劇場サディズム  【言い訳はなく】
【SIDE木更津】

 その日、コートに入ると、ダブルスのパートナー、慎也がおどおどする様子が見て取れた。

「何かあった?」

 ……と、声をかけてみたくなるくらいには、珍しい光景だったが、理由は意外とあっさりしたもので、

が来ないの珍しいだーね」

「そう?」

 小さい子を気遣うような、いつもの調子の「心配だーね」を聞きながら、妙に納得した自分がいる。
 楽天的にみえて、これで柳沢は気を使う方だ。
 練習開始から大分たっているし、が金曜にこなかったことはほとんどない。
 加えて、あの方向音痴だ。
 たしかに、この時間なら心配しすぎてしすぎることはないのかもしれない。
 こっちは、何か足りないと思っていた原因がはっきりして、かえってその後練習に集中できるようになったのだけれど。
 慎也は、それきりボレー後のフォローやフォーメーションの確認に話題転換したものの、休憩になると、

「淳……オレ、落ち込んでたのに、余計なこと言っちゃったもしれないだーね……」
 
「何、それ……」

 一言ぼそりと何やら呟いてくれたそれには、思わず手にしてたアクエリアスを飲みそびれ、水筒から零してしまう。

「あ、う……別にたいしたことじゃないだーね。励ましたつもりが、墓穴っていうか……あー!淳には秘密だーね!」

 ――……きれられても困るんだけどさ……。

 その半端な調子がかえって「不二がらみ」だと示しているようで――。
 それしか考えられなくなっているのは、 昨晩の電話のせいなのか。
 苛立ちが大きくなる。

 ――亮は「不二が好きとは限らないけど可能性は高くて癪なかんじ」だっていうし……サエさんは中立で頼りにならないと証明済み……

 それにもまして、「の保護者化」してる自分に嫌気が差しているのもまた事実だ。
 亮にも告げたが、妹分であっては妹ではない。
 かといって付き合ってる恋人でもなく、幼馴染。
 恋愛沙汰ならば口をだすなどヤヤコシイであり、かつご法度だとすら思う。

 ――けど気になるんだから……たちが悪い……

 血を分けた兄弟に「過保護すぎる」だ、「あ、けど、釘は刺した方がいい。放置すると本気でもってかれそうだし」だだのと、はっきりしないが、揺さぶりをかけられるような言葉を投げかけられた次の日には、どう行動に移していいものか分からないのだ。

 ただ一つ、隣のパートナーは何やらの味方らしく……それはかえってありがたかった。

「冷静じゃなくなってるから……」

「ん?何かいっただーね?」

「ううん。別に」

 苛立ちの原因ではあるが、にあたりちらしたいわけではない。 
 本当の標的は別にあるのだから。

 ――そうか……

『 釘は刺した方がいいかも 』

 ぼやくような亮の眠い声が、こちらの目を覚ました。

「そういえば、観月が青学と練習試合をくんだっていってたよね?」

「あ。そうだーねー。今日の練習は後半で赤澤とぬけるっていってたから……」

「そろそろ、か」

 釘を刺すのならば、早い方がよい。
 これ以上、不安にさせられなければ自分の心の平穏は保たれるのだ。
 そもそも、不二が何かしそうというワケの分からない不安を振りまかず、佳がにへらっと毎度のように適当に過ごせればいいわけだから、不二の側に毅然と言えばいい。

 ――遊ぶのには不向きだっていっても、かえって興味を引きそうだしなぁ。

 でも、無為に傷つけるタイプかとおもえば、そうでもないようだ。
 反省をしてるようなそぶりも見せたということだし、亮の観察が確かならばにむやみに近づくこともないという。
 
「ねえ、観月」

 「え?淳?」というパートナーの制止は無視して、今は直球勝負あるのみ。

「僕がかわりに行くから、練習続けててよ」

「は?何をいってるんですか……。赤澤を引っ張って真っ当な話し合いと挨拶をですね……」

「だから。別に僕がやっても問題ないでしょ?」

「いえ……そういうわけには……」

 頭を抱えている観月の心配は分からないけれど、恐らく裕太関連だろう。
 と僕との関係を、裕太が誤解していることを……観月はしっているから。
 悪影響になると思っているに違いないのだ。

