劇場サディズム  
【SIDE

 裕太君にお兄さんの欠席を伝えるなんで、よく考えてみると私がわざわざする理由なかった。
 手持ちぶさただったから引き受けただけ。
 案の定裕太君は少し悔しそうな顔してたけど、あっさり了解して、ついでに頼まれごとをされてしまった。
 控え室で渡された包みは見慣れたスポーツブランドの袋で、受け取りながら確か亮ちゃんの好きなやつだと思い出す。

「荷物渡すのはいいけど、明日、出てこられるの?」

  裕太君のお使い内容は、不二周助に託されて買ったを当人に渡すこと。

「あ、電話が……ちょっといいですか」

「うん」

  タイミングのよい着信は本人だった。
 思わず見てるんじゃないかと疑いたくなる。
 裕太君は私に荷物を預けるといったような説明をした後急に声のトーンをあげた。

「は?――いいのかよ……なら伝えておくけどさ………あ、」

「?」

聞こえ漏れる僅かに掠れた声が笑う。

「仕方ねぇな」
と通話が切れて裕太君が気まずそうにお願いの追加を切り出した。

先輩、すみません。兄貴のやつ、トラぶるのがいやだから朝練後に渡してほしいみたいで……
連絡するから携帯の番号とメアドを教えとけって――あと聞いておけっていうんだけど…
…いいっすか?」

「あ―」

 変な噂になるのもややこしいし、テニス関係のものなら部室のロッカーに置いた方が楽
だよなあ。

「いいよ」

 そういえば裕太君にも教えてなかったなと感慨深く思いながら、きいた番号にメールを
送る。
 しばらくすると試合見せられなくて残念、とふざけた文面を追記した登録完了の
メールがかえってきた。
 いいタイミングでコートの方から声がかかり、私たちは控え室を後にした。

 *        *      *      *      *
 コートでは試合が始まっていた。六角と違い、今日は練習とはいえ試合メインだから見ていて楽しい。
 ギャラリーもそこそこいるようだ。

「荒れてますね」

「あ、観月君。こんにちは――あっちゃん、だよね」

 挨拶より先、同じ方向に視線が行く。
 ダブルスコートでは早速腕ならしにしてはきつい試合が始まっていた。

 ――珍しい……

 熱くなっているのか、今日の幼なじみは序盤からだいぶ攻めている。
 そう思ったのはどうも観月君も同じようで、ぽつぽつと漏らしていた。

「本来、木更津は、ゲームメイカーで、序盤はボレー中心に技術で対抗するタイプなのですが……何を攻め急いでいるんだ……」

 「パワーに頼ることはないだろうに」という言葉はそのとおりだと、素人めにも理解できた。毎回みているから余計にわかる。
 冷静という、彼のトレンドマークはどこに捨ててきたのか、落ち着きがない。
 試合のスコアでいえば、勝っているのに……なんだか不安にさせる展開だった。

「あの人はまた……いなくても、人の邪魔の原因ばかりつくってくれる……」

「え?」

「何でもありません。……まあ、黄金ペアですから、無理もないといえばそうなのかもしれませんがね。そもそも今日の相手は誰かさんがお休みなお陰でずれたようですし……午後には、木更津君のペースも戻るでしょう」

「ふむ」

「とりあえず、僕も試合なのでこれで……」

 木更津のためにもみていってやってください。
 観月君はそう言い、隣のコートに入っていった。
 どうやら、乾とのシングルス対決のようだ。
 とりあえず、今はあっちゃんの応援をしよう。
 今日、仮に不二がいたとしたって、私はあっちゃんたちを応援するつもりでーーそのためにきたんだから。



 次は不二

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