劇場サディズム   
【SIDE 菊丸】

「不二」

 放課後の教室。
 明らかに気落ちした様子の不二がいた。
 まとう空気が、違う。
 今日は昼はミーティングであまり話してないし、休み時間もなんだかんだで呼び出しとかあって一緒にいなかったけど、見てたから大方の理由は分かる(教室を直前出て行ったとか)

 でも、どうだろう?この落ち込みようは。
 朝練のときは、普通だと思ったのに、その後ずっとこうだったのだろうか。
 
 ――何なの、不二……。
 今さっきもととくに長く話している様子ではなかったくせに。

 機嫌悪いとおりこしてどん底だ。
 表面上は何とか取り繕っている風だったが、付き合いの長さゆえ露呈するものがある。

「どうかした?」

「ちょっと煮詰まっちゃったっていうか」

 近付いて尋ねれば、素直に返事があった。

「え?不二が」

 珍しいことに思わず声が大きくなる。
 理由の大方は理解してたが、原因になった相手――の方は不二ほど気にしていないようにも見えた。
 だからこそ解せない。

 ――朝は、まだ……普通に挨拶してたよな。さっきも、、とくに何てことない顔で教室出て行ったし……。
 どうなんだろ。

「さっきさ……教室いたんだろ?普通に話せばよかったのに……。
 なんか不自然じゃん」

 避けてるとまではいかないが昨日と違いすぎる様子には首もかしげたくなる。
 ちょうどさっき、飲み物かって戻ってきたところにはいたが、不二は何やらおかしな言動のわりに、帰りの挨拶すらしてなかった。
 社交辞令でも、「また明日」程度のこと、笑顔でいってのける不二が、だ。
 それどころか、二人だけだったはずにも関わらず会話がほとんどなかったように見受けられさえした。
 
「どう話してたか分からなくなったんだよね」

 どうしてたっけ?と俺に聞かれても、「普通に」以外何かあるのか分からない。
 ちょっとからかった感じで、不誠実というか――弟君関係うんぬんは正直「どうよ?」と何度も諌めたくなったけれど、他についていえば不二はに対して紳士だったし、彼女も(分からないが勘で言えば多分)不二に悪意は抱いていないようだった。
 そうやって「普通に」話してたと思う。

 ――少なくとも、俺的には、この調子でこれからもっと話すんだろうなって思ってたよ……。

 よく分からないが、何となくお互いに気にかけてる様子もほほえましかったから、黙っておいたのだけれど、「いいなぁ」と思っていたのだ。
 すると、何故か突然不二は机に突っ伏して、

「どうすれば伝わるのか……なんだか何ももう信じてもらえなさそう」

 凹む……と、ため息を漏らした(そんな馬鹿な!)

 いくら全国レベルとはいえ俺らだって学校ライフを愉しんでるわけで……そんな中じゃ、からかわれて怒ってる手塚だの、休み時間寝てて五限に遅れてきた大石だの……なかなか見られない光景にだって幾つかは遭遇している。(超人でないんだから、普通の学生な光景なんてありふれて……はなくともあることにはあるんだ)
 でも、こんな状態の不二は……本当滅多に見られるものじゃない。

「頭いっちゃった?」

 ぽろりともれる悪口手前の、本音にも、

「からかってると思われるんだよね。どうも」

 淡々と声が返ってくるのがかえって怖かった……。

「言えばいーじゃん。好きなら」

「いや……」

 ――いや?違うの……?
 その状態で。それだけ悩んどいて。

「なんか今更で……」

「……そりゃ……」

 ――自業自得だし、弟をふったからって理由で近づいたんじゃ気まずいのは仕方ないだろうよ。
 思うが敢えて追い討ちを欠ける趣味はないので言わない。
 代わりに、一番キツイかもしれないけど正論を口にしてみる。

「でも、伝える他ないっしょ、事情とかズルイとことか全部含めて」

 ――真っ向勝負って選択肢。
 きっとこれだけが打開策だと俺は思う。
 神埼なんて、不二が好きだとしてもはぐらかすか、気付きもしないに違いない。(どうも、からかわれてると思い込んでるのは本当みたいだし……あれだけ迫られて気付いていないのには、昨日もびっくりした。普通にシングルスのがいいとか言う辺りの、あっさりした態度にも……)

「不二はさ、幼馴染みになりたいの?恋人になりたいの?」

「……あ」

 その言葉に、ようやく気付いたように目をむく。
 明らかに一つ不思議だったのはそれ。
 意識させようとしてるのか、ただ謝罪の延長なのか……絶対前者なのに、コイツときたらはっきりしないから。
 シンプルに聞いてみた。

 ……と、不二はばつが悪そうに、「後ろの方かな?」と、俺にきく。(だから、きかれても困るってさ!)
 でも、それならば……

「見てて思ったんだけど、――伝えないで相手からいわせるなんて卑怯。高を括ってると奪われるよ」

 明らかな両思いとまでいかない。
 ぶっちゃけ俺には、神埼が不二をそこまで大好きと言い切れる自信はなかった。
 ただ、それくらいでひるむ相手じゃなかったはずだ。
 不二という奴は。

 付き合いが長くても、わかんないとこある。
 今とか今日の可笑しな行動とか……
 さっきも、俺の気のせいじゃなければ、ルドルフに行って欲しくないのか、腕掴んで引き止めてたっぽくもあったし。(……すぐ何してんだおれ?みたいな顔で止めたし、はっきり会話があったわけでもないので、なんともいいかねるんだよ、うん)

 ――けどな……

 反対に、今ですらはっきり分かることもあるから。

「もやもやしてるくらいなら、掻っ攫えば?動かないのは不二の悪い癖だ」

 意外と白黒つけられないでいる自分が、嫌いなんだよ。不二は。
 スパンと決めれば動くはずだ。
 嗾けるでもなく、そういったけれど、最終的に決めるのはこいつ自身。
 そして、不二は、さっきの一言から固まってる。

 ――【高をくくってると横からもってかれる】って……そんなに聞いたのか?あるいは【卑怯】な自分に気付いたか。

 ともあれ、これで何か、考えるのはいい傾向だ。
 きっと不二は動くだろう。

 ――いっそ弟君に宣戦布告してでも、手に入れればいい。

 まさか、そこまでアクティブな行動は……期待できないと思いながらも、俺は無神経に、「がんばれよ〜」と笑った。
 そんな役回りと分かっていたから、後で結果でもきいて、ひやかしてやろうなんてこっそり考えながら……結局、急にかかってくる電話・それに焦って「どうしよう?」と言い出す不二の後押しに……努めるのだ。
 事情は把握できかねていたけれど。



 ラスト手前の閑話。ゴール目前

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