【SIDE菊丸】
乾が眼鏡をかけなおした。
――目を疑ってんだろうな。
「あれは……」
「あ、不二ね」
コートには絶不調のチームメイトがいて、「どうしたんだ?」と聞かれるまでもなく、俺は呆れて声を返す。
荒れてる不二は厄介でいやなのだ。出来るだけ関わりたくない。(乾に聞かれることでとばっちりが来るのも歓迎できない)
――フォローしようがないって……。
普通にしようとしてるわりに、不二の調子は明らかに落ちてた。
をからかって楽しんでた(?)ときより、どうしようもなくなってる、と思う。
「……。……もしかして気付いたとか?」
――神埼のことをきにかけてるってことに。
乾がいなくなったのを見計らい、「なんで自分が?」と思いながらも漏らすため息は誰のため?
「どうかした?英二」
気楽に「いつもどおり」を装って近づいてくる……
――お前のせいだっつーの……!
つい数分前だって、たまたま生徒会関係で(なぜかわらないが委員会所属だからか?)手塚が「はいないか?」と、たかさんに聞けば、反応を何とか誤魔化して遠ざかるし。
――気にかけてないなら無視すりゃいーじゃん。なんでそんな過敏反応すんだよ。
何だか自分の方が苛苛してくるのだ。
――好きなら浚いにいけばいーじゃんか――
はっきりいってやりたいが「何のこと?」などととぼけられてはたまらない。
はで、何度か話しかけ悩んだ自分に、今朝、
「からかわれてたけど別にきにしてないから気を使わなくていいよ」
と先手をうっていってくれるし。
――こっちはこっちで怒ってなさそうなのがわかんにゃい……。
だから不二がああなるんじゃないかと八つ当たりがしたくなる。
気にしてないって脈もないってことじゃ……。
さすがに本人にはいえず、そう一人ごちた。
* * * *
土曜の授業は短い、朝練のイライラを乗り越え、眠い数学眠い古典(眠いのはどれも同じで、違うといえば体育くらいだろ!って突っ込みはナシな)を終えれば、すぐに昼。
兄ちゃんに気合を入れて作ってもらったオムライスを食べ終わって、コートに向う途中、
「菊丸」
声をかけられた。
振り向けば、予想外の顔があって昇降口の下、一瞬止まった。
「佐伯?……あれ〜六角がなんで都内にいるんだ?」
「聞かなかったか?今日うちは二時間目で切り上げだからさ、合同練習させてもらうんだよ。今夜はスポーツセンターに泊まって明日は練習試合も組んでる」
「そういえば、そんなことも言ってたような……」
――記憶にないけど。
適当に相槌を打ちながら視線を感じて辺りを見れば、ちらほらと女の子たちと目があった。
同じ学ランながら、爽やかさが売りの長身美男子は目立つらしい。
――羨ましいよなあ。
育ち盛りのおちびや、さり気に背が高い大石に比べ、近親を見ても伸びが見込めない不二や俺にとっちゃ、憧れるし妬ましくもある。
整った顔でも手塚よりとっつきやすいし。
「おい、聞いてなかっただろ」
ぼーっとしていたら、男にも好感度の高い悪戯な笑顔で小突かれてしまう。
不意打ち喰らって、避けきれないかったのが恥ずかしい(だって、まだ女子、こっちのことばんばん見てるじゃん。ますます見劣りするかも、って思わない男子はいないってとこ)
で、その相手といえば、
「不二は?」
さっと話を切り換えるさまもクールで嫌味がないのだ。
「あ、そか、不二とはジュニア時代から仲良かったんだっけ?」
練習前に何か用事かと首をかしげると、丁寧な説明が返った。
「どうせ俺が今日泊まることだって忘れてるんだろうからな、先に会おうと思ったんだけど」
聞けば、久々だからと、伯母さんが裕太の部屋に泊まるよう薦め、佐伯は有り難く招かれることとなったらしい。
他のメンバーは既に脇のテニスコートにいるが、不二の姿が見えない為校舎側にきたという。
