【SIDE菊丸】
「コート整備の都合上今日午後は筋トレのみ。明日はオフだ」
手塚の宣言に喜んだのはほぼ全員だったと思う。
練習の鬼みたいになってる後輩もさすがに疲れてたのか、小さくガッツポーズなんかしてて……ちょっと可愛く思えたりして。
それに、大会前の調整で一か月以上ぶりの休みだ。
兄貴ばっかで下に兄弟がいない俺としたら、部活の後輩含めて遊ぶのって実はちょっと楽しいし、誰か誘うか?
――ま、指摘されるまで気付かなかったんだけどねん。
そのつっこみいれた主、「本当の弟なんて可愛くても遊んでくれやしないよ」なんて笑ってた不二も風邪から一日で復帰してる。
――折角だから、今回はクラスメイト孝行しようかな?
「て……不二は?」
朝練が終わるとわりとのんびりしてるはずの不二が今日は見当たらない。
クラスにいけば会うからいっか。
そう思ってたら……
「英二、これそこにほうり込んで」
荷物片手に戻ってきた不二が、部室のドアをあけた。
「不二?」
「ごめん、まさかとは思うけど、ちょっと気にかかるから」
しかも、こちらが怪訝に声をかければ、何だか分からないことをいって、また部室を出て行ってしまう。
一瞬とはいえ、結構目立つ言動に、乾は興味をもったみたいに、きらりと目を光らせ……横を走っていかれた越前はびっくりしてた。
ついでにいえば、手塚まで顔をしかめてる(珍しい)。
「なんだ?どうかしたのか」というぼやきと、「……菊丸と喧嘩した確率……」なんていう、毎度の意味のわからない推測をかわして、俺もつられるように部室を出る。
同じクラスだから、目指す場所は当然同じ教室だ。
小走りで階段を抜ければ、少し前を不二と――意外な人物が歩いていた。
――じゃん……
一瞬、声をかけるのが躊躇われた。
前よりはマシな顔で、不二は笑ってたし、神埼もこの間みたいに困惑した表情はしていなかったから。
けど、不二の方は、さっさと俺を見つけてくれた。
教室に入るなり、軽く声をかけてきた。
……その直前入れ替わりに、が、不二に何か言われたらしく、慌てて教室を出て行ったのが気になる……。
結局そのままタイムアウトで(チャイムがなって)詳しいことは聞きそびれてしまった。
* * * *
「ねー不二」
昼休み。
早速朝のことをきく&明日の相談でもしようかと、声をかけたら、開口一番、
「明日なら予定が入ってるから」
……と断られてしまった。
「え、具合まだあんまりよくないとか?」
「まさか。ちょっとした熱程度で僕が休むと思う?」
休んだじゃん。
……とは言わせない妙な迫力でニコニコしているクラスメイトに、この話題にはなるべく触れない方がいいと本能が警告した。
にもかかわらず、爆弾を落してくれるのは、本人で……
「……英二なら詳しいかな」
何やら、ふむふむ……と顎に手をあてた。
(その様が此間練習試合でみた某マネージャーにちょっとだけ似てると思ったがいわない。それこそ殺される……)
「な、にゃに……」
「いや……駄目か。……つくづく僕らって休みと無縁だから、テニス以外になると、ね……」
「あー……と……すっごい久々の休みだもんね」
「そうそう。自分で好きでやってることだけど、疲れてると、こう、時々デートにうつつを抜かしてるクラスの奴に一瞬殺意が沸いたり……してるやつも多いよね。うちの部」
僕はそこまでは思わないけど、英二は?と半分くらい「お前はおもってるんだろう」的な……けど、珍しく馬鹿にするでもなく、純粋に気にしてる感じの発言が飛んできて吃驚した。
この手の話題をふって、不機嫌になられたのは、ついこの間のことだった。
まさか、不二の口から青春真っ只中みたいな話が(噂やら他人のことでも)飛び出てくるとは思いもしなかったのだ。
「…うまく手をまわしてデートしてたりするやつもいるんじゃない?……ほら、おちびとか、相手がすみれちゃん関係者だしさ」
「かえって厳しいと思うよ?」
「そりゃそっか……」
―― 一体どうしちゃった?……てか、これをどうしろって……?
唐突に脳内垂れ流し(脈絡なし)の話を始めてみる不二の癖は相変わらず……とはいえ、乾ではないが前例ナシの事態だ。
不二が恋愛の話?
有り得ない……。
……と、苦笑いをしながら、「あれれ?」と自分で問い返す。
朝方やら、ちょっと前やら……不二の彼女候補に思いをはせてたのは自分じゃなかったか?
少し止まって、いい方向に解釈してみれば、なんのことはない。
――お祭りの気配すらするじゃん……。
恐らくは、『そういう』こと、なのだろう。
問題は多々あるが、それはさておき……にやりと笑みがこぼれる。
――休みの日暇じゃない理由 イコール 「がらみ」ってことでファイナルアンサー?
