説の洋書(難しいって言ったのに……。よっぽど気に入ったのだろうか)で、私に渡したのはあの映画の洋書だった。
「うちに受かったんだから読めますよ」
「読めないってば……これ、難しいので有名なんだよ?」
「訳せない場所は一緒に読めばいい」
そういわれては黙る他ない。
ついでに置かれた電子辞書をみて、私はぺらぺらと本をめくりだした。
内容は分かってるから意外と簡単だった。
自分で言うのもなんだがせっかく上手くいったのにどうだろう?と思わなくもないが……
――無駄に喧嘩になるよりいいよね。
早い話、観月は照れくさくて所在ないだけ。
――いやなとこ、似てるから。
つまり、私もそう。
数十分立った頃(それまでに何回か観月に訳をきいた)、だんだん部屋の外が騒がしくなり――
「そろそろですね」
観月が席を立った。
ベッドサイドに腰を下ろしていた私は、「何が?」と聞き返したんだけど、観月は無言で私を立たせ、そのまま手を引いた。
「準備はいいですか?」
「手……」
「離しません」
「それでもいいですか」……と聞かれましても……。
――……答えられるか。
無言になった私に観月は「平気だから」と甘やかすような素振りを見せて、だが本当に宴会場(食堂だ)まで手を離そうとしなかった。
曰く「沙希は逃げるから」だそうで……。
確かに私は既に逃げたい気持ちでいっぱいだった。
「本当は僕も不参加願いを出したいところですが、ね」
「からかわれること決定だし?」
「普段通りでいればいいとは思いますが……。この先もどうせ喧嘩ばかりですしね」
「何それ?」
「沙希が素直じゃないから」
「観月が意地悪だからでしょ?」
――やっぱり優しくない。
これが観月だからいいんだけど。
おかげさまで調子は取り戻せた。
私はするりと観月の手から逃げ――でも心細くて、また袖口を握った。
安定しないなぁと思いながらも、手から本気で逃げた私に機嫌を悪くした観月が、またきゅっとされた感触で嬉しそうにしたのを一瞬見てしまったから、
――ま、いっか。
そのままで食堂に足を踏み入れた。
正確には踏み出そうとしたその直前、
「おう、ようやく戻ってきたのかよ」
赤澤に後ろから声をかけられるのだが。
――完璧に一歩後ろに飛び跳ねたよ、私……。
すぐ状況に気づいて、慌てた。
横で観月のやつ、笑ってるし(あとで覚えてろよ……)
「あんま、おせーから二人して今日はもう来ないものだと思ってたぜ」
「赤澤!」
今度は観月が過剰反応してる。
遊ばれてる――そこにきてようやく気づいた。
「後ろつまってるんだけど?」
……と、これまたタイミングよく赤澤の肩越しに声がした。
確かめずと冷静な口調で分かる。
――木更津……
微妙に顔がこわばったのは私だけではないはずだ。
「本当心配させてくれるよね」
「あ、ぐ……」
「まあ詳しい話は後ほどじっくり聞かせてもらうから。、逃げないでね?」
――コイツ、段々不二化してるんじゃ……。
思うが心配してくれてたのは本当みたいだから小さく頷いておいた。
「答える義理はありませんよ、?」
「ま、いいけどね」
木更津は肩を竦め、観月はむっとした顔をした。
相変わらず木更津は飄々としていたけれども、ドアを開けた赤澤が
「早く行こうぜ?後輩連中が用意してくれたんだから」
と足を踏み入れた直後、私にだけ聞こえるように「よかったね」と言われて、ちょっと胸がじんとした。
――それにしてもなんで赤澤まで知ってるのよ。
……いや、観月が『卒業』なんて映画持ち出してくれた話は知ってるが。
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