a kitten(第一章)一日目

 SIDE リョーマ

 海辺を歩いていたら、向こうから凄い勢いで誰かがかけてくる。

 ――は?

 女だと確認できた頃には、ナンパだなんて思いもよらなくなっていた。それというのも、彼女ときたら、

「迷子?こんな冷たい日に一人で来ちゃだめだよ」

 なんて諭すように言ってくれるのだ。

 ――どこのガキだとおもってるわけ?
 リョーマは呆れ顔を向ける。
 だが相手は真実本気なのだ。うんうんと首をふって、自分の言い分に納得してるらしい。
 はっきりいって珍妙だ。
 微妙にクラスメートの少女にもにてみえたが、もっと活発。お姉さんとは仮にいいたくもないような雰囲気のくせに、口調も動作もはきはききびきびしていた。
 動作……はまあ無駄な動きが若干多いきもするが、しばらくみていると、長いスカートの丈に脚をとられているせいだと気づけた。

「迷子じゃないんだけど……」

 ぼそっとひかえめに、いうと彼女は「ああ」とかんじいった様子で、リョーマのバッグを奪う。
 抵抗を感じたのはほんの一瞬だ。
 テニスラケットは……ない。もってくるどころか今回ばかりは、あの家から抜け出した原因になったものだ。
 スランプ と一言で結論を出してしまえばよかったが、それはちがった。アメリカにいきたいという願いが実の親(しかもいっていた張本人)によって却下されたからだ。
 面白くなかった、ではすまない、とリョーマは思う。
 自分なりに考えて、「勝てる」「いける」と信じての選択だ。後のことは考えていない。
 ――そりゃリョーガのこともあるし、わからなくもないけど…
 息子を信じろよ。
 もらした文句をもう一度脳内で再生して、リョーマは帽子のずれを直す。
 と……

「いつまでもそこにいる気?」

 問いかけられて、「む……」と詰まる。
 確かにこのままずっとここにいるわけには行かない。かといって、いく当てもなければ、目の前の彼女に話す所以もないのだ。

「じゃ、アンタのとこ、泊めてくれる?」

「え?」

 からかってやれば直ぐ去って行くだろう。
 軽い気持ちで言って、バッグを取り返す。

「居たいからここに居るだけだし」

「……でも……」

「じゃあね、お姉さん」

 今度こそ嫌味だときっちり分かるように言ってやった。
 が……一度引いたように見せかけて、すぐ彼女は戻ってきた。

「雨ふってきた……。風引くよ?通報しちゃうよ?てか邪魔だから出てきて」

「……っす」

「早く?」

「……」

「あーもう!わかった。いいよ。うちにおいで」

「………………え?」

「ただ約束がいくつかある。今日は無理でもちゃんと連絡すること。まあ男の子なら、まあ二日三日は許されるとおもうけど不安だし」

「…………」

 こっちにとってむしのよすぎるくらいの提案だ。願ってもない。
 ただ気にかかることもある。

「ねえ、アンタの家族は?……そういうのしょっちゅうあるとか?」

「?」

 丸い目が、くりっとうごいて、口をあけ間抜けになった彼女の表情。その後「はははは」と笑い声が響いた。
 こちらが不機嫌になるより前に真実は告げられた。

「一人ぐらし。あー一応これで大学生なんだって」

 どこが……。
 いいたい台詞を飲み込んで、リョーマはぐっとこらえる。
 彼女はわかっちゃいないらしく、「ああ、平気平気。彼氏とかいないから誤解もされようがないし。でも……ええと料理とか苦手で……」なんて捲くし立てている。

 ――本当に一人暮らしなわけ?数日両親がいないとかいう落ちじゃ……。

 あまりの慌てっぷりに、ため息をつけば、彼女は静かに白状してくれた。

「ええとごめん。実は一人暮らし初心者なんだ!……今日からで……だから、色々……期待しないでくれるんならいいんだけど」

「……してない」

「かわいくないなぁ。って私も先輩によくいわれたけど」

「……」

 実際言われていた、とは言えず黙り込む。

 ――……にしても、何このひと……

 弟、でもいるんだろうか。
 道すがら、電話をかけろかけないのやり取りの合間に、強制的に手を握らされた。

 ――俺、もうそんなに小さくないのに。逃げると思ったとか?

