劇場サディズム   閑話
【SIDE佐伯】

 夜中の電話はろくなことがない。
 女の子みたいに長々とかけたり頻繁にかかってきたりしない分、余計、厄介ごとの確率が高いから。
 電話ではなくメールでも、相手が同じならば同じこと……

 *  *  *  *
FROM:不二
 件名:質問
 デートするならどこ?

 予想通り、どうしようもない内容だったメールに、ため息を漏らす。

「意味のわからないメールしてこられても困る」

 その場で、携帯から直接相手に伝えると、向こう側で、相手も『やっぱり?』と息をついた。

「……で、何?あれ」

 この幼馴染は、人を直接頼るような真似はしない。
 ただ、周囲が思うよりずっと俺にとって不二の言動は分かりやすいものだった。
 止む無く自分を選んで連絡してきたのなら、知りたいことがある。
 恐らく、俺しか知らないか……俺ならば知れるような内容について。
 ついでに『デート』と正面切って言うなら、きっと本人はデートのつもりはない。
 特にこんなふうに思わせぶりなメッセージなら、あくまで不二のポーズだ。

 ――本当は、それこそデート、にしたいくせに……
 ……天の邪鬼が。

 敢えて『デート』といって見せる辺り、相手はどうせあの子なんだろう。
 自分にお鉢が回ってきたのは、必要な情報をこっそり得ようとして由美子さんに気取られたか。もっと踏み込んだ話をしたいから。
 自慢にはならないが不二の周りで彼女がいるのは俺くらいだし、手塚や乾に相談するのは酷だ。

「……それで?彼女を連れ出す約束をしたはいいが、場所の選択に迷っているって?」

 ――というか、あの木更津ツインズの幼馴染と、不二の相手があの子とは……。
 
 実は、噂の「ちゃん」とは面識があった。
 練習試合の帰りに見て、びっくりしたんだ。
 亮からよく聞いていた――特に淳が可愛がってる従妹は、裕太の元片思いの相手で……今の不二の(たぶん)気にかけてる子……
 それがまさか自分も見たことのある子だとは思わなかった(本当に「見たことある」レベルの知り合いだったけど)。
 失礼だけど前に見たときは、遠目からだったし、物凄く綺麗とか……美人だと思わなかったから、面食いな不二の趣向と結びつかなかったのだ。
 由美子さん筆頭に不二の『趣味』は綺麗どころが多く、レベルが高い。
 ……中身の趣味とずれてるせいで、彼女にはならなくても、不二の取り巻きに綺麗系が示し合わせたようにくるのもその辺が影響してると思う。
 それに対して、練習試合のとき見た彼女は、まあ普通に可愛い感じで……外見が気に入りましたといわれてもそれなりに納得は出来るが、強烈な印象はなかった。
 でも、その後、木更津たちや不二から聞いた話はどれもこれも面白かったし、ひねてる不二の意地悪に堕ちなかった辺りが興味深い。

 ――不二、お前の好きな子はやっぱり変わってるんだよ……

 今思えば菊丸にふざけて言った『俺も狙おうかな』発言は、俺に余裕があれば、半分本気になってたかもしれない。
 ちょっとつついてみたい衝動に駆られた。(まあ、不二がややこしいからしないが)

「でもデートって……いきさつは分かったけど――」

『お礼にお茶だけって味気無いし、折角の休日だから、付き合わせようと思っただけだよ』

 不二は状況を解説してくれるが、「付き合わせる」と言い切る辺りの傲慢さ……わかってるんだろうか。
 ……正直、眉唾ものだ。

「からかってるように思われるぞ」

『とっくに思われてるからいいんだ。今回はお礼のついでだし、に『デートしよう』っていったわけじゃないから本当に《ついで》に遊ぶつもり』

 だから、からかってることにはならない?

 ――確かにそれはそうかもしれない……。

 でも、そう言いながらも不二は、どこかでもう認めてるんだろう。
 自分の中では、デートになってもいいということを言葉の端々で認めているそぶりがある。
 俺にわざわざかけてくるくらいだから、すくなくとも明日一日は「付き合いたい」のだろう。

 ――あんまり自分を追い詰めるようなことしなきゃいいのにな。

 溜め息をごまかして「わかった」と答える。

「そうだな、相手をよく知りたいなら遊園地とかなんだろうけど、メインがお礼の《お茶》なら時間を考えて、映画か……」

 ビリヤードといいかけてやめる。
 不二はよく一緒にやるし上手いが彼女が動くのが得意か分からない。
 ――……ていうかな。単純に、「女の子は体調もあるのよ!」って彼女に怒られた記憶が浮かんだだけなんだよ……

「後はのんびりウィンドーショッピングでもすればいいだろ?」

『無難か』

 納得してるところを見ると、どうやらあいつの中でも同じ結論に至っていたらしい。
 ついでに、そのままでは面白くないから、経験者として口出しを一つ。

「恋愛ものはやめとけよ。俳優に掻っ攫われて会話にならなかったり、かえって気まずい。……ちょっとでも好きな子相手にはオススメしないな」

 最後はからかいもかねて、付け足すと……「嫌味なやつ」と、漏らされた。
 ――けどな、不二、ひねくれたやつよりはマシだと思うぜ。
 言ってもどうしようもないから言わず、代わりに、「まあ頑張れ」と適当に応援しておく。

 よく考えてみれば形がどうあれ、不二に変に塞ぎこまれるよりいい。

 ――彼女は運が悪いがあきらめてもらおう。

 亮にすまないな、と唱えながら、幾つか引き出しておいた彼女の情報を伝える。(別に不二のためじゃなくて、好奇心できいておいたことを教えた)
 不二は興味なさそうに流してたわりに、何か考えている様子だった。
 (余計彼女には気の毒だ……) 
 「ありがとう」と切られたコールに、ほっとして、ベッドに寝そべる。
 と、ふと……たまには彼女孝行してやるかという気になってくる。
 別れたのか、別れてないのか分からない――自称喧嘩別れ中のアイツに、悪戯みたいなメールを打って反応を待つ。

SUB:明後日部活休み
 次、いつ会う?

 素直に誘ってよね、と切れる可愛げのない可愛い顔を浮かべて、思わず笑みを零す。
 こういうところは俺も不二と同類……
 褒められたもんじゃないかもしれない。



 一番そつなく彼女作ってそう……かつ きらさない人だと思うよ、サエさん。
 ちなみに書く気にもならんくらい普通の 普通のカップルかと……
 でも、やっぱりなんだかんだ、似た者幼馴染な傾向もあり。
 次、デート編

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