【SIDE 】
不二とはあれっきり会っていないから、何やら勝手に自己完結してしまった彼の狙いは、結局わからないままだ。
――よく考えてたらそもそもなんでこうなってるんだろ……。
発端は裕太君にきにいられたこと、告白を断ったこと。
それから、不二にからかわれて、謝られて、関わって、誘われて……噂に、ごっこ遊びに、勝手に傷ついたような顔をされて……。
――目まぐるしい。
それにしても昨日のは反則だ。
気付かなかった自分もどうかと思うが、私がルドと同じ調子でいても周りの目は変わらない。
マイペースを保ってるだけに無傷で噂関係なく不二とも周囲とも話せただろう。
――少し疎遠にはなったかもしれないけど、だからって……
あっちゃんみたいに接触したり、周りにふりまく意味がわからない。
代りに確認したのは――
――あっちゃんとは似てても全然違う、すきって気持ち……
昨日のあれがまだからかいの延長なら質が悪すぎた。でもそれならば嬉嬉として話しかけるはずの不二が、今いない。
それどころか今日の不二は挨拶もぼーっとしていてて不安になるくらいだったから……――さすがに分かる。
からかうつもりはないのだろう。
何となく笑顔ふりまいてる不二だから、興味ないものをとことん放っておく私が理解出来なかったのか?はたまた、その癖執着してるあっちゃんを不可思議に思ったか?
とにかく理由は分からないが、不二は私に興味を持った――そしてきっとそのことに対する、ためし期間が終わったのだ。
この先自分と会話しない方向に進むつもりなのだとしたら寂しいし、疑問も残るけれど……おそらく、あちらから話しかけてこないのは「たまたま」「今日だけ」ではない。
――なんか避けられてる?
不二は人をかわすのがうまい。
あからさまで無い程度に会話をそらすくらいしてくれるだろう。今後もきっと。
でも、落胆したまま時間は過ぎていく……
不二にからまれがちだった休み時間も、気付けば終わり、苦手な授業の時間さえあっという間に感じた。
――これ以上変な風にどきどきしないですむんだから。
だから気にしないようにしよう、と。
鞄を手に取る。
……と、見慣れた影が映った。
* * * * *
見慣れた影はあろうことか先生だった。
運が悪いにも程がある。
――何故今日に限って委員会があるかなぁ。
しかも軽い仕事だといいながら提出物つきの、ややこしい仕事だ。
そのうえ、専用ノートを引き渡してから教室に戻ると、何故か不二が一人でいた。
「――あ」
日直だろうかそれともただ忘れものでもとりに来たのか。
何となく話しかけづらくて、口をつぐむ。
――二人なのに無視も難しいし……気にせずクラスメイトモード、でいいのかな?
思えば、喧嘩でも失恋でもないのだ。
つとめて普通に呼びかけた。
「これから部活?」
「あ、うん」
不二は、「そういえば……」とぼやいて、目を逸らした。
視線の先の黒板には、日直として不二と、陸上部期待のエースとして有名な斜め前の席の女子の名前がある。
彼女の方は、多分もう練習に行ってしまったのだろう。
「日直ならかわろうか?」
切っ掛けもあって、いざ話しかけてしまうと気安さが戻った。
避けられていたかもしれないことを忘れて提案が口をついてでる。
「私今日は練習終わってからの待ち合わせだから」
……というよりも、むしろ時間を潰したい理由が一つあったので、仕事があるならちょうどよかったのだ。
何せ最近ルドルフときたら観月が秘密の特訓とやらをしはじめたらしく、部外者が入るには憚られる部分がある。
なら見に行かなければいいだけの話なのだが、貸し借りしてるCDと漫画を交換する約束がある以上止むを得ない。
――さっきまで、話しかけていいのかさえ迷ってたのに、我ながらすっごい現金だなぁ……。
それでは悪いと不二が言い出しても、手伝うだけ手伝おうとすら思えてくる。
もう前のときのようにからかわれないと分かっているからこそ、かもしれない。
「――」
「ん?」
呼び止められて、再び視線を不二に戻す。
少しだけ焦って見えた(気のせいかもしれないけど)
――試合のときも、別行動してたし、手塚にそろそろ怒られてそうとか?
ならば急いでいても可笑しくない。
取り合えず間を持たせるためにも「遠慮しなくてもいいよ」と呼びかけてみた。
……だが、
「あっちの練習見に行くんだ?」
「えー……と」
返った声は予想もつかない内容で……
「それとも、デート?……違うよね」
――まさかあっちゃんとのこと、勘違いしてたり……
しないか……?
妙に不二の目が真剣だったから、「特別だった?」ときかれた、この間を思い出して……ふと不安になる。
勘違いしてないところで私と不二はどうという関係でもないけど、ソウイウ次元でなく「幼馴染は違うと分かる」といってくれた不二にそう思いなおされるのは嫌だった。
「日直じゃないの?」
「……日付見て。明日だろ?」
「あ……」
そうか。
と、話が一度それるにはそれるのだけれど……不二は、その間ですら、瞳を逸らさず凝視するから――
正直なところ面食らってしまった。
「違う……けど……」
急に取られた手首に、かっと顔が熱くなる。
もうからかっているわけではないのだろう。
状況から考えても、分かる。
でも……
――これじゃまるで……
「行かないでよ」
お願い、された。
されてしまった。
懇願に近い、眉根を顰めた表情でそんなことを言われたら、動けないではないか。
――反則のうえに……わけがわからない。
心底こまって、周囲を見るも、誰も通りかかるはずがなかった。
「別に明日でもいいんだけど。今日行かなくても――」
完敗のつもりで、口にする答え。
なのに、何故か相手はむっとした顔で、急に「なんで行かないの?」なんていってくれるし、会話が成り立っているのだろうか。
――…だから、意味わかんないって……。
からかわれてるのだとしたら、なんでまた……となるが、どうもこれは、それ以前の問題のような気がする。
菊丸にでも問いただす?
……ううん……多分駄目。不二が何か話しているとは思えない。
――こういう場合は……
さっき不二にも(多分)連想されたばかりで微妙にはばかられるが、それしか方法がない。
こういうときだからこそ、の幼馴染。
そういうポジションなのだ。木更津淳は、にとって……。
結局何かを言いよどんだ挙句「引き止めてごめん」と。ぽつりともらした不二が手を離した。
私はその掴まれた熱に後ろ髪を引かれながらも彼を目指す。
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