*この話はパラレルVampire関連物です。
詳しい設定などは下の詳細かあちらを読まないと分かり難い可能性も。
またVampireパラレルゆえ不二出奔後設定。現在進行中のパラレルとNOT同時期
この先もそういった予定はなし。オリキャラ出すよー印で夢に送るかも
ヴァンプは基本・パラレル日常で。詳細はここ



「ねぇ」

 月夜の晩は可笑しな気分になる。
 例えば、誰かを攫ってしまいたいような……

「仲間を求めてるんじゃないの?」

 佐伯はそういうけれど、それならとっくの昔に作った。

「君で十分だよ」

 でも……
 そういうのとはちがう。
 ――ただの餌でもないんだけどね。
 求めているものにいくつく可能性は限りなく薄いのに、僕は誰かを求めて闇をさまよう。


Vampire Requiem 〜不二編〜


「ねぇ」

 聞きなれない甘ったるい声をきいた。
 空から降り立つときは見られないのが礼儀だが、下をむけばすでに 見慣れない少女が立っている。
 せいぜい10歳。実際もっと下かも知れない。
 ふんわりと茶色髪が真っ直ぐ伸びて、ゴシックなドレスの肩を隠していた。
 若いというより幼い年代だ。
 だが覗いてみるとその青い瞳は何処となく顔立ちを大人びて見せている。
 ――死を覗く少女、とでも題名がつけられそうだね。
 攫うにはちょうどいい、と思う。
 その反面、あまりにおさなすぎやしないかと誰かが胸の奥で笑った。

「お兄さんヴァンパイア?」

「うん、お嬢さんは?」

「一人前のレディに向かってお嬢さんなんてやめて?」

 ――気が強い。
 これは誤算だったけれど、悪くないな。
 可愛く付いてこられるより抵抗される方が燃えるたちなんだ。
 悪いけれど血だけではすまないかもしれない。
 本人には可哀想な予感をさせながら、横に立つと、黒いマントが風にゆらりとゆれた。

「キスしていい?」

「駄目」

「レディーにぶしつけすぎたかな?」

「そうね。でも……本当に好きならいいよ?」

 曰くありげな子だ。
 まさか、それが誰かのお手つきだなんて思ってもみなかった。
 それどころか……。

「好きじゃないから駄目かな?」

「ふうん。正直ね、お兄さん名前は?」

「不二」

 不二家って有名だからね。
 ちょっとでもヴァンパイアを知るものならある程度リアクションがあるものだとふんでたんだ。
 でも彼女は……

「名前をきいてるの」

 そういって、「駄目でしょ?なのらなきゃ」だなんて、僕のお腹を小突いた。
 身長がたりないせいで、ようやく届く感じだ。
 なんだか可笑しい。

「可愛いね、名前は?」

「名乗ったら教えてあげる」

「いいよ。周助」

「……じゃあ

 じゃあってなんだ?
 多分偽名なんだろうな。
 それでもいい。
 退屈していたところだから、そのまま手首をとって口付けを落とした。

「触り方がエロイ」

「………」

 絶句。
 なんて言葉を教えてるんだ。この子の家は。

「何か食べられちゃいそうでいや」

「食べちゃうかもね。ヴァンプだから」

「嘘つき。知ってるのよ、ヴァンパイアっていっても空腹に思うだけでちょっと血を吸えばきもちよくなれるんでしょ?」

 知識も無駄に豊富なんだな。
 仕方ない。

「おてあげだよ、。でもね、それ以外に満たす方法もあるんだけどな?」

 それこそ彼女の危惧した方のやつだ。
 幼女に趣味はなかった
 ただ今晩くらいいいかなって気になったのも秘密。
 当然それで許してくれるような子じゃないだろう。
 だから、いったんだけど

「知ってるのよ」

「え……」

「知ってる。好きにしてもいいよ?」

「……君、本気でいってる?」

「勿論」

「……」

「怖気づいたの?」

 挑発されてるのだろうか。
 いやここで引っかかってもまずいだろう。
 ――面倒なことになったな。
 これでどうしろと?

 女兄弟にならされていたから、女性(餌)の扱いにまちがえたこともないし、それなりの関係も気付いてこられたが下は範囲外なのだ。
 しかもここまで幼いとなると……
 裕太は参考にならないし、そもそも苦手がられてる。

「どうしよう……」

 思わず口にしていたらしい。

「レディーの据え膳を食わないつもり?」

 女の子の顔を凝視する。
 茶色い可愛らしいウェーブヘアに、きつめの瞳。ぎっしりはえた睫毛が人形みたいだ。
 ――……可愛いなんてもんじゃないじゃないか……
 こうなってしまうとどちらかが執り付かれたのかわかったもんじゃない。

「仕方ないな……」

「一晩だけよ?」

 安心して?
 としたり顔で笑う少女は既に大人で。
 抱き上げて触った髪の毛からは薔薇の香水がほのかにかおった。

 *    *  *  *  *  *  *  *
「ねえ、本当にいいの?」

「その気なくせに?」

 屋敷につれて帰って、ベッドのある部屋まで来たはいいが、僕らは紅茶を飲みながら押し問答を繰り広げている。
 かれこれ三十分も。
 ――そろそろ不審に思って、佐伯か姉さんあたりが尋ねてきかねないな。
 無粋なことはしないだろうが、幼女誘拐、かつ監禁( ?)ともなれば黙ってられるかも不安だ。何より後が恐ろしい。
「僕が何をしようとしてるか、わかってる?」
 やろうと思えば出来る。
 そこは……哀しいかなさがだ。
 そもそも飢えもそこそこになっていて、最悪血だけでも貰わないと我慢できそうになかった。

