【SIDE 】
試合を見にこいと告げたのは不二だったのに、コートには彼の姿が見当たらない。
――なんだかなあ。
狙いは他にあったし、彼の勇姿とやらを期待してなどいなかったけれど釈然としないものが残る。
――あっちゃんが来るより先に青学に着いたせいかも。
うちからのが近いから当然だけど、いざ来ていないと退屈だった。ならば、あそこまで言っていた不二を探すかと思うのは無理のない流れだろう。
「ねえ、不二どうしたの」
もう一人のクラスメイト、菊丸をつかまえて声をかけてみる。
菊丸は少し驚いて、「うわ、せっかく来てくれたのにアイツ……」と何やらぶつぶつ言ってた。賭けでもしてたのか?挙動不審だ。
「不二のやつさ、風邪だって」
それはありがちと言えばありがちな理由だった。一歩間違えればズルとも取られかねないが彼の場合休み自体が珍しいので疑いの余地がない、そう菊丸は続ける。
「だから結構びっくりしてんだよね俺」
「まあ……」
分からなくはない。
丈夫とも見えないが自分は彼が休んだところを見たことがなかった。クラスはもちろん、何気なく習慣で覗いてしまうテニスコートでも、彼の不在はなかった気がする。
つぶさに見て来たわけじゃないから断定はできないがこれだけ目立つ人だ。嫌でも目に入る。
「皆勤賞ばりに出てきてたのにさぁ」
「練習試合、でる予定だったんでしょ?もったいないなあ」
「あ、うん」
出たくても出られない人もいるし、といつもあっちゃんが言うセリフを盗めば「そうか気付かなかったけど、そうなんだよなあ」と(少なくとも三年時からは)万年レギュラーの彼はしきりに頷いた。
「まあ勝ち取ったものだしね。それに練習よりやっぱり試合形式のが楽しいって思うから……」
「だからもったいない?、不二のこと結構心配してんだ」
「え」
「あれでも確かに試合形式は好きっぽい」
「そうなの?だから妙にやる気――」
「それはどうだろ?今回は単にに注目してほしかったんじゃん?我らがクラスメイトに」
「……そんなアピールする人?」
ぽろりと零れた感想に、珍しい苦笑い。
「ま、不二のことだからよくわからないけどさぁ」
きんこんかんこん
チャイムがなってついでに竜崎先生の声がした。
「集合だ」
「あ、頑張って」
「その言い方!」
「愛想ないぞ〜」と笑われたのは、そのとき目が校門脇を通り、コートに入ってくる観月君たちに向いていたからだろう。
――あ……。
目が合う。
「」
聞こえなくとも口の動きがよめたから、周りの注目は承知で手を降った。
幸い熱狂的な見学者はそこまでいない。騒がれてはいるが、基本は部活のついでの生徒だったり、試合が始まる時間にあわせて来る者の方が多いものだ。ましてや青学側じゃなし。
「あとでね」
挨拶や着替えに部室棟にはけていくルドルフ一行に合図して、さて今日はどこで見ようかと場所を探した。
不二に配慮するつもりはなかったがそれなりに考えていたのだ。(真ん中ら辺にするかとか遠くから見るかとか)
ただその場所を見つけるよりも先に、
「当てが外れたか」
「――乾」
やっかいなのにつかまってしまう。
「俺ならアップの外周を済ませてるから問題ない……にしてもルドルフの奴等が気にかけているからもしやと思ったが……やはりお前か」
「いつから有名人――」
「不二のせいかな、まあルドルフ組の力も大きいが青学テニス部の認知度に関係する可能性は……」
「……いや、そんな確率いらないから」
「安心しろ、手塚は鈍い。大石は多少胃を痛めているが毎度だしたかさんや二年以下は気付いてないよ」
「何に?」
「不二がお前をやたら気にかけて、今日も応援に招いたが――は取り合わず木更津を見に来たことに」
――鋭い……というかある意味であってる……
「体調不良がのせいとはいわないよ」
「そう言われても困るな、うん」
「だが不二もよみづらいところこそあれど年相応に青少年なんだ」
「つまり?」
「お前に原因がある確率八十パーセント」
「……あの」
「冗談だ。でも気をつかってお見舞いにでも行って……ついでにここのところの不調の原因でも確かめてくれると嬉しいかな」
「……それが狙いですか」
抗議に口を開く以前に、乾は視線をそらせてそちらを指すように、
「菊丸の見たてだと」
明らかにこちらを見ていた――そして目を逸らした彼をチラ見して
「も一枚かんでるみたいだからな」
否定する気力ごと根こそぎ持って行ってしまう。
かといって素直に不二家におしかけていくほど単純ではないし、優しくもない。
「あっちゃんもいるし、今日は無理。残念ながら敵陣営の応援にきたの」
まあたまには見ないこともないけど乾だろうが不二や菊丸だろうが相手次第だよ?
重ねて告げると、「ふむ……幼馴染みは俺にもいるんだが、の場合兄みたいな感じなのか」と妙に納得された。わけの分からなさにきく。
「そのこころは?」
「ブラコン気味。……なんてね」
手で軽く、今度はルドルフ陣営の視線をしらせて、さり気なく茶目っけのある元クラスメイトは去っていく。
こないだ久々に話して新しいデータへの意欲でも呼び覚ましてしまったのだろう。
乾の場合は不二が近寄って来たときより理由は明瞭だ。
――放っておこう。
教えてもらった、声をかけたそうにしているダブルスの元に向かった。
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