 文句をいうまもなく、引きずられる。
 だんまりを決め込んで……適度に質問をかわせば 相手はあきれたようにわらって、手をぎゅっとつねる。

 ――痛いって。

 有る程度のところまで、事情は話さないで自己紹介する。
 荷物はとりあげられているし、彼女はよりによって 手をひいて……そうどさくさまぎれにとった手をぶらんぶらんさせて(迷子だとまちがえてないか?と不服に思う)歩きだしてしまった。
 総てはこのときに決まっていたのだ。
 そう、ここで……こうして……長くて短い共同生活が始まった。

約束はいくつか。
居つくのなら連絡をとること。
期間は最長で一ヶ月(これはおお揉めにもめて勝ち取った期間)
黙っていなくならないこと(迷子になるのが不安だからということだ)。
家事は分担。


SIDE 

 強情な子猫を見つけたような、そんな気分。
「雨ふってきた……。風引くよ?通報しちゃうよ?てか邪魔だから出てきて」
 偶然とおりかかった海辺で拾った男の子は、もうちょっと男の「子」の領域を出てしまいそうな感じもしたけれど、取り合えず年下とみた。なんていうか、可愛がられてる感じの……生意気な感じの。

「早く?」

 急かしても、クールにこちらを眺める様と、動かない強情さ。

「あーもう!」

 さすがにここまで意地が悪いタイプとは思わなかったけど。

 ――最初に見たときは物凄く可愛い美少年だとおもったのに!

 こっそり唸りたくもなるというもんだ。
 性格にゆがみが在る方がいいっていうこもいるけれど、私の好みは ニコニコ可愛いのだ。
 例えばうちの従弟みたいに。
「小さいのがボクのチャームポイントだからね」とかいっちゃえるような……

「……そっちのが十分黒いんじゃ」

「何かいった?……っていうか、私つぶやいてたか……」

 恥ずかしいはずが何もかんじないのは疲れてるからか。
 取り合えず……この子、かえる気配ないし。
 放っておくわけにはいかない。
 幾つかの条件とともに、受け入れることにした。取り合えずどうせ数日だろう、というつもりで。
 帰り道、近隣の案内をしながら、もう一度確認する。

「ねえ。絶対連絡はいれる?……犯罪者にはなりたくないの」

「まあ、……そのうち」

「……うーんじゃ友達にでもいいから。あるいは先輩とか」

「………………」

「……友達いない?とか」

 生意気だけどせいかく悪くはなさそうなのに? 
まさかだよね。

「失礼なんすけど」

 また口走ってたか?

「まあいっか。じゃあ連絡どうぞ?」

 言って、携帯をパス。

「一応……親も放任なんで」

 言われて、携帯を戻され……

「そう。でもちゃんと電話してよ?煩くいうけど。友達で……ううん駄目ね誤魔化すかもしれないし……」

 ――さっき先輩で反応してたよね?そういえば……

 ふと思いついて、もう一度携帯をパス。

「じゃあ先輩・それでいい?」

「いいもなにも……俺別に……」

「放っておくわけにいかないの。私の精神衛生上よろしくない」

 「勝手な……」と呟きが聞こえた気がするのもついでにパス。スルー。

「本当心配だから……」

「……反則」

 負けたように、携帯を手にした彼の名前はリョーマというらしい(ようやく聞いた)
 でも、結局携帯は手にしたまま、動かないので諦める。
 手をさしのべて、無理やりひっぱった。

「逃げないでね?今更……」

 ぽつりと呟いたのは、初めての一人暮らしが意外と心細かったからかもしれない。
 質問にだんまりを決め込んでくるリョーマに何とか自己紹介させる。
 答えなすぎると手をぎゅっとつまんで意地悪した。
 ……なんていうか既に半ばあの子と同じ扱いなんだよね。
 ついうっかり「弟」扱いしてしまうのは、実家にいたときさんざん会ってた従弟のせいだ。

「痛いって……」

 ま、拾い物にしては大きすぎたけれどちょっと可愛いから(いったら怒られそうだけど)口の悪いのも我慢我慢。
 子猫を捕まえたような気持ちで、ダンボールだらけの我が家へつれて帰った。
 一日目。
 共同生活が長引くとはさすがに思いもせず……(すぐに一ヶ月程度取り付けられるほど、立場が弱くなるとはね……誰も想像できないにちがいない)

 E N D
BACK
 同じようなこといってたのはわが従弟殿だったり……
続きもおいおい…… 一部までは最悪やる予定。
ちなみにクリスマス企画は某那津さんのサイトに一本パスってます。
一章目は甘い甘い甘い うちにしちゃありえない。後への布石。でも後まで書いてる余裕があるんだかないんだか。そのうち別サイトにぱする交渉成立気味?