【SIDE 不二兄】
英二に、僕がを好きだと思われたのは心外だった。
――そりゃ思ってたよりいい子だったよ。
何せ最初の印象が悪すぎたのだ。
からかってはいたし、好かれたら面白いとは思っていた。
でもそれで「好き」に繋がる方が異常だ。
「不二が素で興味もってんの初めて見た」
英二の言葉を否定はしないが。
「……意識してないから普通に話せるんじゃないかな?」
そう。例えあんな夢の後でも。
そのまま英二とは、ドアの前で別れて、ロッカーに向う。
教科書を全て机の中に入れてる英二と違って、一度廊下側のロッカーまで取りに行かないとならないのだ。
かといって、全て中に入れておくと、誰かが借りていってしまう。
――本当困るよな。
始業のチャイムがなった。
同時にあわてて階段をのぼってきた少女が一人。
「あ」
「?」
偶発的に二人きりというのはどういう策略か。
さっきまで横にいた英二は消え、他のクラスメートは既に着席してるんだろう。それがなんだか憎憎しい。
「そうか。、係?」
「まあ」
歯切れの悪い返事の後、すっと目が逸らされた。
――え?
照れを隠すにしてはそっけなさすぎる。
軽い衝撃をうける。
ふと朝部活のせいもあったが、挨拶すらしてないな、と気付いた。
――拗ねてるとか?
あり得ない。
自分への興味を煽った事実はあっても、それにのる彼女ではないと知ってる。
「あの、――」
「先生来たよ」
見れば確かに廊下の向こう。それらしき影はあったが、慌てるほどの距離じゃない。
――分かり安すぎるよ……
スタスタと教室に入っていく少女は明らかに僕から逃げてる。
【不自然な無視なら意味は二つ】
姉さんがいつだか酔いながら押しつけたてくれたことを、浮かべる。
――相手に憤ってるか、相手に恋してるか。
後者は……まずない。
それなら?
「ばれたかな……」
裕太のこと。
特にばれたからどうということはない。少しだけヤヤコシイだけのはず……。
ただどうにも引っ掛かる理由があるとすれば――
「英二のせいかな」
おかしな事をいいだすから気にかかるのだ。あるいは朝のせいか。
らしくもなく、彼女を気にかけている。
* * * *
それから次の休み時間も機会は与えられず……用事がないにも関わらず、話せなかった僕はイラついた。
「」
「…………」
放課後、昼休みの好奇心なぞ既に忘れたような英二に声をかけ、教室に残る。部活が始まるほんの少し前に、彼女を掴まえた。
つい最近同じように向き直ったはずの記憶が遠い。状況はかなり変わってしまった。
「僕を避けてる理由……いえない?」
「さあ。心当たりでもあるの?」
帰り支度をしているは、一見いつもどおりだったが、無機質だからこそ伝わってくる怒りに気おされた。
何より僕の方をちらりとも見ない。
ここに至って確信。
これはもう申し開きを待つというより……
――完全に、理解してしまってる顔、その上で軽蔑してる……?
裕太をふって観月をタイプだなんて言うから、自分のセンサーに反応した。
――だから近付いた……
そんな、こちらの意地の悪い観察はばれてしまったのだろう。
近付いた切っ掛けは、どう切り取っても不適切すぎた。
――ふった相手の兄が翌日からいきなり話しかけてくるなんて……
警戒してしかるべきだ。
――嫌がらせ、のつもりだった?
それもまた嘘ではない。けれど違う気もする。
――例えば英二は……?なんて言ってた?
「好きだから」
釣られて口にした。
――だから?
そんな風に言って、どうなる?
不意にいつもの調子が戻ってきた。
「――ていったらどうする?」
からかうように、覗き込む。
他のクラスメイトがいないのは分かっていた。
ただ廊下のざわめきはある程度あり、彼女はそれを気にかけた。
「……やっぱり」
小さく吐き出される冷めた調子の言葉に、
「どうかな」
気を取り直して笑う。
直ぐに納得されてしまうのも――微妙な気分になる自分は相当な天邪鬼だ。
「からかうのには向かない人もいるよ?」
それは自分のこと。
からかわれるのには向かない。
「うん」
分かるから頷く。
「でも本気かもしれない」
からかう方が向いているのだ。
――英二のやつも、僕をからかうなんて早いんだよ。
「もわりと性格悪いよね」
本当に知らなかった?
このからかい癖を。
……遠まわしにきく。
「知ってるからこそ――裕太のことも気付いたからこそ、怒ってるんだろう?」と。
自分でもどうしようもないなぁと思いつつ、言って、一歩一歩……さり気なく距離を詰めた。
女の子は煩いし直ぐよってくるか、逃げるかどちらかなんだけど、は動かないのが面白かった。
触れる手前ぎりぎりでも、そのままだと、かえってこちらが誘われるような錯覚を覚える。
「目立つことしないなら気にしないんでしょ?」
突如むっとして、一歩だけ退く辺りもいやじゃない。
意識してるというより慣れてない。
もっともそういう子も多いし、純粋だから〜だの、意地っ張りだから〜で恋愛が出来るのなら何人も恋人が出来ていていいと思う。つまるところ、そういう性格だからとかじゃなくて……
――……はだから……。
だから、敢えて気配ることなく、踏み込める距離がある。
躊躇いもなく、つかむその手がわりと細かったり……近づくと華奢な肩に吃驚させられたりもするが。
目をそむけ気難しい顔をしている彼女は、悪くはない。
ただ、まさか――
「好きだったのかも……」
彼女の口からそんな言葉がこぼれるとは予想もつかず……
「は?」
思わずぼやいた「?」に、立て続けに、
「って言ったらどうする?」
などといわれた日には……。
――オマケに、鞄を持って、既に退散の構え……?
もう、なすすべもなく……その背中を見送る他なかった。
触れていた指先は、熱を逃がしたが――他の人のぬくもりが消えた今でも伝えてくるものがある。
――……指、震えてた……?
興味深い台詞の向こう側、彼女が「照れ」からでも、「仕返し」でもなく、本気で怖がっていたことに気付いてしまったのだ。
それから、いつもなら「そうか」で終わるところ、「もし本当なら……」とこっそり思った自分にも。
「……」
想像したくないことがある。
認められないことがある。
もしや自分は、罪悪感でも感じてるのだろうか?
それとも――
「有り得ない……」
呟いた声が信じがたいほど頼りなく響いた。
――今更好きになったら……?――
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