劇場サディズム  【善きは無く】
【SIDE 木更津亮】

 数日前、淳からわざわざ電話があったときのこと。
 用件は、サエから不二の方を牽制できないかってことだった。軽く見張る程度でいいからヒドイことがないように……と。
 ――でも、まあ残念ながら……

「無理だと思う。の趣味悪いのは毎度のことだろ。いちいち気にしなくても……」

『亮こそ気にしてるんじゃない?』

「……」

『……俺はあんまり不二のことは知らないしサエさんに聞きたいと思ったけど、亮は?』

 そう、片割れは聞く。
 確かに双子とはいえ考えが同じとは限らない。

 ――けどさ。
 の話題なら長電話に付き合ってしまえるんだから、聞かずもがなだろう。
 淳が家を離れる前後、擦れ違う方にすら動きかけてた二人の関係は気付けばまたくっついている。
 淳ほどではなくとも、自分もある程度過保護の気があるのは認める。

は嫌でも人を巻き込むんだ」

 憮然と声を返しても横からもれるのはくすくす笑いのみ。
 変に分かりあった兄弟になってしまった(これものせい)。

「駄目元だからな」

 止まない笑い声にそう断って、電源を切った。

 ――サエさんも久々の幼馴染みとの再会だし……あれで大概ゴシップ好きなんだよな。
 尋ね出すよう頼まなくても勝手にしてくれるだろうなんて、甘いことを考えてたし。

「明日……会うのか」

 喜ぶを浮かべ、複雑な気持ちを抱きながらも何となく楽しみだった。
 ただし、この直後サエさんから電話が来たのだ。
 用件自体はと関係なさそうにみえて、何となく淳の――不二との件が絡んでそうな(深読みしすぎか?)電話。
 なんでもいいから、こっちとしてはに……変わらないでほしいと願う。厄介を起こさないでくれろとも――。
 妙なことに巻き込まれている予感があった。

 *        *      *      *
 そして変わらないながらにどこか女っぽくもなった幼馴染兼従妹に遭遇し……翌日(今日)の約束と取り付けたんだけど……。


 ――約束通り来てる。

 後姿で分かる自分に拍手をしたい。
 彼女は見た目にも中身も「一瞬」通り過ぎてしまいそうな淡々とした空気を持っていた。よく言えば控え目で涼やか、悪く言えばその他大勢になりがちで目立たない。
 それでも自分はすぐを見つけられたし、知った人間にとっては無視できない存在感を放っていると信じてる(身内ビイキか?)
 ただすぐに「」と声をかけるのをためらったのは彼女の視線の先に気付いたからだ。
 何か否定するように首を数回小さく横にふる。再び視線をコートに定め、むっとした表情で睨みつける。(わずかすぎて自分以外は多分気付けない)
 凜とした横顔のシルエットにドギマギさせられた。

 ――幼馴染みが女に見えたのは初めてだ。

 淳の心配を笑えたのは、きっと自分が彼女のわずかな変化を見ずにすんだからだ。
 彼女が恋愛とまではいかずと力づよい目でみているのは兄弟の危惧通り青学の二枚目だ。何を考えてるか分かりにくくても何とも思わなかったが、ここにきて一気に不安になる。

「いっそサエさんならまだよかったのに……」

「何?」

 独り言に返すのは当のチームメイトだ。

 ――そこでこうもにこやかに訪ねられると、困る……。

 かといって誤魔化す性分でもない。(淳なら心配で適当に言ったかもしれないが、自分の方はこれで率直に言う方なんだ)

「従姉妹があんまり可愛いから他に渡したくなくてさ。でもサエはサエで嫌だなあ」

ちゃんだっけ?そんなに大切なら自分のにすればいいじゃん」

「自分なんかよりずっとそうしそうなのが他にいる」

「淳か」

「そう」

 シスコンな域を越えてるとしたらあっち。
 淳の方が重症なのは、言うまでもないだろう。
 まだがうちの方にいたとき、サエさんにだけは会わせないと言い張ったのは淳だった。
 無論、同意はした。
 は面食いだし、サエはもっと自分に執着してくれる気の強いのが好きだから靡かない……つまるところ、仲間とややこしくなるのは正直面倒だったからだ(ヒドイかもしれないけど、男の友情はややこしさ抜きがいいだろ?)。
 サエさんもなんのかんの淳とは長い付き合いだ。
 あっさり、返答に納得してくれたようで、「ふうん」と頷いて

「佐伯!ダブルスやろう!」

 コートの中から菊丸に誘われると何てことないように「俺じゃないんだ?淳を怒らせたくはないから良かったな」と何か含んだ笑顔をみせた。

「何?菊丸が俺と組むの?」

「ううん、僕だよ」

 答えるは不二。別に感慨も恨みもない。

 ――でも折角だし。

「一人足りないんだろ?」

「え?あ」

「よろしく」

「頼んだ!」

 ――菊丸みたいに動き回るタイプのフォローは嫌いじゃない。

 コートの向こうで構える幼馴染みペアを前に一度だけを見やって……それから意識を集中する。

「サーブはもらったから」

 二枚目ペアよりまだまだには従兄の僕を応援してもらわないと。

「15―0」

 先にカウントを貰うのはどっち?
 まだ張り合いたい気持ちは少し自分の中に残っているようだ。
 それくらいに、自分もが大切で……

 だから試合が終わった後(結局負けた、僅差でも悔しい)

「次はルドだからよろしく。淳にも」

 淳を引き合いに、他に寄らないようさせようとしたり……

「うんしょっちゅうあってる」

 といわれて、少し悔しく思ったのだ。
 それから……

「好きな人……」

「え?」

「出来た?」

「珍しいね亮ちゃんが。……ううんいないよ。ていうか、性格の悪い方が好きみたいで、当分いない方が幸せだって気付いた」

「僕らでいい。僕らにしときなよ」

 などと言ったのは何の気まぐれだろう?

「……あ、でも、言っておくけど、淳にやるのは癪だからなぁ」

「はは、そしたら必然的に亮ちゃんになっちゃうよ」

 張り合ってるだけだと思われたのかもしれない。
 笑われた(を、そりゃそういう意味で好きではないけど、渡したくないのは本気なのに。まあ本当のところ、いっそ誰かに渡すくらいなら淳のがまだと思わなくもない複雑な幼馴染心を分かって欲しい。

「そのままお子様でいれば?」

「ひど」

 非難されるが、本音だから言い返さず頭にぽんっと手をのせる。
 この癖は敦と同じらしく、似てると言われるとむっとするのもまた同じのようだった。指摘される(全く……。ははっきりいってくれる)

「ごめんね、明日のテスト勉強してないからそろそろ帰る」

「うん。わかった。じゃ、お昼だけ一緒して?」

「デート、か。淳が悔しがるな」

「楽しいでしょ?」

「まあ」

 交渉を終了させて、荷物を取りに戻る。
 本当のところ、奥でこちらを気にしてる不二の視線が楽しい――とは言わないでおく。(にはまだ)
 あまり渡したくないが、あれで一応本気でを気にしてるんだろうこともわかったけれど……今だけは、とられたくないと思う父親のような兄のような気持ちとともに、見なかったふりでまとめて。
 の隣に再度、並んだ。



ちょっと間が開きすぎて構築にずれが……
そのうち ちょい書き換えるかもしれませんが。

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