「で?」

 門を出て直ぐ、観月は口を開いた。
 面倒くさそうにしながらも、ちゃんとこちらの話をkきこうとしている辺りに、お人よしさ加減が伺える。
 その観月らしさにこみ上げてくる笑みを、何とか誤魔化して、

「練習試合とはいえ、私情を持ち込みたくないから。早めに対処すべきだろうかと……」

 と、説明を足した。
 ちょうどバス停で足を止めるタイミングで、観月は簡潔に

「要するに、やはり不二周助ですか。さんと。後は裕太君の問題、ですね?」

 纏めてくれる。
 実際そうであっても、何やら含まれる「思惟」が気に喰わないから、返事をしなかった。

「見たところ、裕太君の方はふられてふっきれてるようですが」

「そりゃ、は見かけとのギャップもあるし、憧れでしかなかったんだろうし」

「そうですね。まあそれに、さっきもいいましたが、裕太君の方は兄が絡むと過剰になりがちだ」

 大方予想どおりに会話が展開する中、バスが付き、僕らは乗り込む。
 青学までの距離は実のところ、さほどではない。(電車にのりかえればもっとはやいがヤヤコシイから、この路線一本でいくつもりだろう)
 ただ、観月の嫌味とももれる、

「まるで木更津が、さんを引き合いに出された時のようにね」

 この一言はいただけない。
 ――そこまでに執着してる気はないけど?
 答えようとしても、走り出すエンジン音が予想外に煩かったから、口をつぐんだのだが、観月はふうとまたため息をついて、こちらに視線を投げてくださる。(なんとなく、これまた人を挑発してくれる類の仕草だ)

「そうでないというなら、ついでです。いっそ、裕太君の気持ちを荒立てるなと、あのしょうのないブラコンに告げてやってください。不用意に、に近づいてもらうのはルドルフにとってもよくありませんしね。……貴方の心境を考えても」

「最後が余計」

「過保護なのは認めるべきだと思いますよ?」

「……まあね」

「こちらとしても、兄弟でごたつかれる分にはいいのですが…………」

「何?」

「いえ、何でもありません。降りますよ」

 次です、と観月はバスの停止ボタンを押し、何食わぬ顔で用意のノートを広げだしている。
 言いかけられた台詞は気にはなったが、なんのかんの話さないと決めたら観月は話さない。口を噤むマネージャーの横、彼の専売特許と化したため息をついて、こちらも従う。
 青学の門は、思っていたよりもくぐりやすく(前回の遠征が氷帝だったからかもしれないが)女生徒の視線が痛いくらいで、居心地は悪くなかった。
 から様子を散々聞かされていたせいかもしれない。

「ところで、コートはこの先ですが……」

 君は?と促される様子に、ふと横を見やれば……

「別行動の方がよさそうですね」

 すぐ左、見慣れた整った顔があった。
 弟よりも、存在感があるんだかないんだか分からない柔和な笑みは、正直サエにも似てて……でもずっと苦手だ。
 最初に見たときは、同種に感じた、考えを読ませない空気も、不二周助の場合綺麗すぎて胡散臭いと思う。
 これもの刷り込み、か?

「僕は手塚君と打ち合わせがありますので」

 部室にいますから後で案内してもらってください、と、観月は颯爽と立ち去り、やがて残るは二人。
 観月自体は、もう不二には執着していない様子だった。

 ――敢えて不二にも会釈する辺り、大分気持ちもおちついたのか。それとも……

 自分に、(不二周助に対して)憤る役を押し付けられたのか。
 どのみち、残された組み合わせは、良くも悪くも双方にとって落ち着かないものにちがいない。

「木更津……。そうか、ルドルフとは今度試合なんだっけ。ようこそ」

「……観月が……そっちの部長と話してる間暇だから……その……暫く待たせてもらいたいんだけど」

「うん。いいよ。君には結構裕太が世話になってるみたいだし、暇つぶしにこっちとしても付き合いたいところだから」

 平然としていても、「水道にいきたいんだけどいい?」と有無を言わせず移動させる不二は、何だか妙な緊張を呼びおこしてくれる。
 【――に見られたくないだろう?】
 人影の少ない水場に誘導する、その瞳の真意がこちらには伝わった。
 それでも、取り合えず、何をだかは、わからないけど「話す」ためにきたから……。
 だから、静かについていった。
 そして……

                    TO BE CONTINUED 不二SIDE
 *        *      *      *      *


「本気じゃなかったら殴る?」

 直接聞いて来たのは彼。

「まさか」

 許すの許さないのいう立場にもない自分はそう答えるだけ。
 それでも……

「不二、裕太は知ってるか分かる?」

「……」

「偶然じゃないなら、それはどうかな?」

 釘を指さずにはいられない、この気持ちは……

「エゴか」

 呟いた後悔をならどうするのだろうか。
 不二の薄い笑いの淵、ひた隠れする悔恨も。

 *        *      *      *



 残るは不二兄側。三幕目のスタート。

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