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との同じクラスへの配置は有り難くも少々困ったものだった。
入学から一か月、初っ端の初っ端で僕たちの関係がばれたせいかはなかなかクラスに溶け込もうとしていないようにみえた。特に外れてるわけでもなければ親しい友人は急に作るものでもない――
なのに何ででしょうね。
自分も人のことは言えないのに、彼女のこととなるとどうにも落ち着かない。
――というか……明らかに自分が障害になって彼女が楽しめない現状に、情けないほど滅入るのだ。
* * * *
「観月」
チャイムの音とともに、噂の彼女はやってきた。
もう昼休みだ。
彼女が来てから心なし時間の進みがいつもより速く感じるのはなぜだろう。
「なんでイライラしてるの?」
ずっと気にしていたように言うに、「わからないんですか?貴女は」と……思わず、口走りかけて慌ててごまかす。
「なんでもありません」
理由が分かり切っていて――恐らく彼女も感づいているだろうからこそ――言えないこともある。
は聡すぎる。
「ならいいけど。たまにはお昼くらい一緒しようよ」
「――部活でも会うでしょう。《手作りのお弁当》が作りたくのなら試合のときお願いしますよ。寮生は学食のチケットがありますしね」
「はいはい。言われなくてもべたべたしないのに」
教室内の接触を避けてることはやはり分かっているのだ。
じゃあまたと一人教室を出てく少女に溜め息がもれる。
一緒にいたくないはずないじゃないか。
全て通じていればいいが、いたらいたで敢えて毎度聞いてくるの考えが読めない。
確かに高等部に入り、距離は近くなって、接触時間も長くなったというのに、何故こんなに焦るのか。ゆったりとした時間がもてていないからか?
思索にふけることばかり増えているように思えてならない。
察したように、横から、タイミングよく声がかかるまで、僕は肩を落としていた。
「また喧嘩?」
「……相変わらずいいところで出てきますね、木更津」
誤魔化されるのもあれだが「見てたし」とすんなり認められるのも癪に障る。
「ふん」
鼻を慣らして、適度に流し、
「なんです?」
「別に――といいたいけど折角近くにきたのに突き放して、観月は何を考えてるの?」
「――その為に入った学校でもないでしょう」
「それも十分楽しみにしてたよね、」
――……痛いところをついてくれる。
分かっているのだ。部活以外でも、いられるのなら自分と一緒にいようとしてくれるの気持ちも……。
自分だとて、正直言ってしまえば、側に居たい。というか、横に居る方がよっぽど居心地がいい。木更津や赤澤とは……(赤澤とは部活関連の打ち合わせで会わざるを得ないこともあるが)敢えて昼や休み時間に出入りしあうほど馴れ合う理由はない。嫌でも部活で会うことになるし、同じ寮とあっては食事から入浴に至るまで同じなのだ。
「は分かってると思うけど?」
「随分、分かった口をきいてくれますね」
「とっつきにくさは観月よりずっとないし、うちの相方(柳沢)も心配してるから」
お節介だとは分かっていたが口を出したのだと木更津は言う。
ならば何故僕に分からない?