「遠慮なくどうぞ」

「そういうこと言われると萎えるんだけど」

「そう?」

「……もういいや」

 悪いが切実さのが先だ。
 こうなったら少しだけ……


「っ」


 軽いドレスを持ち上げて、首筋に舌を這わせた。
 消毒のようなキスのような作為に、少女が震える。

「やっぱりやめようかなんて言わない」

 言い切ると、その小さな手により強く力が篭もる

「いいの」

 声が小さく漏らされる。
 甘さをはらんだ声。
 でもそれよりも……
 顔に当たった透明な水滴。

「本当にいいなら……なんで泣いてるんだよ」

 ――……僕はもうやめられないのに……
 彼女はわかってるはずで、だからこそこんなに強張っているのに――それともそれは本能がそうさせているだけで、やはり理解なんて出来てないのだろうか。
 どの道もう理由を聞く余裕がない。

「周っ……」

「ごめん」

 謝罪か、それとも開始の合図か
 どちらとも付かない呟きとともに、指先で白い肌を捉え、淫らになるギリギリの程度で服の隙間をまさぐった。

「キスだけは許して……」

 あとは愛撫(これ)だけで我慢するから。
 血は食事。
 それがこんなに寂しく感じたことは始めて――いや二度目だった。
 そう一度目は……

「――……」

「……そうよ?」

 時を止めずに言ってしまった一人目の恋人。
 最後の人。
 彼女の名前と同じだ。
 なんで気付かなかったか?など愚問じゃないか。
 いや、彼女がこの子であるわけがないのだけれど。
 もしかしたら……

「……君、ヴァんピー……」

「言っちゃ駄目」

「……なんで?君のおかっ」

 答えは優しいキスでふさがれた。
 熱も持たない、親愛の情からくるようなキス。
 いつだろう。
 こんなキスをしたのは。
 ずっと……

「ずっと封じてたんだ。だからわからなかった。もしも、と考えたことはなくて……君はヴァンピールなんだね」

 ヴァンピール。
 つまりヴァンパイアと人間のハーフ(あるいは吸血鬼の癖に人間側についた戦力のこともそういうけれど)

「知らない」

「ううん。僕とよく似てる。それに……」

「分からないでいい。あなたは魔王だから。ヴァンパイアでいなきゃいけないし、この先もずっと一人で居るべき人だからって……そう言ってもん」

 だれが、とは言われなかったが、それがあの人であることはもうわかってた。

「ねえ君の名前をおしえて?」

 せめて、それで最後にする。
 多分彼女は僕の前に二度と姿を現せないだろう。
 だから…

「名前はないわ。でいい。だから忘れないで……」

「嫌だ。駄目だ。僕は君が……」

 こんな小さい子だけれど、つながりともっている、としらなくても……。
 だって強がってすがりつけもせず背中を振るわせる少女に惹かれない理由があるか?

「欲情したのは悪い魔王(ヴァンパイア)だからかもしれないね?でも、君が魅力的にうつったんだよ」

「それは最大の褒め言葉ね……。名前は……」

 予想はついてたんだ。
 彼女なら言うなるだろうと。
 それに、最初からずっと願ってたから。

よ」

 嘘はつかないのだと、この無垢な目は、どうやっても僕より先に潰えてしまうのだけれどと。

 最愛のあの人が残した……僕の形見
 留め置かない優しさを、優しさとは思えなかったのか、はたまた遺伝の偶然か……。小さい僕のレディーは静かに笑っていた。
 謝罪が口をついてでる。

「ごめんね」

「ううん、こっちこそごめんね」

「ねえ――
 名前を呼んでくれないかな?」

 本当は……それ以外に頼みたいことはある。
 でも、今はこれで精一杯。
 あと数百年は会わない。
 あえたとしたら、その後……あえなければお終い。 

「周……」

「なんでそこでとめるの」

「同じように呼びたくない」

 それは娘としてなのか、女としてなのか。
 もうわからないくらい、彼女の時も止まってるんだろう。

「うん」

「私の名前も……よんで?」

 ああお安い御用だ。

……」

「それから……」
 彼女が耳元で囁く。
 それは最初で最後の我がまま。

「もっとお安い御用だよ……」

 抱きしめて、キスをする。
 ずっと壊れないように、さっきより優しく親愛の情をこめて……

 *    *  *  *  *  *
 明け方までに彼女をかえして、屋敷に戻った僕は見慣れた影に自嘲した。

「ねぇ」

 佐伯か姉さんか分からないけれど、誰でも良かったんだ。

「月夜の晩は可笑しな気分になるんだ」

 例えば、誰かを攫ってしまいたいような……

「仲間を求めてるんじゃないの?」

「そうかもしれない」

「ここにいるだろう?」

「そうだね」

 もう遠く、二度と会えなくても……
 僕は僕を生きる。
 夜をすべる魔王(ヴァンパイア)として。
 それでもきっと、思い返すのだろう。
 ――
 眠れないから鎮魂歌の代わりに君の名前を持っているよ。
      
                    END