【第二部 インターバルテイスト SIDE YOU】
参ったなぁ。
気になって仕方ないのは何の罠だろう。
騙される前提があっても尚意識してしまう。
――そう……
思い出せば納得できる。
この間、唐突に『確かに増えてる』とあっちゃんが指摘したとき、「何が?」なんて聞かなくとも、私は答えを《知って》た。
……増えていたのは「不二の名前をきく回数」だってこと。
【何はともあれ不用意に近付かないように。不二は馴れ合って楽しいタイプには見えない】
そういったあっちゃんの声が強張っていたことも……。もう分かってる。
――参った……。
もしも、この【予感】が、「ちょっとした好奇心」や「気の迷い」にすぎなかったとしても……。
――あっちゃんが警戒するってことは……「気になる理由」を確かめに近づくことすら、憚られるから。
それほどまでに「あっちゃんの判断」は私にとっては大きなものなのだ。
「盲目的に信じたり、絶対だって思ってるんじゃないから厄介なんだよね……。あっちゃんの言うことは大体《本当だと自分でも思ってること》だから」
結果として、私も納得できることが多くて……早い話、実例が有りすぎて「否」を唱える気が起きないのだ。
例えば、金魚すくいをしない方がいいよ、といわれれば確かに、金魚の世話なんてややこしいこと私はできなくて……。宿題は学校でした方がいいというのも、簡単だからいいやーと投げ出しがちな私の性格を考えれば正論だ、とか。
「しかも、『〜しろ』って絶対言わないんだ。十中八九『した方がいいんじゃない?』って私に聞くの。NOとは言えないだろうことをね」
考えながら口にすれば、目の前の不運にも自分に捕まってしまった人は、嫌そうな顔で聞き返す。
「……なら何故僕に相談するんですか?さん」
ほぼ他人ですよ?と頭を抱えるのは、噂の「私の非常識っぷりが苦手に違いない」観月君だ。
「えーと……」
理由を慌てて考える。
わざわざ学校からダッシュで戻り(不二から逃れてきたとも言う)ルドの校庭、テニスコートまで入り込んで話すのは?
――ダーネが今回は頼りにならず(あっちゃんに同意だろう、あのアヒルは)裕太君には流石に言えず(あれから話してない)赤澤が不在……だから、なんだけど……
「なんていうか、理論付けで、無理やりでも私を説得してくれそうだから、かな?」
「はぁ……。まあそれは容易いことではありますが」
『それこそ木更津君の役目でしょう?』なんて……。
――言わなくても知ってるっての……。
「僕は、またてっきり僕が不二周助に対抗する者だから、といいますか――」
「?」
「……ふう。有体にいって、僕があの人のことを嫌いだから選ばれたんじゃないかと読んでいました」
――嫌いだったのか。
思わぬ情報には心を惹かれるが、つまり――
「残念ながら、その話は私初耳。むしろ観月君と不二に接点があったことも今知った……」
――……というか、そのせいだと断定できるくらい日頃不二に毒でも吐いてるのか?この人……。
と突っ込みたい気持ちもあるが。それは一先ずおいておいて応える。
……と、そんなに驚くことなのか?
疑問符ばかり投げ続ける私を、観月君は「信じられない」とでも言いたそうな――聊か侮蔑(もしくは呆れ?)を含んだ表情を向け、――その後、妙に冷静に事実関係を確認してきた。
「裕太君の試合……それから僕と不二周助の試合には来なかったんですか?」
「試験の手前だったから確か行ってない……っていうか、それより今……」
引っかかったのは何?
不二と観月君の試合?
――いいや、そうじゃない。
「何で、裕太君が出てくるの?」
そう、私は分からなかったのはそこ。
そして、尋ねた結果――
「決まっているでしょう?」
彼は応える。さも当然、といわんばかりに「不二周助は裕太君の兄ですからね」と……。
ついでに、大方のあらましを教えてくれるが、それどころの話ではない。
一つ確実にいえるのは――
――あっちゃんの言うとおりかもしれない……。
あっちゃんの言うとおり、観月君の呆れっぷりをみるに、私が仮に彼を好きになっても上手くいきっこなさそうなのは分かる。そして、それ以上に――
「性格最悪……」
ぽつりと、言葉が漏れた。
「自業自得とはいえ、ヒドイ言われようだ」
嘆く観月君をすかさず訂正。
「不二周助の方が、ね」
心の隙間にくすぶる微かな煙を消すように、何とか一度口を噤み、
「有益な情報をありがとう」
一言だけ足して、帰宅を決意した。
――弟を振ったことと関係は?
あの不二だ。ないはずがない。
わずかに胸が痛む原因から、無理やり眼を背けて……今日だけは、あっちゃんにも会いたくなかった。彼が正しかったとしても。
でも会わないわけにもいかない……。
部活終了(確かめ算の時間)まで、あと数時間。
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