「英二、気持ち悪いよ」と、ヒドイ突込みをうけたが、無理やり言葉をのみこんで、このままでは埒があかないから「もう一人」の方にきくことにした。
あいにく弁当が食べ終わり次第、不二は借りたい本をみに図書館にいくといってたし、とよく一緒に食べてる女子に自分は受けがいい(恋されてるわけじゃなく、ふっつーに仲良しだから、居心地よし、だ。)
――善は急げ。
彼女らのいる中庭に姿を現そうと、教室を飛び出たその矢先……
「あ、」
運良く本人が捕まった。
適当なおしゃべり(主にテストの話題)の合間、警戒が解けた頃、自然にきけた。
すると、彼女はあっさり「お礼」のいきさつを話してくれた。(まさか、デートだとはおもってもいなそうではあるが……)
「へえ、『弟君』が不二に連絡するようにって……?ちょっと意外……」
「……うん。って……何?何、その間……。…ええと……妙に意味ありげなんだけど」
――……そりゃ。
弟の裕太君が、彼女を好きで、告ったことはきいてたから、当然の反応。
は知られてると思ってもなかったんだろう。前回、不二のことも、ちょっとからかわれた程度で詳細話してくれなかったし、きっと部外者のはずの俺が知ってたから慌ててるにちがいない。
「あ、ごめん。ちょっと弟君の憧れになってるってルドの連中にききかじっちゃったからさー。って意外ともてんのな、年下とかに」
きいたのは不二本人と佐伯から。
でもそこは、友情のために伏せとく。
本当は年下だけじゃない、ってとこももちろん……今俺からは言わない。
言葉の追い討ちに、はうっと言葉につまって、俯いた。
こう見ると意外と可愛い……。
真っ赤じゃん、とおもったことも、秘密にしておく。
本当はからかいたいところではあるが、色々きけなくなるのは困る……
(……ってのは嘘で、半分以上からかうと不二が怖そうだから、だけど。兎に角我慢)
「いや、でも、裕太君のは……結構キャラ誤解されてたっていうか……ね」
「あ、……って結構ギャップあるから、わかるかも。もしかしてさ、年上っぽく、憧れられてた感じ?」
ありえる、と思って、きいてみる。
よく知ってるクラスメイトから言わせてもらえれば、って、よくも悪くも普通。
可愛いとこはあるし、ぼけっとしてるとことしっかりしてるところ両方持ってて……でも他の子と比べて突出はしていない。
ただ……なんかこう一人っ子どくどく空気があって、
――ちょっとだけ、おちびに似てるかも……?
説明しづらいけど、ミステリアスというか。わかりづらいというか。
無意識に構いたくなるような、そんな感じだ。
俺からしても、クラスメートン中でも、女っぽくなくて、さらりとしてて……友達するのにいい位置なんだけど、そこまで慣れもしなくて……不思議な奴だから、「たまに部活に顔を見せる先輩の幼馴染」なんかだったら、ちょっとクるものがあるかもしれない。
それくらい、近づかなきゃ分からないとこが多い。
――で……近づいてかえって気にする不二の方が……ずっと……珍しいって……。
不二の周りはやたら綺麗どころ(下級生にかぎってで、同学年はそこまでこないで手塚とかにいくとはいえ)ばっかだから、意外な選択なのだ。
しかも最初不二が気にし始めた理由こそ、弟の、好きになった子だから、って……どうしようもないから余計……。
まあ、こうなってくると、弟君にはとっては正解だったかもしれない。
趣味が悪いとはいわないが、改めて、やめておいて無難だったとは思う。
「勿体ないにゃー。けど、って騙して大人しくしてんの、無理そうだもんね」
「そういうこと。まあ……いい子だよね裕太君」
「確かに勿体無いっていえばそうかも」、って……随分あっさりいってくれる。弟君にはどのみち、脈もなかったらしい。
「断ったんだけどむしろ仲良くなっちゃったっていうか、結局憧れの先輩って柄じゃないし私……。今は本当ふっつーに仲良しなんだ」
なんて言ってが笑ってるのを見てると、ふと、練習試合のときのチームメイトの弟の笑ってる顔が思い出されて、妙に親近感を抱いた。
多分あの弟君も俺と同じようなことを、に言われて、苦笑してるんだろう。それでもよい程度に、もうに未練がないような……そんな気がする。こんな彼女を見てると。
――なら不二は……?
不二相手ならは悪くない選択って思うのは、どうしてか。
弟を気にする必要なさそうだし、もう動いてもいいんじゃないかな?と思いついてから、ふと明日の話を考えた。
不二のデートの相手が、彼女なら……
――お節介の必要はないかな?
そう思うと、代わりにふってわいてくるのは、好奇心だ。
「、今週の日曜って暇?……てか、明日」
「あ……」
――やっぱり、そうなんじゃ……。
面白いほど凍ってる、この表情。
取り繕えない原因は、やはり、あのチームメイトに違いない。
「何で?菊丸、そんなこときくの?」
聞き返すってどうよ?
思いつつ、手を頭の後ろに組んで応える。
「んーなんでもにゃいー」
含みを持たせていったから、が面白くなさそうにしてた。
でも、彼女は、俺に訪ねられたこと、不二に言わないんだろうって確信してる。
――なーんだ……なんとかなりそうじゃん。
そうとなれば、それこそ、こちとら健全な男子生徒。
友人に先を越されるのは、面白くない。
心配はやめて、適当に誤魔化しながら、また普段の会話に戻る。
後ろからきた彼女の友人をまきこんで……ちょっとしたクラスメイトらしい、先生の悪口とか、部活の馬鹿話とか。
まとまってから、不二の方に問い詰めようと、ちゃっかり時期を計算していた俺は、だからこそその後の展開を思いもしなかった。
まさか奥手以前に不二が、恋愛音痴だとは思いもしなかったのだ。
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