劇場サディズム  【予告して】
【SIDE 菊丸】

「あれ?なんか不二、顔色あんまよくないじゃん。平気?」

「大丈夫。朝早かったからだれてるんだ」

 【質問】  言われても信じられないのはなぜでしょう?
 【答え】   そもそもだれては見えないから。

 これで「気のせいじゃない?」と答えられたら、まあいいかと流すけど、不二らしくもなく「だれてる」なんて認めてみせる辺りかえって怪しい。
 ていうか直感でしかないけど怪しい。

 ――でもさ、俺の直感って当たるもんね。
今日一日、目をはなさないようにしようと心に決めた。
 *        *      *      *

「でさ、そしたらアイツ、俺のが可愛いとかいいだして――目茶苦茶腹立つ。可愛いのは見掛けだけかよ、とか。……あ、不二なら可愛いより綺麗系のがいいか。
 ――てかきいてる?」

「まあそれなりにきいてるよ」

 言いながら俺は買って来たパンを、不二はお弁当をむさぼる。
 毎回思うが本当羨ましいよなあ。兄弟が多いうえ下だからか、やたら手抜きなんだ、うちは。
 そんなことを考えて、自分こそ注意散漫になっていると、横から、「ただその前に気になることがあるんだけど」と追加項目がよこされた。

「昼休み、たまには屋上で食べるのはいいとして」

「【いいとして】」

「……彼女との痴話喧嘩報告も毎度だから許すとして」

「……【として】」

 ――げ……
 何となく風向きがよろしくない。非常に嫌な予感がする。外だからとか関係なく……こう段々と冷たい空気が……。

「なんでそんなにさっきから、そういう話題ふってくるの?」

「そう…いう、って?」

「声震えてるし」

「はは、それはまあ【いいとして】」

 不二の口調で誤魔化してもみるが

「そうだね、【いいとして】。で?」

 軽く流された。

「なんでやたらと恋愛だの女だのそっち方面のネタに走るわけ?」

 ――やばい。

 気付かれるはまだしも、どうやら自分は友人の機嫌を大きく損ねたようだ。
  自分が危機察知能力が高いと称される理由の一つは、青学一怒らせてはいけない相手――この不二の様子を悟れるからなのだが。

 ――回避できてなきゃ意味ないじゃん。

 このままでは口をきいてもらえないどころか練習の相手を……死ぬ手前ぎりぎりまでさせられる。
 気持ちを一気に切り換える。
 素直に今のうち吐いた方が数倍賢い。

「んっとね何か悩んでる風だったのと……」

「可愛いふりでいっても無駄だから」

 ――き、厳しい……
 ちょこっとだけ、「ぶりっこ」とやらをしてみたが、不二には通用しようもないか。

「英二」

「あ―もうっ!んなふうに言わなくたっていーだろ。……それに託つけて聞きたかったんです」

「だから何を?」

 ずばり。

「好きな子でもできたのか?って」

「え」

 そんないかにもハっとしました、って顔されても困る。
 が、気にもなってたんだ。本当に。

 ――だって最近不二、なーんか変なんだよね。

 ボーっとしてると思えば、妙に怖い顔してることもあるし。かとおもえば、やたら楽しそうだったり。
 そのうえ、あまり眠れてもいなさそうだ(顔色本当悪いのな)

 ――きになるじゃん。それに……

「なんか噂でもきいた?」

 即座に、不二はカウンター。
 ――うわー、むしろ、どうでもよさそう……
 だが、これくらいで引き下がるわけにもいかない(いつもなら煙にまかれてお終いだけど、頑張るもんね)

 ――……こんな滅多にない機会生かさないのは馬鹿っしょ。

 もう一つ聞きたいことがある。

「ただの勘。けどさぁ、そういや不二、最近と仲良くない?」

 これこれ。これが二つ目。一つ目の補足。
 ――ぶっちゃけのこと好きとか?
 下世話にも思うのは、これまた【勘】だ。
 不二は即否定した。

「……いや」

「【いや】?」

「あ、うん。からかうとわりと楽しくはあるけど、それだけだよ。それには裕太の――」

「弟君の?」

 ――うーん……と。
 少し止めようかなと、思わなくもない。
 っていっても本人どこか上の空のまま話を続けてるし、止めようがないけど、なんか雲行きがよろしくないような…………

