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折角同じ学校同じクラスになったんだから一緒にいたいと思うのはおかしなことだろうか。
そりゃ観月のしたいことも分からなくはない。
私はただでさえ途中から入学で目を引きやすいし、ハプニングでテニス部関係者とばれただけでも悪目立ちしてるんだ。誰か安定した友人ができるまで――もっと言えば女子のグループに入るまで自分が近付かない方がいいとでも思ったに違いない。
――でもね。
私はもともと皆と分け隔てなく仲良くはなるがあまり始終一緒にいる人を作るタイプではないのだ。
今も現に、これで大方の子とは会話もしたし、うまくはやってる。
――ノート借りたり好きなアーティストについてこっそり語ったメモのやり取りとかも授業中回したりしてるし。
外れてもなければ苛められてもない。
そこそこの進学校なんてそんなもんで、下はどうかしらないがこの年になれば敢えて人に構わなくても許される。
――なのに、どうして観月は不安がるんだろう。
これが私のスタンスで、わりと冷めてるかもしれなくても、当たり前なのに。
――そろそろお昼くらい一緒にいたいって分かんないのかな。
それとも注目を集めたくないのだろうか。
「さんお昼食べない?一度聞いてみたかったんだよねいろいろ」
「うん」
いろいろに含まれるニュアンス(多分テニス部のこと)に苦笑しながら頷いた。大きなグループでなく大人しい女の子らしい女の子二人。まあいいか。うまくかわせるし、嫌いなタイプではない。
ただ構えてしまうのは癖で、クラスに混ざるでも孤立するでもなく適当に座っている観月みたいなポジションが羨ましくてならない。というか私もそうあったはずだから。
失礼ながら半分ややこしいなという気持ちで私は席を立った。
はて……。何だか、無理してないか?
* * * * *
「やつれてるね」
気付くのならこいつだろうと思っていたヤツに声をかけられたのは部活前だった。
春先の水場、ドリンク用の氷を割りにきたんだけど、まだ少し冷たい風が吹いてる。ピックを片手に、動作を止めず答えた(なんだか殺人手前みたいで怖いけど、時間ないし)
「先輩はいい人多いし快適なんだけどね」
「部活はよくてもクラスは、か」
わかってんなら聞くなと言いたい。
言っても無駄だから流すけど。
すると木更津は突然、「小野とか佐竹と何話してるの?」ときいてきた。
小野さんは、分かる。分かりやすい。学年一目立つオレンジのショートと、きらきらの唇。可愛いというより派手な子で、オマケに帰国だから口調もきびきびしててキツイといえばキツイ。
「苛められてるようにでも見えた?」
「それはない」
強いじゃん。
って……正しくてもその言い方はどうだろ。
実際見た目にびびった(ごめん!)わりに小野さんは滅茶苦茶いい人だから、苛められようもないが……木更津の中の私像が非常に気になる。
「……麻雀繋がり。たまたまた入門書見て唸ってたから教えたの」
「それで仲良くなった、と」
「誰のせいで打てるようになったと?」
休み中に通ううち、先輩方からも叩き込まれてテニスより先に細かいルールを覚えたのが麻雀だった。
運動部ではよくある話だというが、寮の当番を賭けて打ってる人も多いらしく、みなさんかなり本気らしい。観月が打てたのも意外だったが、何でも親とお姉さんの影響でとか。
「でも、彼女と仲良く慣れたのは感謝かな。普段は彼氏とかラグビー部といるから、そこまで話さないけど」
小野さんには変な尊敬をされるようになって、たまに昼休みカード麻雀に誘われた。しかもラグビー部の……。
流石に男性陣だらけのむさくるしい集団には辟易して一度で断ったが、その後も普通に話しかけてくれるし、はっきり言って妙にべたべたしない関係は好ましい。
「小野とは同じクラスだったことがあるから分かるよ。あれで結構面倒見がいいんだ」
「派手だけどいい人だよね。佐竹さんも……芸術クラスの優待生ってきいてビックリした。ちょっととんでるけど普通に面白い」
「とんでるって……」
その前に「普通に面白いって日本語じゃないよ」といわれたが、聞き流す。(観月にも言われたんだけど、分かってやってるってわかんないのかな?……それでも耳障りだろうが)
「抜けてるっていうか今時、『わわっ』だの『およよ』だのって擬音を普通に出す人始めてみた。学校でも忙しそうであんまり話さないけどね。クラス別だし」
「ああ、書道部は彼女のためにあるから……」
すっぽぬけてる木更津の会話の合間は分かる。
佐竹里奈はなかったはずの書道部を開かせた一年生の部長で……日本一の達人とも呼ばれる身らしいのだ。
従って忙しく、やはりあまり一緒にいることもなければ、カリキュラム自体も芸術クラスは別なのでなんともいえないんだけど。
「また濃いの掴まえるな」
――確かに。
目立つかもしれない。二人ともそこそこ周囲と付き合いはあるが、つるんでる人はいなかったり男性陣だったりするし。
でも、里奈や小野さんみたいな付き合いが一番楽なのだから仕方ない。
……ふう。ため息が漏れそうになる。
思いきって、聞いてしまおうか。
ピックを振り上げる手を止めて、横を向けば、木更津が、じっと続きを待っていた。
「意外?」
小声で確認する。
「女友達みたことなかったけど納得した」
「……観月はしてなさそう」
そう、問題はここにある。
本来、そういった付き合いが楽な私に対して観月は何やら違うものを抱いてる気がする。
悪く言えば、気のまわしすぎ。
「……気疲れしてるか」
「え?誰が……」
その答えを聞くことはなかった。
先に部長の開始の声がかかって、木更津はコートへ戻っていった。
お節介な一言を置き去りにして。
――「ま、あさってオフだって言うから、満喫してきなよ」……っていわれても……。
怒ったふりしながらも、ふと此処のところ二人の時間のとれていなかったことを思い出して、勝手に顔は熱くなってた。
クラスでは迷惑かもしれなくても……あるいは気を使われているかもしれなくても……二人なら思う存分意見交換も出来ると思うと、何となく、ね。
せめて、少しでも「近くにいたい」ことがわかってもらえればいい。
べたべたしたい、んじゃなくて、普通に。
――……にしても、どれくらいの距離が一番なんだろう。
付き合い始めた最初も、友達だった頃に比べて――あの頃は極端に避けてたからちょっと別だったけど――少し近づいた程度。あんまり変わらないような気がする。変わりたいような、かわりたくないような……自分でもあんまり分からないんだ。
「一緒にいたいな」なんて女の子みたいなことを言うつもりはないし。
けれど、教室のときみたいなのは嫌だと思う。
「あ……」
――そっか……教室だと他人扱いなんだ……
今更気付く。
だから、胸が痛かったのか。
参ってる自分を思い知りながらも、部活は部活。仕事は仕事。この切り替えだけはちゃんとしてたい。
――観月のためにも、ちゃんと。
マネージャーにはむいてたみたいで、雑務は楽しかった。
でも、ただの雑用でなく、データの処理をしたりスケジュール組んだりすることまで手伝わせてもらったのはやっぱり観月のおかげで……。
マネージャーにするために一緒にいるんじゃないって言ってくれることはわかっていても、何かしたいと思える自分がいるから。
――大丈夫。
小さく頷いて、手にしたピックを置いた。
「よし、頑張るか」
砕いた氷を素早く大型の水筒にいれれば、一年生の分が完成。残りはもう終わっているからこれで最後。
水筒を手にコートに入る。
堂々と側で応援できるのは、気分がいい。
重かったはずの水筒は軽く感じ、足取りも軽くなっていた。
TO BE CONTINUED
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