劇場サディズム  【善き夢はなく】
【 SIDE

 
 時間がたつのは早い。
 まだ三日だけだけれど。

  *      *      *      *
 あの日は、うちにかえって暫くの間、どうしていいかわからなかった。
 練習に顔を出す気分でもなかったし、帰宅部とは得てして暇なのだ。
 オマケに塾も週1だけ。
 コンビ二で買ってきたポテトチップスを齧りながら、本を読んで時間をつぶすうちに結局寝ちゃったんだけど。
 その後数日も、友達とカラオケいったり図書館にいったり……ルドルフのテニス部にすら行き辛くなったのに、結局今日は行ってきたし。

 ――なんでだか、マネージャーさんから電話もらったんだよね。

 しかもそれがあっちゃんの携帯からで……ついでに関係の邪推をしてみたら、「観月君の彼女」だということまで発覚したりというおかしなことも起きたのだ(つい最近まで短期留学にいってたらしい。しかも、元青学だということも発覚して、色々盛り上がった。仲良くしてみたいとこっそり思う。……もっともマネージャーは忙しいから滅多に帰り前には会えないけれど)

 それから裕太君とも、話をした。

「え?それじゃ裕太君って観月君とそんな過去が……」
「えーと、その。でももう前のことっていうか」
「うん。尊敬してるんだね」
「はい」

 人には色々ドラマがあるらしい。
 夢中になるうちに、ふと時計をみれば、部活が終わる時間になっていて、あっちゃんに軽く断って帰途に着く。

 ただ……

「……なんかなぁ」

 当然といえば当然なのだ。
 報告は、軽くして……もう不二とも話していないのだけれど、ギクシャクしている。あっちゃんは不安がっていて、私は隠している。
 ――不二のこと結構きにかけてる……。話してみてもいいかなと思っているんだよね……。
 あちらから話しかけてくることも、なさそうに思えたが、だからといって「さてもう話すのはやめましょう」というのも何か不自然で仕方ない自分がいた。

 *        *      *      *
 そして……

『淳と何かあっただーね?』

 携帯に出た相手はこちらが言うより先にそう聞いたのだった。

「何もないよ。なんかおかしい。不自然かなあ」

 それ嫌だな。と漏らせば、

『なら話すだーね』と急かされるでもなく沈黙が返った。
 電話の場合、かえってその方がプレッシャーになるらしい。

『それで?はどうしたいだーね?』

 友人代表その2、柳沢慎也(今さっき確認。完全に覚えてないくせに携帯はフルネーム登録してたらしい……)登録したはいいが、めったなことではかけなかった相手(意外だが)に、私は何故か電話をしていた。

 優しい人に相談するのはズルイと思う。
 でも、あっちゃんにはいえないし、観月君では遠すぎる。
 恋愛話ってあんまり得意じゃなくて、聞く一方でいさせてもらってたから、今更誰かに話すのも滑稽だし、仲のよい、話せそうな子は部活でなく、今日は彼氏とデート。(ちなみに、かえって無頓着だからか、周りは彼氏もちの達観した子と、憧れはするけど実際恋愛したいオトシゴロともいえない変わり者ばっかりになってたりして。……これってどうなの?)

 ――だから妥当な人選なんだよ……

 とはいえ、だーねは優しい。
 何せ、彼とはそこまで付き合いが長くないのにほとんど扱いはあっちゃんと変わらない(甘やかされてるというより、要は単純に年下扱いされてるっぽいが)どころか、根本的に「お人よし」な分温かく感じる。
 
『淳には言わないでおくからさっさと言うだーね』

 ――……言いづらい……。
 そう真剣にされるとこれもまた……


「こうなんていうか、あまり上手くまとまらないといいますか……。本当に……いわない?」

『約束は守る』

 ――うん。知ってる。
 だから、練習もない休日に敢えて電話なんぞしたのだ。
 でもって、知っているにも関わらず言ってみたのは……本題を切り出しにくいから……。
 もうどうしようもないし、心配はさせちゃってると思うし。このまま「終わりました」じゃすまないのだから、ここは覚悟を決めるべきなんだろう。
 それでも、抵抗はあった。

「ちょっと前なんだけど、不二(兄)に怒ってきた」

『うん?』

「近づいてきた原因はやっぱり裕太君だった……みたい……」

『みたい?』

「……その切り替えしちょっと誰かさんっぽい」

『ははは、ばれただーね。淳がやると嫌味手前だけど、時折効果もあるだーね』

「分かる分かる。それされると、答えちゃうもんね」

『そうそう』

 それで?、とだーねはちょっとだけ声を低くした。
 ――流石にこちらから切り出しておいてだんまりは出来ないか。
 でもこの状況をどうしたらいいんだろう。
 答えを待たれてる状況なんだよなぁ。
 ――うーん……
 実際にあっているのと違って、本当に電話の沈黙は気持ちを圧迫してくれる。

「……簡単にいいますと……気付いたときには、泥沼ってかんじで……」

『つまり?』

 そう。
 こんなこと宣言すべきではないし、誤魔化してでも取り消すべきなのだ。
 けれど、そうしたところでなんか息が詰まりそうだった。
 なんのかんの、私は思考回路を垂れ流す時は垂れ流すのだ。わかりにくいが分かってる周囲の連中は、だから子供扱いするんだろう。

「中性的で綺麗に整った顔が好きだって思われてたでしょ」

『へ?』

 だーねは、流石につながりのない会話に、(慣れてはいるんだろうが)一瞬ぎょっとしたんだろう。息を飲んでいた。
 一拍おいて、

『そうだーね。………あ、でもさすがに観月はおすすめできないから、紹介とかは――』

 別の方向に先走った答えをくれる。
 けれど……
 話してるうちにきっと分かるだろうから、私は話を続ける。

「違うの」

 自分でも面食いだとは思ってるが、あくまでもそれは「観賞用」だった、と。
 で、それが問題だった、と。
 観月君どころか、大問題になりそうな人選をしてしまっているのだから自分でもどうかと思うが。

