【その続き…… SIDE YOU】
「気付いてなかったんだ」
幼馴染は「やっぱり」と、当然そうに言った。
* * * *
部室を覗くと観月君がこちらをちらちら見てきた。
先ほどの――部活前のことでよほど馬鹿だと認識されたらしい。
あっちゃんに向かって首を竦ませ、嘆かわしいといわんばかりな仕草を見せながら、私のいるドアの方を指差す。
「待たれてますよ」
親切にも知らせてくれたようだが、オマケとばかりに呟かれた「どうしようもないですね」がちょっとひっかかる。
更に、観月君は軽く肩を叩いて何ごとか呟いたんだけれど……どうせろくでもないことだろう。
――まあいいか。
素直にお礼を言って、少し横にずれる。入ってくる部員はいないが、帰る人もいるのでここに立っていると邪魔になるのだ。
結局、待つ間もなくあっちゃんは用意をおえて出てきた。
「だーねは?」
隣に、毎度おなじみの顔が見当たらない。
同室だし断った方がよいんじゃ?と尋ねると
「毎度突き合わせる気?」
呆れた声が返ってきた。
――確かに。
本当は、正直なところ、今あっちゃんと一対一になるのは勘弁願いたい気分。
――だって、どう考えても怒ってるオーラを放ってる……。
とはいえ、彼の言うことはごもっともなので大人しく頷いて、すたすたと歩き出す幼馴染の後に続いた。
* * * *
ルドルフには自動販売機のコーナーにアイスがあって、青学にないものだから私は密かに狙っていた。
ばれていたのだろう。連れて行かれたのは正にそこで、気前のよい幼馴染み(今日限定かもだけど)は私の分まで百円玉を投入してくれた。
ちゃりんと小気味よい音を立てて銀色の玉は落ちて行く。
「、チョコでいい?」
「うん」
流石のベストチョイス。
チップいりのショコラには誘われていたから、ありがたく受け取る。
本人も、たまにはいっか〜とサイダー味を片手にとった。
「…………」
いざ「裕太君が不二の兄弟だって教えてくれてもよかったのに」と言うとなると……なかなか言葉に詰まるものだ。
あまりに困っていたせいだろう。
「不二のこと?」
上手く話をつなげてくれた。
不機嫌ばりばり口調なのでありがたさ薄れるが、それ以上に気になるのは……
「――って……もしや、あっちゃん、知ってたの?あの二人が兄弟だって」
「当然。不二周助なんてテニスをしてて知らないやつの方が少ないからね。裕太だって嫌でも注目されるし」
自分が思うより世間が狭いのか、不二が特殊なのか。
話を整理すれば、そもそも裕太君が兄を煙たく思うのもそれだけ「不二周助」が有名だから、ということらしい。
――つまりそれくらい……
「うまいんだ?」
「そうだな。――見た目だけでなくて騒がれる実力があることは間違えないと思うけど?」
――馬鹿な……。
普段の、ふざけた調子からは想像が着かない。
それならば是非見てみたい。
でもまあ、今はそう流暢に構えてる場合でもなさそう。
「近づかない方がいいって、だから言ったのに」と、ぼやく幼馴染殿の説教をどう乗り切るかが課題だ。
「本人から聞いたわけでもないから、なんとも言えないけど、が余分に構われてるとしたら裕太がらみだろうな。……不二は必要以上に弟に構いたがる傾向があるし」
「ああ、観月君のこと?」
――それは、半分自業自得じゃないの?
続けようと、口を開こうとしたが、はっとする。
――つまり、私は裕太君を誑かした「自業自得」で不二に構われてるってこと?
事実がどうあれ、不二には観月君と同じような類のものとして映ってるのだろう。
あっちゃんは力強く頷いた。
――特に観月君は嫌いじゃないけど、そこまでえげつない行動、私にはできないんですが……。
「そう、も同じように思われてるんだろ。勘違いされてるんじゃない?――だから、これ以上……」
「うん」
――なんだ……。過保護でもなんでもないじゃないか?
これは、あっちゃんの言い分が正しい。
不二は、ちょっとずれてるから、十分ありえるのだ。
「不二に厄介な因縁つけられるのは癪。今度ははっきり言うよ」
「それがいい。近寄らないよう注意すれば、引き下がらないタイプでもないだろ?」
ただ本当のところ、胸は痛んでる。
「本当は、少し……不二と話すのは楽しかったんだけどな」
ぽつりと漏らした一言のせい?
あっちゃんは、ぽんと頭を叩いていった。
いつもなら落ち着くその動作ですら、元気になれないのは、きっとこの先不二の「お芝居」をみる憂鬱のせいだろう。
そう、思いこむ。
――でも……
「なんか自分、ふがいないよ……」
たとえ話すようになって、不二の表裏激しい性格をみたとはいえ……それだけで安心するなんて。
――それ以前に、裕太君とのこと、妙な誤解されちゃう程度なんだ……。不二の、私に対する認識って……
それが、なんだか悔しい。例え消極的に話につきあってた身としても。。
。
あっちゃんからは、だから言ったのに、という声は、もうなかった。
代わりの「まあだから。……何もなかったし」といったどうしようもないコメントはあったし、それに大分慰められたのだけれど。
「手のかかる妹分だね」
「……なら、あんま甘やかさないでよ」
「言っても聞かなかっただろ」
「…………」
ええ、そのとおり。
だからこそ、頭にくるのだ。
――あまり、強くでられたもんじゃないな……
やはり、不二にはかかわらない方向で行こう。
そう決意して、あっちゃんと別れた。
いっそ、寮まで着いていって赤澤あたりに馬鹿にされたいところだけれど、だーねやあっちゃんが心配するだろうし。
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