劇場サディズム  
【SIDE不二兄】

TO :

 件名:例のもの
 おはよう。
 朝練の後、部室棟前で会おう。
 早めにいくから。

 *  *  *  *

 目覚めると同時に打ったメールのせいか、練習の成果はまずますだった。
 体調がいいところをみると、もしかしなくても知恵熱だったんじゃないかなと思う。
 そうこうするうちに、手塚が終了の合図をして、僕は一足先に部室に戻った。

「不二の携帯ナンバーが登録されてる方がよっぽど見つかったらまずいよ」

「そう?」

 これでも配慮したんだけど。そう告げると、一足早く来たは呆れて言った。
 気にならなくないが、番号とメアドを知れたのは偶然だったし、裕太がした。敢えて消す気もない。
 これを運がいいと思う時点でアウトなんだろうか。

「それよりありがとう」

 何せよ徒にここで長居しても意味がない。
 荷物をさっと受け取り、ロッカーにいれて来る。
 擦れ違う、まだ着替えてる面々をうまく交わして戻ると、はまだそこにいた。
 教室には時間差をあけて行くつもりだったから、どうしようかと迷う。
 彼女は気にする様子もなく、僕に先を譲って歩き出してしまう。
 自分でいうのもなんだが僕らは目立つ。同学年はまだしも実態を知らない下級生の憧れの道具になりがちなのだ。
 平穏大好きと公言してやまない神崎からすれば厄介だろうし、昨日朝練後と指定したとき理由も言ったのになかなかどうして、彼女は抜けてるらしい。

「よく考えてみたら菊丸に頼めば良かったんじゃ……」

「裕太がやり辛いからね」

「そっか」

 軽く信じこんで呑気に進んでる。

 ――それだけじゃなくて、僕が話したかったって言ったらどうする?

 からかってると捕らえられても困るから口にはしない。
 その実、後であるだろう英二や乾の追及すら少し楽しみですらある。(もちろんはぐらかすけど)

「でも、迷惑かけちゃったし、何かお礼するよ」

「いやいや別にいいって」

「試合、見せられなかったしね」

 「あっちゃん見に行っただけだし」って言葉はきかなかったふりしていいだろうか。

「特等席で見学でもする?」

「何の罰ゲーム?それ、ルドのスパイと間違えられかねないよ」

「わかった、なら明日。日曜だけどルドルフの見学は?」

「見に行く約束ないけど」

「じゃあ十二時に駅前」

「へ?見に行くの?」

「まさか」

 わざわざオフに敵陣観察をするのは乾だけで十分だ。
 これは思い付き。
 他意は無い。……多分。

「甘いもの。好きなんだって裕太から聞いたから」

「え?」

「――ところで教科書取りに行かなくていいわけ?」

 教室までたどり着いたはいいが、大抵の人の教科書は教室のすぐ外にあるロッカーの中。
 課題がない限り彼女もそうだろう。
 たまたま部活時に英二を教えるんで持ち帰った僕は必要がなかったのだけれど、話をはぐらかして断らせないためにも、一応指摘しておいた。
 は案の定血相をかえて出ていく。

 ――そんなつもりなかったのに何やってるんだ……

 まったく……自分の行動の気紛れに自分であきれる。
 着席して、英語の教科書を広げると……苦いものがこみ上げた。
 無理やり風邪のせいにして、「ま、いいか」と流す。

 ――ただ一瞬休日遊んでもいいかなあと思っただけ。

 裕太とか木更津とか関係なくて……敢えて挑んだり深みにはまる気もなかったのに。

 ――甘いものの店……

 当然探してる余裕があるはずなく――テニスに費やしてきた時間を考えてみれば無理も無いけど――詳しくなんてない。

「姉さんにきくか」

 あの人なら誘導次第で幾らでも話してくれるに違いない。
 授業が始まる。
 あとは、休み時間に何かいいたげにしているをさけてしまえば、断られない。
 その場の思いつきであれど一度誘った手前断られるなんて癪だし。
 天の邪鬼なところがある自分が少し――この展開に満足してる。

 ――仮にNOっていうにせよ、わざわざ携帯にかけざるをえないしね。

 見越してほくそえんだ。
 面倒な感情はすべて排除して……ただ嫌がらせをしたいのだ。
 僕の隣で困惑するその顔や声があれば、あとはどうでもいい。
 周りは関係なかった。



 次は菊丸

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