「平気だよ、二年は今日課外授業できてないし。はこっちにきてて帰ったことにすればいいし」

「そういう問題では……」

「いいよな?赤澤」

 髪の毛をいじくって神経質になりつつあるんだろう観月をよそに、脇から固める。
「お、おうオレはどっちでもいいぜ」と明るい同意が返って、その後、再び観月に向き直った。

 と……。

「喧嘩されては困るんですよ」

 何かを……知っているのだろうか。
 観月は、少しだけ躊躇した後、真顔でそう、僕に言う。

「しない」

「本当ですね?」

「理由が……」

「あるでしょう。不二……兄の方ですが、さんとクラスメートだそうですね。何があったか分かりませんが、推測するに、君には他に青学『テニス部』を気にする理由はない。先週六角……あなたの兄弟もあちらに練習試合にいっていたそうですし、間違えないと思いますが」

 どうなんですか?
 目で問う。
 厄介を起こさないで下さい、というのは観月の心底に願いなのだろう。
 あれだけ、不二が嫌いな癖して、と思わなくも無いが、実際喧嘩を売りに行くつもりもなければ、穏便でない方法をとること自体僕にとっては稀だ。

「裕太の方に影響するとマズイし、のことも十中八苦『弟いじめ』の延長だろうから釘をさしてこようとおもっただけ」

「それはまた結構な幼馴染で」
 
 皮肉だと思ったが、茶化されても構わない。
 そう思って放っておくことにする。
 沈黙が数秒。
 すると、観月は根負けしたように、再びため息を一つ、大きくついて、

「まあ君なら、偵察かねてということも可能でしょうし……そんなにいうなら赤澤」

「あ?オレ?」

「あなたは病欠です」

「は?」

 唐突な話に分かっていない赤澤がうろたえて顔をこちらにむけるが、飲み込めた僕は静かに頷く。

「休んだことにして、練習してていいって」

 解説を加えれば観月が命令を発した。(毎度のことだが観月のほうが立場が圧倒的に上だ)

「青学には、僕と木更津君でいってきます。いいですか?赤澤。今回はこなくていいですから、そのかわり裕太君の特訓メニューをお願いします」

「え……?てか、オレいかなくていいのか?マジで」

 普段から練習時間をけずられるうえ、細かい偵察とセットになっている他校訪問は、赤澤にとっては拷問なので簡単にのってくれた。

「問題になるから、ちゃんと病欠にしておきます。どうせ顧問もこないんですから僕らが黙っていればいい」

「お、おう……」

「厄介な偵察をなくして、そのうえ裕太君の特訓係という栄誉まであげるんですから(※要するに、普段のキツイトレーニングメニューの一部削減)しっかりしてくださいよ」

 賄賂……とまではいかないが、なんのかんの赤澤の操縦は観月のおてのもの。

「え?裕太の……って……トレーニングメニュー半分ってことでいいのか?けどよ、どうしたんだ?いいのか……」

「ここだけの話、裕太君は、今兄と大喧嘩をしているようでして……木更津君曰く、多分さんのことで兄がからかいすぎたのではないかと……。神さんにまで影響があると困るという幼馴染の気遣いだそうです」

「へえ。……てか、裕太ってふられて……」

「それをいっちゃ気の毒ですよ」

 だから不二(兄)がからかったのに過敏反応した、と観月は話をでっちあげてくれた(間違っていなくもない)

「なるほど。裕太には秘密ってそういうことか。まあはなんだかんだで、俺ら全員と知り合いだし、無関係でもないからなぁ。今回くらい私情はさんでもいいだろ」

「ありがとうございます。……むしろ、私情と部活をわける程度にちゃんとしてたんですね、あなた」

 と失礼な言葉で締めくくっているが、おかげで話はまとまった。

「さあ行きますよ」

 用意に繰り出す観月の後をついて、青学に向う。そういうことになった。
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 これで、予告のした部分につながる……
 一度切った方がよさそうですな、予告は二部三部一緒にしたものということで。

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