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「で……?」
おめおめ良く来られたものだ。
そう言いたいらしい観月につかまり、練習コートの手前で確保されてしまった。
「……だから、不二と何を話したのか聞こうかと」
「馬鹿ですか、貴女は」
折角たどり着いたはいいが、何でだか、姿を見るなりやってきたのはだーねでも幼馴染でもなく、彼らより少しばかり距離のあるこの人は、私から事情を聞き出し、どうやら脳内で話をすすめているようだった。
(この人の中じゃ、話は)どうなってるんだろう?
首をかしげていると、ますます深いため息をつかれてしまう。
――どうでもいいけど、やたらこの人にため息をもらさせてるような気がするんですが……。
問題を持ち込むなという理論はわかるが、所詮あっちゃんにとっては、他人事だ。
であるからして、練習中ならまだしも終わってからなら構わないと思っていたのだが……(事実待っていたところ、わざわざストップしてまで駆けつけてきただけなのだ、このマネージャーが……)
お小言を待つように、静かに口を噤んでいたら、
「何でわからないんですか……貴女は」
追加の嫌味を貰った。
今更ながら、だーねやあっちゃんが彼を薦めなかった原因が分かる。
――私相手じゃ、観月さんの神経がもたないって本当っぽいよなぁ。
今でさえこれだけ問題視されてるのだ。
これでは、(観月の顔が好みだといったときは、まだ彼女持ちとは知らなかったわけだが)仮に彼女がいなくても、言い寄るだけで悲劇になりそうな気がする。とてもとても。
……などなど。
こうしてぼーっと考えこんでしまう今すら、きっと彼を苛立たせているのだと分かるのだけれど、もうどうしていいか分からないから仕方ない。
「本能の赴くままに動きすぎます」
「そうかな?」
「恋愛の相談を、実のお兄さんにしますか?したらきまずいでしょう?」
兄弟はいないから、分からないが、何となく想像する。
そして、すぐ結論にいたった。
――あっちゃんが亮ちゃんにそういうことを相談する場面なんて想像がつかない……
「……なるほど……」
「同じですよ」
あっちゃんからしても聞きづらい、ということか。
――……それにしても、自分のこの相談は、そういったカテゴリーに入っているのか……?
正直なところ、もう分からないし、不二自体がからかってるのか何なのか分からないのだからどうしようもないと思う。
「さん、あなたは微妙な心境がわかってなさすぎる。不二の味方するつもりは毛頭ありませんが……」
今はやめておきなさいと、観月さんは締めくくった。
けれど、他に行くあてがないのだ。
周囲の女子は幼馴染と聞くだけですぐにあっちゃんを好きだと思い込んでくれちゃうような調子だし、そうでなくとも今から不二に近づく羽目に陥った理由から説明をするのは正直ややこしい。
――状況を何となく知ってる悪友その1はそもそも興味がないことに、耳を貸すタイプでもないし。
だーねにも、これ以上いうと心配かけちゃいそうで……。
だが、一人でどうこうできるとも思えなかった。
――自分がどうの以前に、今回ばかりは不二が分からなさすぎて……本当にもう……本当に……
「……手詰まりなんだよ」
さり気ない面倒見もよさをチームメイトのオマケとして私に発揮してくれた観月さんは、「悩みはさておき、練習が終わったら話くらいきいてあげてもいいですし……」と優しく突き放して戻っていった。
でも、これ以上迷惑をかけるのはどうかと(だーねの困惑と同じような表情が見て取れたから)思い、それは避けたいところ。
「どうしよう……」
私は黙りこみ……あっちゃんたちにも分からないよう静かに、残りの十数分を、その場で見学に徹した。
観月さんもそれを許してくれるようだったから。
* * * *
そうして過ぎた練習の後、思わぬ人物が近づいてきた。
出来るだけ不二の件は話すつもりのなかった彼……こともあろうに(ある意味で事件の発端でもある)裕太君が何やら携帯とスポーツバック片手に、声をかけてくれたのだが……
「木更津先輩と何かありましたか?」
「――ううん――どちらかというと………」
お兄さんと……とはいえず黙り込む。
と、どうやら裕太君は何か気付いたように……急に「やっぱマジなのかよ」とぼやいた。
同じタイミングで片手の携帯から声が漏れる。
通話の……最中だったのだと気付くのと、その声に思い当たるのとはわずかな差。
逃げ出そうとする私を、教室での不二と似た少し冷たい手が引き止めた。
正確には違う。
足を止めさせたのは、携帯からもれた声。
『――、もらっていい?』
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