彼女が自分より若干とはいえ社交的で、わりと周囲に頼られていたことなんて知ってる。塾ですらそうだったのだから、学校も同じだろう。
それでいて、絶対誰かと群れなかったのもだ。
――……だからいいと思ってはいたんですが……。
それでも、どこかで不安があって……だから、彼女を遠ざけた。
もし、友達を――ずっと一緒に居る類の子を作るのならその方がいいと思わなくもなかったのだ。それが一般には普通なのだろうし、が自分に合わせる理由はないから。
彼女が動けるように、自由に。
考えるほどに、自分が弊害になっている気がしたのだ。
「自由にすればいい」
「嘘付け」
「何が嘘です?」
「本当はまた何か大げさなことでも考えてるんじゃないの?」と突っ込みをいれる木更津に否定の声を上げようと思ったが、思わぬヤツに制止を喰らった。
「よぉ、観月」
急に訪ねてきた赤澤は、やはりこちらでも一年の代表になっている。(細かい事務作業は相変わらず自分と……それからの担当だったが)
「悪ぃがよんでくれねーか?先輩がメニュー渡せって」
「……自分で呼べばいいじゃないですか」
「あのな……お前の彼女だろ?」
「だからって何故です?」
疑問に思って口にすれば、「遠慮してんだろ」と笑われた。
一瞬、その意味がのみこめず、口を噤む。
部活のメンバーをが男と見ているとは思えない。
部活のメンバーを僕がライバルと見られるとは思えない。
――裕太君のときでさえ……。
そう、たぶん。
「あのなぁ……」
赤澤の呆れる声に我に返るも、どうして肩をすくめる木更津ともども……このメンバーに心配されなくてはならないのか分からず、考えを切り替えた。
「が貴方たちを好きになるなんてありえませんよ」
「……言ってくれるね」「……言ってくれるな」
同じようなリアクションがきて(それも予想の範疇だ)しっしっと手で追いやるように、の方に、二人を押し出してやる。
彼女の気持ちを疑わずに済むからこそ、自分は、彼女が自由でいればいいと思うのだ。だからこそ、もっと好きにしていて欲しいし、自分も邪魔したくない。
コイツ等に何が分かる。
無意識下に、むっとした顔になっていたのだろうか。
「自由・放任・信頼……同じようだけど、それじゃ伝わらないかもね」
今日何度目かの訳知り顔で木更津は告げ、赤澤は
「だって女だぞ」
「だからなんだ?」
「……一緒に居てやれよ」
分からないことを言った。
四六時中いたい……とはいわないが、それなり以上に隣においておきたいとは思っている自分が、我慢しているというのに、二人して好きなことを言ってくれる。
――苛苛している……
確かにの言うとおりではあるけれども、いつも自分が居て上げられるとも付かないのだから、誰か仲間が居ると思って遠ざけているというのに……
「貴女になら、分かってると思ったんですがね……」
これは過信なのだろうか。
教室の奥で、数人の女子と会話をしながらも、別段交わるでもなく読書がてら弁当箱を取り出したの横には、赤澤と木更津がいて――いつの間にか僕の代わりに前の席を取っていた。
――それでは意味がないというのに……。
何度目かになる息を漏らして、周囲を見る。
選抜クラスとはいえ、ゴク普通の生徒たちはちりぢりに食事をしていて――だが内部生ばかりで、外部の生徒は外部同士固まっている。
得てしてそうなるものなのだろうが、は特殊なだけに、外部生との方が折り合いがよろしくなく見えた。(もっとも成績にヤッケになるタイプが外部生に多いからかもしれない。彼女の成績は非常によろしいから)
「……これでは、我慢する意味がないじゃないですか。
それなりに強豪とされているテニス部は、注目度が高いのだ。
そのメンバーと仲が良いとなると、はますます特異な存在になってしまう。
ただでさえ、僕と付き合っていることで悪い意味でも視線を浴びているというのに。
申し訳ない気持ちと、どうして気付けないのかという怒りと……木更津たちの配慮のなさに、情けなくなってきた。
放課後にでも時間をとるべきかもしれない。
三ヶ月目の危機はまだ?と不二周助から届いた嫌がらせのメールに、あやかる気は全くないのだ。
そういえば側にいるから此処のところ部活以外の時間を裂けていない。たまには、休日でなくとも、速く練習がきりあがる金曜あたり、彼女とデートでもするか。
思いついて、何とか落ち着く。
近くにいるのに、遠くにいるみたい。
彼女から借りた歌の旋律と歌詞が浮かび、すぐに消えた。
――こんなことくらいで不安になってどうする……
不二の思うツボだけは避けたい。
過剰に意識するな、と自分に叩き込んで、僕は教室を出た。
食堂に一人で行くことには慣れている。
誰かいれば、合流すればいいし、いなければいないで静かに過ごせていい。
その隣にがいないことに違和感を感じないまま、その日も学校生活を終えた。
TO BE CONTINUED
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