そういえば、今日はたまたま仲がいいサッカー部の連中と食べたから勝手に不二は先に部室にいったと思い込んでたんだけど……
――あー……もしかして……
「今日は係なのかも。こないだ代わってたからないかなと思ったけど、あれは不二の我が儘だし……」
「へえボランティアなんて、らしくないな」
「あー、ていうか、係りの相手がさ」
――此間の相手がだから。
……と、言いかけて慌てて口を押さえる。これでもわりと友人思いなんだな(というか、無自覚な相手とはいえ、好きな人をばらしちゃまずいっしょ)
でも、あまり意味がなかったようだ。
「ああ、噂の彼女か」
佐伯はしたり顔で、続けた。「裕太の……」と聞こえたのは気のせいじゃないと思う。
「へ?あれ?知ってんの?」
「そっちこそ。不二が言ったなら意外だな。彼女の方と仲がいいとか?」
「うんにゃ。不二がその彼女をからかってて、それが彼女にばれた?みたい……。投げやりに教えられたんだけど……」
――そこまでの執着に何故気付かないんだか。
呆れているのは俺だけじゃなかった。
「仕方ないやつだな不二は。お前も気付いたんだ?」
喰えない笑顔に、不二に似たものを感じて、ドキッとする。
だからこそ何とかしてくれるんだろう予感があった。
「何を?」と聞く必要はない。
「裕太のことも知ってるのか」
佐伯は確認し、俺は頷いた。
それから、俺はともかく、佐伯は知りようもないだろうから「もそこまで怒ってるとは思えないんだよなぁ」とこっち側の情報も漏らしておく。
これについては、不二には悪いと思わなかった。
アイツにとってよくない話ではない。
「あんま話さなくて、惚れっぽい性格でもないから、からかわれてもそんくらいじゃメゲナイと思うんだよね」
「まあ。女の子はデリケートだから分からないけど。……にしても、不二に口説かれてもクールに対応できてる辺り、悪くないよな」
――おいおい。
「佐伯が手を出したら勝ち目がないぞー不二ー」
――シャレにならないって。
趣味が微妙に株ってそうな二人に、焦るが、からかわれたのはこちらのようだ。
佐伯は「はは、冗談だって」と流した後に、真面目な顔を見せた。
「ただ、勘が正しければ、不二は本気だと思うんだ」
否定はしないが他人に言われると肯定しがたいのは何故だろう。
テニスコートに向かいながら、男二人でああだこうだ他人の恋について語ってる状況にもなんだか笑えてくる。
――しかも、不二(男、同年代)が話の種って……
コレまでを思えばありえなかったことだ。
その辺りは流石に長い付き合いで分かられているようだ。
「青学テニス部の中で、女に一番冷たいのは不二だろ?」
「……」
否定のしようがない。
「表面は優しいけど、わりといらつくし、告白やらプレゼントが嫌いなのも不二だ」
「うん」
「だから、痛い目を見ろとも思うが」
「それは同感」
「でも、放っておけない」
――俺も。
同意を示すと、目があった。
不意に馬鹿馬鹿しくなってくる。
――だってさ……俺ら二人して……
「なんだかんだ、佐伯って不二のこと好きなのな」
「それは、お前」
「そうかぁ?からかいたいだけかもよ?」
「こっちも」
理由は何でもいい。
ただその瞬間、不二のどうしようもない恋未満の思いを手伝ってやろうかなって思った。
「厄介なのが切れる前に」
という、佐伯の言葉の意味はその時点ではわからなったけれど。
「を、練習試合にでも、ひっぱってくるか」
提案に、したり顔で返された。
「安心しろ。絶対来るから」
その理由ごと、事情を知らされるのは少しだけ後、目の前で木更津に飛びつく「あまりみられないの様子」を目撃したときのことだった。
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