【SIDE 木更津淳】
認めたわけじゃない。
自分の出る筋合いがないと言われてもは僕の妹分で大切な幼馴染みで従妹――
それでも一時的にでも引き下がったのは、片割れのセリフ
「……じゃないならいつまでしばりつける気?」
* * * *
「先輩」
言いづらそうに裕太が声をかけてきた。
その手に握られた携帯電話に嫌な予感がする。
「兄貴が……」
だろうなと思った。
午後からの練習試合に合わせて、集まったばかりのタイミングを考えると、本当にどこからか見張られてるんじゃないかと疑いたくなる。
「わかった」
怪訝な――というより不安そうにこちらを眺めてくる観月に、「ちょっと」と断り、許可を得る。
電話口からのらりくらりとした調子で彼が呼び掛けてくる。
どうやら青学もうちと同じ場所で試合を組んでいるらしい。
ただし午前。そしてそこに……
「が?」
『来てる。だから連絡した』
携帯越しの不二は静かに言う。
「何それ」
不審そうに応じるが、実のところ、不思議と心配はしてなかった。
これ以上踏み込まなくてもよい、そんな予感がする。
それは誰かさん経由でデートの話をきいたからかもしれないし、自ら不二に葉っぱをかけたことに微妙な罪悪感があったからかもしれない。
あのとき釘を指したこともあるし、不二は裕太への気持ちが歯止めになっているだろうから、特にに対してアクションを起こしてはいないだろう。
携帯から聞こえる声色は前とは比べものにならないくらい真摯に響いた。
事情はよくわからないけれど、は、不二と自分を似てると言い、不二はそれをきいて(多分受け入れたくなくて)一日幼馴染ごっこを持ちかけたらしい。
「不二……悪いけど、に何かするようなこと、俺らは有り得ない」
だから、同じようだとがいうなら、その期待を裏切るようなことはしないでほしい。
(悔しいが)が不二を信用しかけてる証だから……とまでは言わなかった。
――教えてやるものか。
ただ、これ以上傷つけるな、と言外に示すだけ。
もうこれ以上煩くならないように――……それから、不二がに抱く思いと、僕ら双子のへの気持ちが別だとほのめかす様に口にする。
――直接、許可するような真似したくない。別にの父でも兄貴でもないが、これでも精一杯の譲歩だ。
電話をかけてくるということは何かあったんだろう。
「何したんだか、聞きたくないんだけど……」
でも一応、と問いかける。
思いのほかに低い声がでたが、自分も……それから相手の方もどうやら冷静なようで……少しほっとした。
『君とおなじことしただけ』
と、不二は答え、
「それで?何をしろと?」
そう、僕は聞き返した。
皮肉めいてしまったかもしれない。
裕太が明らかにびくりと動いて……観月がその様子にあからさまなため息を漏らす。
――この状況でどうかと思う……
だが、言わなくちゃいけないことがある。
『を引き取ってほしい――』
「何で?」
同じ場所で、そのままの時間。
もちろん、引き取っても問題はないし、そのまま帰宅といかないとか、方向が違うとか……裕太もいるし気まずいとか……色々あるだろう。
――でも、多分そういうことじゃなくて……。
何かあったのか、あるいは、不二自身が何か感じたのか。
珍しく言いよどむ彼の沈黙に追い討ちをかけようと――口にする。
「そのポジションは、大切にすべき役どころだよ」
そう。木更津淳というポジションは幼馴染で、兄貴分で、ちょっと過保護な……そんな役目だ。
「――なら、大切にするべきじゃない?」
いいながら、自分を振り返る。
亮に言われて、分かってきたこと――図星だったことを思い返しながら。
『大切だよ』
不二は、きっぱりと、『自分も』と応えた。
『けど君みたいに優しくはできない【好き】だから』
何かしたわけではなく、するかもしれない自分への制御……保険。
それで自分に連絡してきたのだ、と。
――……ああ、そうか……。
「……分かった」
負けただの勝っただのではない。
ただ、すとんと解答が落ちてきた。
それまで理屈では分かってきていたのに、どうしても認められなかった亮の言葉ごと、今は……すんなり理解できてしまう。
「いつまで、(縛り付けるつもり)か……」
たしかに、昨晩亮に言われたことは的を得ている。
【不二の想うように、自分はを想えない】
【大切にすること、泣かせないことが全てで、間違えても捕らわれて熱に浮かされたりはしない】
『頼めるかな?』
聞き返される言葉に、頷いて――
でも言葉は発さず、そのまま裕太に携帯ごとパスした。
素直に答えないのは、最後の嫌がらせだ。
――認めても、素直になんか……渡せない。
……とはいえ、
我がダブルスのパートナー殿と片割れが教えてくれたが彼を選ぶわけが、今ちょっと悔しいけど嬉しくも思い出されてしまうわけで……
――『あっちゃんと似てるけど違うから好き』だなんて……
「……そんなこと、聞いたら許さざるをえないじゃないか」
突き放すのは、最初で最後。
あるいはもう甘やかす役目ごと本当は彼に渡すべきかも知れない(それはもうちょっと先になるだろうし、不本意だけれども)
横で裕太が「はあ?」と叫びをあげているが「マジかよ……」という呆れたような文句ごとスルーする。
観月がぽんっと肩を叩いて、先を促すより少し早く、僕は歩き出した。
「不二に、ひきうけるっていっておいて」
結局……タイミングをはかって、裕太に伝えるのだけれど。
* * * *
『恋じゃないならいつまでしばりつける気?』
傷つけてでも側にいたいなんて、思えやしない。
その役こそ、不二のものなら、仕方ない。
甘んじて譲るべきなのだろうが……ただほんの少し、過保護な兄貴の座には、居座らせてもらうつもりだから……
「手間のかかる妹分なんだ」
何事ですか?と言い出すマネージャーと、意外と心配症なチームメイトに答えを放つ。
前に青学のコートで話したときとは違う、晴れ晴れとした気持ちになって。
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