【SIDE裕太】
「え?兄貴、休みなんですか」
「風邪だって。珍しい」
聞かされたことの内容にもびっくりさせられたけれど、知らせに来たのが先輩だったことにも、実はちょっと[裏]を感じた。
深読みのしすぎか?
――でも多分木更津先輩だよなあ。
さりげなく面倒見がよい人だから、気遣ってくれたんだと思う。
先輩は多分この先も嫌でも応援にくるし、気まずくなったら困るのは木更津先輩だ。
――てか……それより、俺って現金なのかな。
失恋したくせに、もう全然平気だった。
木更津先輩相手だから諦めたのは本当だし、すぐ後はさすがにきつかったと思う。
でもあれから十日以上たって、かえって彼女と話す機会が増えて……今でも相変わらず可愛い人だと思うのに、前とは意味が違ってた。
予想以上に子供っぽい彼女に……
――やっぱ夢みてたんだよな。
それが証拠に笑っちゃえるくらいに、普通に戻ってる。
気持ちのあまりの変わりっぷりに、自分で自分に幻滅しそうだ。
(て言ってもふられた直後みたいに観月さんに無言の心配とかされるのはも
うごめんだ。あの人…他人のことに敏感すぎる)
「あ、っと……なら一つ頼んでいいですか」
「何?」
「兄貴に渡す予定だったもんがあって……」
ルドの近くのショップでセールがあったときに買わされた品物の数々がロッカーにある。いちいちアイツに渡しにいくくらいなら、学校で渡してもらった方がらくだ。
説明して頼むと先輩は快く引き受けてくれた。
「でも、お家には帰らないの?」
「……あ。あいつのことだから移るから帰ってくるなって言われるし」
『風邪うつしちゃうだろ。帰ってこないほうがいいよ』と、いかにも兄貴がいいそうな台詞が声つきで脳裏に浮かんで、げっそりした。
想像のおかげでため息をもらしたせいか、
「仲良しだ」
はははと軽く笑われてしまった。
恥ずかしいのなんのって……。
「けど…半分本気半分嫌がらせで言いそう」
ぽつりともらす先輩に、あれ?と思う。
「兄貴とは……」
わりと仲が良いんですかとはきけなかったが……。
――探りいれてるみたいに思われたくねぇし。
だけど、多分そうなんだろう。
そうでもなければ、あのイイ性格(猫かぶりともいう)がばれてるはずはない。
…♪……
…と、タイミングよく携帯がなった。
まだ練習前だし携帯とタオル持って借りてる部屋に行こうとしてたから、いいんだけど、相手は予想にたがわず兄だ。
ディスプレイに、さっき以上のため息をふきかけて――先輩に断ってから、通話ボタンを押す。
途端に、
『やあ裕太』
のんきな(ただし、いつもよりかすれた)声が聞こえた。
「何風邪なんかひいてんだよ。荷物、先輩に頼むからな」
『え……』
「先輩。お前のクラスだろ」
『……あ、来てるんだね』
「そりゃ木更津先輩いるし」
『そっか』
そっかと告げたとき兄貴の声が自棄にしんみりしていたから、思わず「そっかじゃねーよ。何、自己完結してんだ?」と突っ込みをいれそうになる。
正直なところ、妙な兄貴の動揺に首を傾げたい。
確信はないけど、多分、動揺だ。
コイツは焦ってなきゃ不自然な沈黙なんか起こさないだろうから。
――なんだ?この人となんかあったか?
先輩は、ん?と、視線に怪訝な顔をしたが、何を勘違いしたか、「待ってるよ」と、携帯の向こう、兄貴との会話の続きを促してくれた。
『裕太?』
「兄貴、熱でわいてんじゃ……」
『平気平気。それより状況は飲めたから、に僕の携帯教えといてよ』
「は?…」
『他の子が五月蠅いし。朝練後うけとりたいから』
「じゃなくて……いいのかよ」
女には漏れるとまずいから、連絡先は教えない方針……じゃなかったのか?
だが気にする事なくやつは「なら平気だろ?」とあっさり言う。
――もしかして?
いや万が一とは思う。思うが――
思わず俺は、相変わらずクエスチョンマークの飛び交った先輩の方をむく。
いつもと同じように不可思議そうな、穏やかな視線がかえってきた。
ありえない……とは思う。
だが面白い想像だったから信じこんで見てもいい……気がする……
――兄貴が先輩をきにかけてるとか……
反対に先輩なら有り得るかなと思うんだけれど。
なぜって、いつだか木更津先輩に先輩の好みをきいたときの答え「中性的な
顔の綺麗系」が頭にこびりついていたし、そのときは、「観月さんか」と納得してたものの、よく考えれば、兄貴も条件に入ると思うから。
「「どうかした?」」
じろじろみてたせいで先輩から――ついでに黙ってたからか兄貴から二重音声でツッコミが入れられて慌てた。
想像でしかないうえ、第一先輩は木更津先輩がいるのに……。
それでも、兄と彼女は悪くない組み合わせじゃないか?と、そう……一度浮かんだ考えはそうは消えてくれず、俺は思わず不審な忍び笑いをもらした。
誰かと誰かをくっつけてみるなんて頭の中だけでもなかったのに何をしてるんだか。
――やっぱもう平気ってことだよなぁ。
吹っ切れた自分に安心しながら先輩に荷物を渡して、ここからはテニスの時間。
兄貴とやれないのは悔しいがまた機会はある。
公式はもちろん家族なんだから。
先輩をきにかけた切っ掛けの言葉(「家族だといろいろあるけど一緒にできていいよね」)が浮かんだ。
あの時は気付かなかったけれど、彼女はきっと木更津先輩たち(双子の彼ら)の間で、ごく普通に二人を見て育って……きっと思うところがあったに違いない。
今更だが、気付いてみれば、彼女は自分にとっての『特別』ではなく――
――だけどマジにいい人だから。
兄貴も気に入ってるならうまくいけばいいよな……なんて、期待をしたりもするのだ。心のどこかで、自分の願望半分に。
やっぱり、目の前でずれたことを言うこの人は可愛いし、見ていて面白い(と失礼だけと思う)
柳沢先輩がいうように、一筋縄でいかないうえ、恋愛の対象に、向かないとしても。
――こういう姉貴ならありかも……。
妹みたいで、とは思わなかったことにする。
彼女のために。
「…………ま、そもそも、兄貴には無理か」
『何が?』と不機嫌にいう声に、「さっさと寝てろ」と声を返し、携帯を置く。
まさか、本当に本人が知恵熱を出すほど苦しんでいるとは思いもよらず……俺は先輩と、コートに戻っていった。
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