劇場サディズム  【良き人で無く】
【SIDE不二】

 が来てることに気付いたのは偶然じゃない。

*      *       *       *       *
 昨日佐伯がさんざんかけてくれた余計なプレッシャーはまだ生きてる。
 早い時間からフェンスに着いた彼女には「意外」という感想を抱くが、

「どうかしたか?」

「乾……何でもないよ」

 木更津と仲睦まじく話す様子は裕太に聞いたまま、ルドルフの練習光景で――教室で最後に会話したときよりも話しづらい、そう思った。

「木更津か?……ん?あれはお前のクラスの――」

、知ってるの?乾」

「いや。木更津亮の彼女か何かか?ルドルフの試合では見なかったと思うが……」

「親戚だよ。ルドルフの方は近いから敢えてこなくてもいいんだろうね」

「珍しいな、不二。人に興味を持たないお前が」

「気にかけているようだったから俺が教えたんだ」

 いつのまにか、アップを終えた佐伯が(六角では、アップは個人に任されているらしい)乾に口を出す。

「……なるほど」

 明らかに何かいらない期待をしてる乾に、

「裕太の知り合いだから」

 他意はない、とやんわり告げる。
 佐伯があんなこと言うから気になってるだけだ。

 ――そ知らぬ振りして、よく言うよ。気にかけるも何も無理やり情報提供してきたのはそっちじゃないか。

 今横をみればにやりと笑ってるに違いない。
 佐伯との、昨夜の会話を思い出して溜め息をついた。

 *        *      *      *      *
 佐伯が泊まりにくることはその当日(昨日)に知らされた。
 この腐れ縁の幼馴染もどきは、前からよく選抜の合宿後のちょっとした連休だったり、試合の会場が東京のときの前後〜最中だったりに、遊びに来ていたし、裕太とも仲がいい。
 だから急な話であっても、別段嫌な気はしなかった。そもそも合同練習の話事態は僕が一番に電話できいてたのだし、昔から我が家のアイドル「虎次郎君」の登場に母さんや姉さんも喜んでたし。

 ――けど……。
 このタイミングは、と苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう自分を知っている。
 しかも何でこういう流れになったのか分からないが、気付けばとの話をしている佐伯がいた。

「電話のとき言いそびれた話、はっきり言わせてもらえば、不二。裕太君のはちょっとした憧れだし……お前こだわり過ぎてない?」

「だからその後はとくに何もしてないって」

 食事や風呂を終えて部屋に入ると、佐伯は手加減抜きで、こっちの弱点(きかれたくないところ)をせめてくれる。
 ――本当、勘がいい……
 こういうところが、付き合いやすくも頭にもくる(ムカつくと同時に羨ましいから、遠ざけがたい。手塚みたいにいっそボケボケだったら〜と思わないでもないけど……それもそれでどうかと思うし)

「挨拶も?」

「まあ。厳密かわからないけど避けてはいるかな」

「だから、やりすぎなんだよ」

「そう?」

「そうだ。敢えて近付いたのが事実でも、きっかけがどうでもさ、話してて楽しかったなら同じ調子で話せばいいじゃないか。今更後ろめたいなんて思うか?普通」

 気にしないでいいだろ、という提案はもっともだけど、

「無理。には警戒されたし、とくに話したいことも――」

「ない?――嘘」

 気軽に告げてくるその笑顔には、問答無用で他の答えは認めないぞ、と描いてある。
 黙りこむのは面白くないけれど、この場合口答えした方が負けだ(認めることになってしまう)

「不二の場合、気晴らしだったとか言ってる時点で『らしく』ない。明日亮の応援に来るって言ってたぜ。話してみろよ」

「別にいいじゃないか。……って何で、そんなに佐伯が絡むの?俺は特に――」

「不二が極端に遠ざけるのは、気にかけてる証拠。
 好きになってなきゃ傷つかないだろ?だから――」

 だから、逃げてるんじゃない?

「……」

 もっともな事を言われるのは腹がたつ。
 しかも滅多なことじゃ、テニスや勉強や馬鹿な話以外しない俺が、何で久々の――特に近くにいたでもない幼馴染にこうもいわれなきゃならない?
 苛苛する。(でも、そんな佐伯に、言われる原因――破片をばらまいたのは自分だ)

「ま。もてることを鼻に掛けたイヤな奴程度には思われてるかもな」
 駄目押しで言って、佐伯は肩をすくめてみせる。

 ――避けてたことに気付かせておいて、何それ?

 けれども、むっとする以上に、これで佐伯が心配してることも分かるから。
 それだから、付け足されたら、

「案外あっちも気にかけてると思うよ。不二もさ、もてる癖に……自覚しろよ」

 笑うように、爽やかに言い切られたら……

「そんな馬鹿なことあると思う?」

 自分で企んでおいて、なんだけれど……たとえ一時気に入られても本気で好きになられないことは知っていたし、だからこそちょっかいを出したのだと、いってやりたくても期待はしてしまう。

『好きだったのかも……』

 って言ったらどうする? とは確かに足して笑ったが、あれが自嘲だとしたら?そうしたら僕は……

「まあ、裕太のことは忘れたふりで話してもあの子なら気にしないっていう意見は認めるかな」

 ――それだって、素直にはいけやしないけれど。
 少しだけ、気は楽になった。
 佐伯のポジティブさはどうかとおもう(程度に自分がヒドイ自覚もある)が、それはそれで有りだと思えもしたのだ。クラスメートとして折角近づいた地位をあえて消すこともないかなと。
 *        *      *      *