 不二は斜め上を見ながら、思考の小道に入ったのか、静かに口を開いた。
 俺に聞かれてる意識があるかすら危うい(気がする)。

 ――あー……これ、不二の癖だと思うんだにゃ。


 考えこむと、不二は適当に話を進めるのだ。大抵考えてる箇所箇所、唐突にキーワードだけ口走って、頷いたりする。でもこっちの話にあわないわけじゃないし、こっちもまきこんでくれるから、不自然とまではいかないのが神秘だ。
 ただ、いきなり「なるほどね」と頷いては、関係ない話をしてた手塚にびびられてり大石の胃を傷つけたりしてるけど。(本人は気にしてない模様だ。すごい)
 ま、不二の場合普段感情が読めにくいから、俺としちゃ多少思考を垂れ流してもらった方が助かるくらいなんだけどにゃ。
 
 ……とまあ、それはさておき……

「そう裕太のこと、ふった子だから」

 「は?へ?」

 ――そ、そんな重要なことは、もらしちゃだめじゃ……
 きいていいものか迷う間に、話が進んでいってしまうのもある意味仕方ないが、ちょっとまて!といいたい。

「だから好きになりようもないし」

 ――……てかさ……それ、知ってて近付いてんなら……不二ってすっごい、たち悪いんじゃ……??
 アスファルトに置いた缶の音がやたらと罪悪感を煽る(正直あんまり聞きたくなかった)
 それより問題なのは、「でも、何もする気ないよ」とかいってるコイツだ。

――だってさ、そのわりに、親密じゃん。

 仮に「弟をふった女」との付き合いだと考えると、どうにも不自然だ。
 実際ここのところ不二はを気にかけてると思う。話す回数がふえてるし……他にも思い当たる節はある。
 例えば日直ちゃんとやるのはこいつの性格上当然だが、山田のかわりに、あえて数学係を引き受けるなんて、有り得ない。
 ――面倒大嫌いなくせして。
 そればかりかやたら笑顔(女子向きな適当ってより、おちびとか弟君見てにやってしてるあっちな?)をに向けたのも見た。
 言ってみれば、「タラシ」行動オンパレードだった。

「ありがとう英二」

「え?」

「ちょっとをからかおうとしたせいだとおもうんだよね。今日夢見が悪くて」

 ――……。
 まて……。
 つまり、弟君がふられたとしってて……で、それをダシにからかおうとした?……………で、罪悪感で調子が悪くなった、ということなのだろうか。
 
「話したらすっきりしたかも。まあ、あっちは気付いてなかったみたいだし、気付かれても別に怒りそうもないし。――勿論今から何かしたりしないよ」

「えーと……」

 その何もする気がないのは、こうして俺に話が出来てる時点で本当なんだろう。不二の行動パターンからすれば分かる。
 ――だから、の心配はしてないって……。そうじゃなくって……

「あのさ」

 コイツは気づいてないのだろうか。
 確かに、それはヒドイことにはならない程度のお遊びだったのかもしれない。は馬鹿じゃないし、ミーハーな類でもないから、不二にほれちゃったり〜な展開もなさそうだし。(個人的に下世話で悪いけど、ってイメージとして手塚とか大石のがあってそうなんだよね。優等生な印象)
 それはいい。

 ――てか、不二、まさか……

「何?」

 指摘すべきか、躊躇したのが悪かったのだろうか。 
 自己完結を終えて、もうこれ以上何か言ってくれるなといわんばかりに、不二がむしゃくしゃしたような顔を向けたところでタイムアップ。

 きんこーん かんこーん

 チャイムがなった。
 五時間目の予鈴だ。

「行こう」

「あ」

 階段を駆け下りる不二に、だから言えなかった。
 まさか放課後、その「ちょっとした悪戯」が綺麗に、まとまって、いやーなかんじの実をつけてくれることになろうとは……。

 に悪いとおもった?好きになりえない?ちょっとからかっただけで罪悪感?
 そんなすごくヒドイことしようとしてたとか?……?
 わからないけど、でも……

 ――不二、なんか、それってさあ……。

 好きと嫌いは、表と裏……
 俺の直感は当る。
  不二は多分知らない。自分がを意識しはじめてることを。

 




久々すぎて難しい菊……。多分直感の方が悟るのが早い。

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