a kitten(第一章)2日目

SIDE リョマ

「……?」

 目をあけて、すぐ他人の家だとわかったのは、それなりに緊張してるからかもしれない。
 「引越し途中だから」という言い訳とともに紹介されたダンボールたちが、目の前で陳列してる。場所を圧迫されてるようだったが、ラッキーにも自分にはソファーベッドが与えられた。
 あの後、連れ込まれた(というと聞こえが悪いが)家で、一通り説明を受け、軽い食事をとってシャワーを借り、寝てしまった。移動のせいかものすごく疲れていたので、余り覚えていない。

「へぇ」

 こうして、真っ当な状態で観察すると、部屋は狭くはないようだ。
 むしろ女一人で暮らし始めるには贅沢なくらいである。
 洗濯機と、お風呂場、トイレがまとまって直ぐ横の部屋にあり、直ぐ隣に台所。自分の部屋と彼女の部屋は流石に一緒だけれど(そこまで広くしなければならない理由はないだろう。リビングがあるだけマシだと、一人暮らしの先輩宅にいったことのあるリョーマは知っていた)

「で……」

 与えられたジャージをはおって、リビングにいきつくと白い紙が見えた。

「…やっぱり」

 八月に入って直ぐ。
 高校生の自分はとにかく、は大学生だといっていた。まだ授業の有る時期なのだ。
 帰ってくるまで適当にやっていて、と残されたメモはえらく大雑把だがリョーマには考える余地など与えられていない。

「ここに住むなら……何とかしなきゃって?」

 ぽつんと呟く。答えを返すものが……猫すらもいないのは少し寂しかった。
 それでもやることは山ほどあるのだ。

「仕方ないね……」

 引っ越したての彼女が学校へ通っている間、フルで、家のことをある程度何とかして(段ボール箱のでかさで、家具だと分かるものはすべて取り出した。食器類もだ
流石に衣類は……ちょっとまずいものがみえて、慌ててしまったのだけれど)ホッと一息つくまで、ゆうに3時間半。
 二日目にして、こうして、リョーマは持ち主よりも、家に詳しくなった。
 自分はわりと、一人暮らしにむいているのかもしれない、とリョーマは意外なことに気づく。
 その反面、ややこしいなぁとも思うが、一段落。
 ――取りあえず休むか?
 カバーをかけたてのソファに寝そべると、日差しの匂いがした(さっきまで干していたから当然だ。これも自分で始めてやった)
 ドアの方を見つめるが、彼女はまだ戻ってこない。
 願わくば料理くらいできますように……。
 帰宅した彼女に、初心者に奈々子さんレベルを期待することが、いかに酷であるか……新しく「花嫁修業の大切さ」といったいらんことまで気づかされるのだが、それはまだもう少しさきのこと。
 持ち主の帰宅まで、目を閉じてしばし急速を楽しんだ。

 ※    ※  ※  ※  ※
「……まずすぎ」

「う……わかってるって。……精進するから、もうちょっとお手柔らかに……」
 
 「しっかりしないとこの先自身、キツイじゃん……」と言いたくはなったがリョーマは黙り込んだ。
 彼女が自分のために、料理をうまくなろうとしてる、のが滑稽ながら、何となく気分がいい。そんな気がする。
 帰宅してすぐに、料理を始めた彼女の手は、とてもじゃないが「年上の女」を連想させてはくれず、本気でばつが悪そうな様子からも分かるように、炊事中ずっと「いっぱいいっぱい」だった。

「ま、これは美味しいけど」

 ごまかすように、スプーンでかすめたプリンは確かに、意外なほど美味しい。
 どうやら慣れているようだった。
 明らかに手作りで、少しだけ格好は悪いのだけれど。
 ――誰かに上げたりとか……?
 よくお菓子をつくってもってこられたことを思い返し、リョーマは眉宇をひそめた。
 目の前の彼女はそういうことをするタイプにはみえない。
 恐らくは……

「甘いものすきなんだ……」

「……やっぱりね」

 ――だとおもった。
 恥ずかしげもなく言うところをみると、本当のようだ。
 今更相手に家庭的を望むつもりもなく、住まわせてもらえるだけマシだけれど「もうちょっと年上っぽい人のところにいけばよかった」と後悔しなくもないリョーマである。
 ついでに、「乙女になれとはいわないけど、もうちょっと……」と思わず突っ込みを入れたくなっていたりもする。

「一人で食べると太るから、俺にもってとこか」

「え、だって普通二人なら二人分作るのは当然で……って?!あ!もしかして嫌いだった?」

 慌てる様子がおかしい。
 ――ちゃんとしたお客さんでもないのに。
 なに慌ててんだか。

「……別に」

 呆れて言えば、

「よかった。なら、よければいってね。……ええとその……」

 またも無駄に焦った返事がくる。
 クラスのやつや、自分に何か期待してる少女もおどおどした調子を取ることはあったが、それともまた違う――いわば、先生に怒られる手前の生徒というか、秘密を隠してる子供というか……
 ――うん。状況は何となく分かったよ。いわなくても……
 リョーマは、感心しかけた様子を消して、ため息をつく。
 簡単に予想がつくのだ。何にびくびくしてるか(それも大したことじゃない)

「……作りすぎたとか――」

 「いわないよね?」とはいえなかった(目の前の表情が答えを出してる)
 図星を指されて子供みたいに、黙り込む彼女に呆れる。
 そんなえらそうなことができる立場ではなかったはずが、昼間の働きのせいで、すっかり逆転現象が起きている。
 いまや家の主は下手をすれば自分の方だ。
 ――って……そういうと、まるで……
 まるで…………    …………のようだ。
 ――…………そこまでファンタジーなこといわないし。
 彼女も言い出すタイプじゃないだろう。
 こそっとうかんだ「新婚」のフレーズ(お決まり過ぎる)を飲み込んで、

「出来の悪い姉貴をもったらこんなかんじかもね」

 憎まれ口で返す。

「あ!」

 怒った(本気じゃないだろうが)彼女の口に、指をあてて生クリームを取ってやりがてら(半分からかいも含める。これで静かにさせられるとおもってのことだ)

「Thanks My sister」

 ついでに、べたつくクリームを処理に舐め取って。

「甘……」

 慌てるを残して、わざとさきに部屋に向う。

「じゃ、俺寝るから」

 シャワーはすでにすませたからいいが、はそうとはいかない(さっき帰ってきたばかりだ)さすがに、起きていて……は何となくよくないだろうと、気をまわしてのことだったのだが……
 ここでも、どうしようもない「姉貴っぷり」は遺憾なく発揮される。

「え?もうねちゃうの?」

 ――さっぱり、分かってないやつもいるってこと……?
 好きでもない女とはいえ、年頃の青少年としては身体に毒なのだ。
 さっさと寝てしまうに限ると思っているというのに……。
 何度目かになるため息を無理やり飲み込んで。
 ついでに、別の先輩がこの立場だったら、「据え膳」美味しくいただくだろうに、と余計な想像を働かせながら(悪態をついて)リョーマは部屋に入っていった。
 あいにく昼間のダンボールとの格闘作業となれない環境もあって、疲れはそれなりに溜まっている。
 覗き込む(といっても居間の隣だし、彼女もその部屋の逆端で寝るのだが)彼女に、ぎょっとするも、ソファーベッドを展開させる。
 後ろに迫る声を軽く交わした。

「おやすみ

 風呂あがりの彼女を出来るだけ想像しないようにして。
 有る意味で不安な二日目の終了だった。

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ストックじゃなきゃ更新できんのだよ 第二弾。