【SIDE不二周助】
グロイ映像に、横でびくりと揺れる。そんな彼女に笑みがこぼれそうになって何とか気持ちを引き締めた。
これでは、嫌がらせだと思われても仕方ないかもしれない。
何せ最初から情報は手に入れていたのだ。
ホラーが苦手で、ミステリーは好き。
映画と決めた瞬間に浮かんだのは、姉さんの会話で、内容は大方把握していた(そして予想はあたっている)
あまりにびくびくと動くものだから、さすがに迷惑になりかねないと思って、その手を握る。
静かにするよう人差し指で合図したけれど、は怖くてそれどころではないらしい。
抵抗がなかったので、そのまま画面を見ていた。
すぐまた犯人が動き、次の死体へ……目が引き寄せられる。
……と、その瞬間、耐え切れないのか、の指が踊った。
無意識にこちらに――画面をみないよう、動いてくる頭を、とっさに引き寄せる。
軽く……
「……っ」
なのに、反応は上等で、音ですら嫌なのだろう。肩に限りなく近いところで、目を瞑ってる。
吐息が……耳にかかり、背中に彼女とは別の悪寒が走る。
快楽に近いそれは、ある種拷問だったが、すぐに猟奇的なシーンはさり、手が緩まる。
気まずいのか、遠慮がちになる指先をきゅっと握って、閉じかけた目に、「もういいよ」と教えてあげた。
半分は本当。半分は嘘……。
画面の血糊は消えたが、代わってほとんど肌蹴てしまったドレスの女と、彼女にもたれかかるように倒れこむ男が移り、なんとも隠微な空気をかもし出す。
きっと、彼女は、話の筋はともかく見たくないだろう。
――でも、ちょっといたずらしてみたい……
飛び込んだ画像に、びくりと揺れる小指の合間を撫でて、セクハラかな?と少し悩んだ。
振り払えずに、戸惑う彼女の心情がちょっとした震えからダイレクトに伝わるようだった。
われながら、悪趣味だ……。
でも、それ以上に満たされた気分になっている。
私服で同い年の子と出かけるなんて、本当にめったにないことで、学校の僕のイメージとは結びつかないかもしれない。それに緊張もしてないから、は確実に「なれてる」と踏んでくれることだろう。
――けれど、こんな面倒なこと他相手には決してしない自信がある……
妙な確信だ。
幕がしまり、ライトがつくまで密かな優越に浸っていた。
もう否定はしようもない。
は特別だ。
たとえ……どういう意味であれ。
わりと好き、嫌いじゃない、そんな感じだと思った。
「不二、趣味悪い……面白かったけど、知ってたでしょ?私が苦手そうだって」
「さあ?」
切り替えしたら、頭にくるとぼやかれる。
フォローする気はさらさらない。
楽な会話に身をゆだねるのも悪くはない気がした。
本当にそのときはそう思っていたのだ。
それでも……
「後で本屋よっていい?」
「いいよ。何か出てるの?」
「漫画。……残念ながら暇人だから読むの」
「うわ、根に持ってる?、心狭いよ」
「怖いの寝られなくならないようにするのには、ちょうどいいってだけです。誰のせい?」
「僕」
ぽんぽん戻ってくる会話のテンポだったり……予定調和な、楽しいデートみたいな会話に、われながら嫌気が指すのも事実だった。
単純に裕太のことがあるから、後ろめたいのかもしれない、からかっていた延長なのかどうか自分でも確信できないからかもしれない……と、そのときは思ったのだ。
けれど……。
「なんか、腐れ縁の幼馴染みたい。……あっちゃん以上に容赦ないよ、不二」
刹那、ようやく思い知るのは、自分の想い。
――今、馴れ合いたくない――木更津と同じにされたくないと思ってはなかったか?
つきんとどこかが痛んで、答えを返せなかった。
「あ、ごめん。馴れ馴れしくなりかけたけど、敵だった!うん」
弁解するが照れる理由はお門違いだ。
木更津が大切な相手で、でもきっと恋にはならないというのは何となくわかる。
彼女の表情には、幼馴染……近いけれど、決して焦がれない相手だからこそ、てらいがある。
それと同じように扱ってもらえるのは、光栄なはずだ……
――だから嫉妬じゃない……
でも、そんな木更津と同じにされたくない……。
こういう馴れ合いの会話をして、至近距離にいて――彼女はわらっているのに……何かが足りない。
これならば泣かせた方がまだマシだ。
「どうかした?」
黙りこんだ僕に、は首をかしげる。
無邪気な表情が一番効いた。
すとんと胸に落ちてくる答え。
――そうか……落ち着いてしまう彼女が許せないんだ。
おそらく、自分を……オトコとして、さっきみたいに、意識させたいのだと思う。
――友達にカテゴライズされたくないなんて……ばかばかしい。
でも、傷つけたい、とおもった。
甘やかしたいのよりももっと。
切実に……ただ、彼女が欲しい、と、
手に入れたいのだという、実感だけが残った。
想いもよらないところでの自覚に、その後のことをよく覚えていない。
どうしたらいいのか、いまさらながら分からない。
――遅すぎるって……
これでは僕の方がよっぽどピエロじゃないか。
|