|
放課後捕まえようとしていた相手は、偶然ばったり階段で見つかった。
偶然も何も彼女はさっきの時間の科目の係。
此処を通ることは必須だったから、「待ち伏せてた」ことになるのかもしれない。
「」
呼び止めるのは始めてにおもえた。
……というのも、本当はここでは声をかける予定がなかったから。
ただいるかなと覗いただけだったのに、調子が狂う。
「噂、結構まってたみたいだけど平気?」
平気もへったくれも……面倒を起こす火種をまた蒔いてどうする?
そう思いながらも、彼女が予想より遥かに嫌そうではなかったことに安堵した。
「不二のせいじゃないし、私は……むしろ、今目立って困るというか……」
もっともな意見だ。
仕方なく携帯を指して、
「後で」
「え?」
答えを聞かずにすれ違う。
最初から予告せず、メールか電話でもと思っていたが、何でこうもがらみでは上手くいかないのか。
それすらも楽しいがいただけない。
――好きだから、とかじゃなくて……自分として有り得ないことだらけってだけで、客観的に見てて面白いんだよね……
変化にわくわくするのはテニスだけで十分だと思っていたが、飽き性な自分の性質は何においても変わらないらしかった。
* * * *
部活を早めに切り上げて(不真面目に参加してはいない。ただ手塚に、今日は雨がふりそうだといっただけだ。僕の天気予報は当たるから手塚も疑わなかった)開始直前に送ったメッセージに対する返信を見ようと、携帯を覗いた。
は律儀だ。
――だから、待ってる……。
『放課後、部室側東門で。』
いつも帰るとき、使わない側の門を指定しておいたから、適当に時間をつぶしてくれているだろう。
返信は『なるべく早く。6時回ったら帰るよ』とあった。
「遅い」
「ごめん」
「用件は?」
ご立腹というわけでもないんだろう。
目立たないように、と意識してか、少し早歩きではバス停の方に進みだした。
好都合だったから、横に並ぶ。
「昼休みのこと、乾から聞いたんだ」
「……あ、うん」
途端に小さくなる声。
「お礼でって引っ張りまわしたのは僕なんだから、僕のせいにしなよ」
馬鹿だな。
笑えば、はむっとしたようだった。
「……別にそんな問題もなかったし、あっちゃんも――」
「木更津を理由にしなくてもいいよ」
僕は君がすきだから、とはいえない。
分かった分いえなくなっている。
敏感になりすぎた少女はまた嘘だと……からかっているとうけとってしまうだろう。
「好きだったのかも」という発言に、傷ついた自分と同じように、自分をきにかけつつあった少女を傷つけた記憶がある。あの頃なら自惚れられた……でも今彼女が自分を信用していないことも知ってる。
だからといって、は木更津を好きではない。
――特別な意味では。
「彼氏じゃないってしってる」
目を見開いた彼女に続けて説明する。
「意外?は素直だから言うのに、照れもしないってことはないはずだよ。木更津といても身内みたいに落ち着いてるし、話をだすときだって嫌だった……ソウイウ顔してた」
リアクションの出にくいようで、真っ直ぐな少女は「分かりやすい?」ときいた。
素直な分かえって表情が図りにくいタイプで……観察してた結果わかったんだけど、この場合「僕にとって分かりやすいか?」という問いだととっておく。
軽く頷いてみせた。
「は、幼馴染なのに彼氏と勘違いされるのが嫌なんだ。……あのままだと、可笑しな風に取られる、それも気に食わない。……違う?」
すると、その顔に驚きの色が広がる。
「……ううん違わない」
「だったら、証明すれば?」
「どうやって?」
――かかった。
思わず零れかける笑いを抑えて、役者だなあと自分でも呆れるほど自信たっぷりに応える。
「木更津ほど身内になってなくても、わりとには嫌われてない自信があるんだ」
「……自信過剰」
ぽつりと聞こえた言葉は無視した。
「俺は、を嫌いじゃないし、に嫌われてない……。だからいっそ一日木更津と同じように扱ってみたらどう?」
――あるいはそれ以上に……。
「は?……何それ?」
「それなら木更津が特別じゃない、って分かると思うよ」
「……ちょっ……不二、それじゃ本末転倒だって……」
「そう?」
――いうと思ったよ。
それなら考えがある。
「一日だけ幼馴染だと思えばいい……後はそういう罰ゲームだったことにする。遠慮なしで、罵倒してくれても大笑いしてくれても構わない。は、人見知りのせいで、うちの学校の連中に分かられてないからそういう風に誤解されるんだ。……なら、『普通』を見せてやればいい」
ルドルフの部員と一緒にいるときみたいにね?
