【第二部 開幕 SIDE】
「あのね……」
顔のいい男がやれば、セクハラにならないとでも言うのだろうか。
不二はお決まりのようにことあるごとに人の手をいじってくれる。
「何?」
わざとか分からないのが質が悪い。
部活後の汗とラケットの匂いでいっぱいの手を押しつけて来たり、朝本を捲る手を、指先をきゅっと掴むことでやめさせたり(朝練習がなくて退屈してたらしい。他に人もいなかった)更には引き寄せたり、撫ぜまわしたり……いろいろ誤解を招くような真似をしでかしてくれた。
……で数度目の放課後。
何の因果か今度は言い付けられた数学の係。
担任が担当ゆえどうしようもないが、逃れられない運命なのだろうか。
奴は私の「一人でよい」との一蹴をものともせず、またも勝手に人さまの指先を(ノートごと)つかんでる。
他意があるのか何なのか。
分からないということは予想よりも不気味な状態だ。
動揺はしてた。
……私は面食いらしいから。
ただ、かといって嫌な推測の方も放棄するには至らなかった。
訝しげに眉ねをひそめた自分に彼は
「――あれ?反応が薄い?」
今更ながら首をかしげたが……
――そう心外な顔をされても……。
余計に穿った見方をしてしまう。
「そう毎度接触してたら流石に慣れるよ……――それとも慣れられたら困る理由でも?」
不二はノートごと掴んだ指先に、私が反応しないとみてとると弱ったなという顔をした。
――からかってるとは分かってたけど、ここであっさり開き直られてもな……
質問を肯定した表情に「なれられたら困る理由」を考えるも、あまり浮かばない。
ただ酷い話、不二なら「何となく」だの「気分」だのという理由すら有り得ると思った。
この人の言動には、ある程度予想がついてきた。
どこか気に入っていたから、裏切られたような思いがするのも事実だけれども。
「やっぱりからかってたんだ…」
思っていた以上に悔しいのは、あっちゃんに似てると少しでも思ってしまったからか、それともそんなセクハラ紛いですら不二との時間が楽しかったからか……。
――始めから自分に気をひきつけて離れようという魂胆だったに違いないのに。
「そう?」とわざとらしく小首を傾げる所作を制して
「趣味、悪すぎ……」
呟けば、
「心外だな。はひっかからなかっただろ?」
わりとしっかりしてるよね。と、お世辞にもならない言葉が返ってきた。
――本人は賛辞のつもりだ。
直感がかぎ取る。
ふと、そちらを見つめれば、唇がかすりそうなくらいそばにあって……
「からかってごめんね」
毒をふくんだ甘い声色が、確かに耳元に届けられた。ただし、反省など微塵もない。
――これ以上かかわってはいけない。
本能が告げるのはどうしたことなのだろう。
指先をするりと交わし、適切な距離を取る。
「目立つことしないでくれれば別に気にしないけど」
言葉は私らしくなく、未練がましく響いた。
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