 ――だって本当の好みは……

 ここまで最悪なものだと自分でも思いたくなかった。
 無論見かけもある程度カウントはされるのだろうが。

「『からかってごめん』」

?』

「そんなこと言いながら、本気で楽しんでたり、とか。興味本位で近づいて、飽きたらふいって何処かにいきそうな、そんなタイプが好きみたい」

『……え……それはちょっと……』

「私、大分趣味悪かったみたい……」

『それって』

 だーねは、予想通り目を白黒させてくれてるに違いない。
 うん。これで特定できる可能性は十分踏まえてる。
 一通り深呼吸から、肩を廻す動作まで――何となくだーねが準備する間をかけてから、一言だけ。

「策略に載せられてというより、そんな性格の悪さが結構……好きかも……」

『ま、まずいだーね。それ。そんなことしたら不二の!』

「うん」

 苦笑を返す他無い。
 もう、ばればれなのだ。
 本人にもばれるかもしれない。今日の様子だとなんともいえないが、何にせよ軽くからかって飽きたらお終いだし。
 それ以前に、付き合うとか側にいるとか……そういうことを前提としない自分が微妙な感じだ。

「思い込みかなーとは思ってみてるのね。ただ、何でかわかんない……なんか、不二が気になって仕方なくて……好きとかそういうのとも違うかもしれない……」

『…………うーん……』

 だーねは電話の向こう側で呻いていた。
 
『単純に話して楽しいのは友達だーね』

 そうじゃないのか?
 聞かれても、答えが無いのだ。
 ただ離れがたくなってしまった。
 自分で怒って、避けておいて――けど、もう気持ちは離れがたくなっている。

「何かあることはもうないよ。きっぱりいったし、あっちもあっちで、その上で何かするほど図太くはないから」

 それでも誰かに話したくなったのは――だーねに話したくなったのは。

『それは……何となく想像がつくだーね。……でも、。淳は知ってるだーね?』

「ううん」

 そう、そのせいだ。
 気付かれるのは時間の問題だとわかっている。

 ――心配はさせたくない。

 特に何があるわけでもないと予感がするからこそ。

 そんな気持ちが伝わったのか、

『近づかない方がいいって淳の言葉には同意する……』

「うん」

 柳沢は真剣な調子で伝えてくれた。
 私も本当にそう思ってるので、大人しく頷く。
 それから、「だけれど」と付け足された何だか情けない声に、

『好きでいるのは止められないから……』

 じーんときてしまった。
 ――優しいんだよ、本当。
 そして、反対に怒るあっちゃんが浮かんで眉間にしわをよせた(自分の顔だけど、勝手にそうなるのが分かる)
 あれもあれで心配してるって分かってる。

 ……と、柳沢は、「驚いたけど、行き成り『止めなさい。貴方は、何をかんがえてるんですか』とか観月みたいな忠告はしないだーね」と物まねつきで笑わせてくれる。
『ただ……一つ忠告だけするだーね』

 こそっと呟いた珍しいトーンに、私は見えない携帯越し、静かに頷く。
 柳沢は、きっと、心配そうな顔を――まるであっちゃんみたいに深刻な様子をしてる。 
 その内容は、まさしく「友達としての忠告」で柳沢ならでは。

は、淳のことをどう思ってるだーね?』

 ――ちょっとまて。なんでそうなるの?
 まだ、そのネタ(疑惑)を引きずってた?

 首をかしげる隙間に、まぎれて、ちょこっとぶっきらぼうに、言いづらそうにだーねが言うに、

『不二周助のことはよく知らないし、観月が揉めた時『色々な意味で凄いやつだ』と思っただけだから、これは客観的ともいえない。……でもを見てたから、いえるだーね』

「うん?」

 それは説得力を持って聞こえた。

『――淳に似てるからってことはないか?』

「ちょっとまって、私別にあっちゃんのことは」

『分かってる。でも、違わない、だーね?』

「…………」

 不二に親近感を持ったことと、あっちゃんは関係しないのか?
 空気の透明さや、わりと淡々とからかってくる調子が――青学の中になくて……だから……?

 沈黙がどうとられたのだろう。
 私は、多分迷っていて――だーねは多分それを汲んでくれた。

『分かった。仕方ないだーね。淳には秘密だーね』

「うん。あっちゃんには上手く納まったっていってるけど、なんかぎくしゃくしちゃって……」

『こっちからもフォローするだーね。の方がポーカーフェイスだから大丈夫大丈夫』

「そっかな」

 聞けば、だーねが必死に保証するというものだから……ちょっと笑える。

「ありがとう」

 携帯の電源を切って、ソファに寝転ぶ。
 これで何が変わったわけでもない。
 不二に頭にこないでもないし、失望を消すわけでも、すきかもしれない可能性を否定するわけでもない。

 ――あっちゃんに似てる?

 それも違うとは思うのだけれど。
 何にせよ、あれから三日。
 静かな時間で変わらない時間が確保されてると思う。
 気になるからといって、何かするわけでもないし、近づいて普通のクラスメートやっても、別に平気なはず。

 観察を楽しむ程度の好奇心――恋の欠片なら、許される。
 経験のない私はそう思って、静かに息をついていた。
 この先の展開とか、あっちゃんと不二が接触する可能性とか、裕太君と不二との関係とか……一切の星回りに気を払っていなかったから。



あちらの連載とつなげたかったんですが大幅な改造がいるので今は我慢。観月の彼女の性格はあっちと同じだと思います……同一人物化版も後で作りたい。

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