 ――でも……。
 木更津と話しているの、楽しそうな顔を……決定的に自分に向けられるものとは違う感情を見る前は……躊躇せず話す気にすらなっていたが、それをみてしまった今は……

「あれで付き合ってないって?」

「幼馴染なんてそんなもんだろ」

 あっけらかんと答えてくれる佐伯だけでなく、訳知り顔で頷く乾すら憎らしくなる。
 別にこれはやきもちではない、と言い聞かせ――妙にプライドを傷つけられたものだから……と二人の側を離れた。

 ――すっとしたいのなら試合……

 それも悪くない。
 たまには(でもない気がするけれど)佐伯も捲き込んでやろう。
 たまたま声をかけてきた英二の「ダブルスへのご招待」に(それなりに手ごたえがあるのを相手に向ってみたいからとっておきだとおもったし)答えた。

「いいけどたまには敵になるってのもいいんじゃない?」
 
 ストレッチの手伝いをしてもらい、アップを完全に終えてから再び佐伯を見れば、今度は木更津と話してるところだった(ろくでもないことに違いない……)
 思い切って、

「佐伯!ダブルス、たまには組まないか?」

 提案をし、

「ああ」

 訳知り顔?と一瞬思ったけれど、本気で嬉しそうに「ダブルス、組むの久々?」と話しかけてくるから、毒気を抜かれた。
 結局、試合は3セット。
 英二と、木更津が組んだのは意外だったけれど……。
 かえってよかったのかもしれない。
 すっきりと勝って、気分は晴れた。
 それから……。
 偶然なんだろうが、英二が声をかけてきた。しかもについて。

「なあ不二」

がみにきてるの珍しいし、ちょっとからかってみないかにゃ?」

「え、でも……」と躊躇するのは言うまでもなく――

「クラスメートがきてたら、チーム36を応援!基本!基本!……なのに、ったら、木更津べったりだし、俺同じチームなのに一言も声かけてもらってにゃい」

「あーそっか。そういえば……」

「へえ。不二がギブアップ?からかうんなら徹底的にするとおもってたけど意
外……」

 プライドだけは高いから、と断定してくれた横で佐伯が笑ってるのが癪にさわりながらも、

「そうだね。一声くらいかけようか?英二」

 対抗するように思わずOKを出していた。

 *        *      *      *
 は、いつもの制服に差し入れなのだろう。アクエリアスのボトルと、タオル(これは自分用なのかもしれない。見慣れたパンダのキャラクターがついていた。何かのオマケ?)を持って、日陰にたっていた。
 さっきまで炎天下、フェンスにはりついていたから心配だったんだけど、誰かに言われたのだろう。多分……木更津あたりに。
 何時の間に仲良くなったのか、英二が「来てたんなら声くらいかけてよなー」と、幾分馴れ馴れしく話しかけ、僕は、

「今度の相手、ルドルフだけどはくる?」

 と続けていた。
 首をかしげる彼女に、

「木更津と幼馴染だっていってたけど今度は先手打って『クラスメート』の応援に誘っちゃおうと思って」

 慌てて言う自分はまるで、「言い訳」をしているようだと思う。

「そういうこっと。36メイツなら俺らのことも応援してほしいにゃ?」

 英二があわせる。
 あんまりに警戒されてる様子に、流石の『青学マスコット・営業担当』菊丸英二もぎょっとしたらしい。
 かわりにこっちが「少しはこまった?」とフォローに笑おうとして……

「駄目かな?」

 できず、そんな声がついて出ていた。
 不可抗力。
 でも、それはかえって怪しまれたらしい。

「あっちゃんの方が優先だから駄目」

 はっきりした意思は、当然だけれど……少しだけ面白くなくて、「そろそろ集合だぞ」という大石の呼びかけも耳半分に固まってしまう。
 「ひでぇ」と素直に漏らす英二が羨ましい。

 ――羨ましい?

 なんで?
 そんな必要はないのに。
 ――別に、彼女を『好き』だというわけでもなし……
 ただ、首をかしげながらも、そのの躊躇いのない『言い切り』に、もとの調子が戻ってくる。

「応援しないと負けるから?」

「うわー自信過剰」

 とは、いつもの(前と同じ)の口調。
 英二ですらも吃驚するくらい『勝つ』つもりの自分を知っていたけれど、

「自信なんてない。だから応援してほしいって……」

 まるで再現のように口にしていた。

「言ったら……信じる?」

『好きだって……言ったら信じる?』
 言葉はあのときと被って……まるであの日に戻ったようだ。
 その問いには答えなかった。
 代わりに、

「どうせ行くし。応援してほしいならそういえばいいのに」

 少しだけ顔をゆがめて笑った。
 英二が、困惑したように、「いいの?」と今にも「応援してよ!」と言い出しそうだったけれど、答えたくなくて……

「木更津には負けないと思うよ」

 生意気にも(でも本当だとも思うけど)断定した。 
 むすっとするが可愛いかったから、思わず笑って……

 ――可愛い?

 驚いて踵を返すと、相変わらずの訳知り顔でこちらを見ていた佐伯と目があった。
 『  いい加減 自覚しろよ   』
 口ぱくで何を告げてるかなんて、もう分かってる。
 それを認めるかどうかは……まだまだ覚悟がいるとしても。
 現実は待ってくれない。



 取り合えずこれで第二章目ほぼ終了
 もうちょい残ってますが。
 不二SIDEはこれで、ようやく一箇所クリアというかんじで……。
 クラスメート→??  昇格か降格か。

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