言うとは黙り込んだ。
人見知り、という言葉が思いのほかきいているのだろう。
恐らくは、彼女自身も感じている「事実」だからだ。
苦渋の表情に、勝ったな、と思った。
彼女はもう、自分のウィークポイントを考えるのに必死で、本題を刷りかえられている事に気付きやしない。
――使えるものは何でも使わせてもらうよ。
こっちのわがままであっても、善意で協力してあげるかのように言ってきかせる。
納得させるように、目を逸らさないよう努力して(姉さん曰く、男性は嘘をつくとつい真っ直ぐ見られなくなる悪い癖があるらしい)もう一度訴えた。
「何かあれば後で、きちんと女の子たちにも説明する」
一言頷いてくれるなら……後はそのまま「約束」をしてしまえばいい。
律儀な彼女は守るだろう。
「……迷惑かけた分、僕も木更津と同じくらい、紳士に振舞う……それでも駄目?」
駄目押しをもう一つ。
「次の土曜……練習試合は、この学校でやる」
地図を渡す。
「休日、うちの学校じゃないところでなら?」
来るのなら贖罪も篭めて……でも、こちらの純然たる楽しみ含めて、甘やかしてみる。
あの幼馴染と、同じくらい――
――それから、彼とは別の意味合いも含めて……。
「わかった」
は、提案を呑んだ。
「あっちゃんはそんなんじゃなくて腐れ縁で……亮ちゃんも同じくらい大切で……まあ、けどそれと同じくらい弱み握られてるような仲なんだけど」
周りには伝わらない、とぼやいていた。
多少妬けるけれど、知らないより彼らの情報を集めておくに越したことはないし……女子の疑念の抱き方には、個人的に呆れてたから、「なるほど」と返す。
「幼馴染なら、僕にもいるから分かるよ。女子じゃなくてよかったと思うね。仲は悪くないけど、知り合いかってしょっちゅう聞かれる」
「嘘?今でも交流あるの?」
「まあ、テニスやってるし。……神埼も知ってると思うけど?」
「ルドルフ?」
「ううん、六角の佐伯。言ってなかったかな」
「そういえば……なんか聞いたかも」
だから、「同じように、幼馴染扱いできるのか」と、わかっていない彼女は言うけれど、それはどうだろう?
――出来るだろうか?
自分の気持ちに気づいてなかったら出来たかもしれない。
をからかっていたときなら、あるいはもっと前なら……。
――でも、僕は気付いてしまったから……
甘やかせても、きっと……種類は少し違うもの。
今も、歩道側にならないよう入れ替わったり……半ば無意識に、何かしようとしている自分がいる。
甘やかすのと独占欲とは同じだ。
妹でもいれば別だろうが……姉に特に訓練されてないことだし、当然男の幼馴染相手には必要なかったこと。
今だってそうしたい対象なんていない。
ただ一人神埼を覗いては。
――本当は、彼女が木更津たちにお姫様扱いされてたとしてもいいんだ。
そうでなく、反対に、もっと粗雑な扱いを受けていたとしても……。
ただ自分が今、彼女を甘やかしたい。
ヒドイことをした分、単純に、償い半分に優しくしたいと思う。
「ごめん」
バス停につくと思わずポロリと口をついて出た。
「家まで送っていけなくて」と慌てて足すと、は気にしないでくれといった。
でも謝ってるのは、それに対することなんかじゃなくて……
甘やかしたい以上に、彼らとの違うこの気持ちを無理やりでも知らせたい……相反する自分をもてあましてのこと。
――本当のところ、自分が何をしたいか、自分でも分からないのかもしれないんだ……
ただ、その帰り道、別れる場所までの時間が……いつもより確実に短く思えたことだけは紛れもない事実だった。
|